第2話 様子がおかしい冬野さん①

今日の朝から冬野さんの様子がおかしい。授業中でも関係なくずっと僕を睨みつけてくる。


───やばい……超怖い。出来る限り冬野さんを視界に入れないよう頑張っているのだが

横目に入るだけでも彼女が睨んできているのが分かるほどにものすごい威圧を感じてしまう。


「冬野この問題の答え分かるか?」


今は数学の授業の最中であり、先生が冬野さんを当てた。冬野さんは前を向く。


ナイス先生と僕は思った。


「はい?」と棘のある口調で言い先生を睨みつけ黙り込む冬野さん。


先生はその圧にやられてしまったのかすぐさま別の人を当ててしまった。


すると冬野さんはまた僕を睨みつけてきた。


何やってんの先生、この人授業中によそ見してるんですよどうして注意しないんですか───。僕は先生にそう念を送ったが先生は冬野さんの方を全く見ない。これ絶対わざとだ……。


でも何でこんなに睨んでくるんだ。僕何かしたっけ?もしかして昨日助けた事が気に食わなかったのか。色々考えた僕が彼女を怒らせた理由が見つからない。強いて言うなら昨日のことぐらいだ。もしかして知り合いだったんじゃないかと僕は頭を悩ませた。


休み時間になり僕はすぐに教室を出て隣のクラスにい唯一の友達を呼んだ。


「優馬助けてくれ」


「どうした和樹そんな青ざめた顔して」


そう言い僕に近づいてくる男。

│国賀 優馬くにがみ ゆうま中学からの友達だ。


「氷の女王に殺されそうなんだ」と僕は優馬に訴えた。


「えっ───何したんだお前?」と優馬。


僕はその経緯を話すと……。


優馬は笑いながら「めちゃくちゃ理不尽だな」と言った。


「笑い事じゃないんだよ。授業中ずっとだ───ずっと睨まれてるんだ。授業に全く集中出来ない」


「お前授業真面目に聞いてた事ないだろ」とツッコミを入れてくる優馬。


「それはそうだけど……」


今、それは関係ないだろ。


「とにかく悩んでるんだ。このままだと冬野さん恐怖症になる」


「冬野さん恐怖症って……とりあえず冬野さんと話しかけてみろよ。もしかしたらお前が思ってるような事じゃ無いかもしれねぇぞ」と優馬。


話しかける……確かにそれは考えてなかった。


「ありがと優馬そうしてみるよ」


僕はそう言い優馬と別れた。教室に戻った瞬間、冬野さんが僕を睨んでくる。

クラスのみんながひそひそと「あいつ何したんだ」と言い笑っている。


話しかける、話しかけるぞ……。


僕は冬野さんへとゆっくり近づく。


───その時、授業が始まるチャイムが鳴った。僕は席に座った。正直に言うと安心してしまった。


話しかけれなかった……。

でもチャイムは仕方ないよね授業が始まるんだし。多分チャイムが鳴っていなくても話しかけれなかっただろう。


───つ、次の休み時間こそ……。



授業の終わりのチャイムがなった。何故か時間の流れが早かった気がする……。

冬野さんはこの授業でも相変わらず睨んできていた。さっきよりも威圧感が増しており

相当機嫌が悪いらしい。


話しかけるぞ……。僕は息を飲み覚悟を決め冬野さんの方を向いた。


「ふ、冬野さん……」


そう話しかけると冬野さんは瞬時に僕から目を逸らした。


「……」


えっ、む、無視……。僕は心に相当なダメージを受けた。相当勇気を出したのだから当然だ。


いやもう一回だ。


「ね、ねぇ冬野さんずっと僕の方見てたけど……。ど、どうかした?」


僕は必死に笑顔を崩さないよう顔に力を入れる。


しばらく沈黙が続く……。この沈黙は僕にとって耐え難いものだった。


すると冬野さんがため息を吐き口を開いた。


「別にあなたを見ていたわけじゃないわ」と吐き捨てるように言う冬野さん。


う、嘘だろ……僕の勘違いだったのか?

───確かに横目で見ただけでちゃんと確認してないけど……。もしそうだとしたらめちゃくちゃ恥ずかしい。


本当かどうか確認したかったが冬野さんがそっぽ向いてしまったので話しを続けられなかった。


───だがその後の授業で冬野さんが睨んでくることは無くなった。心へのダメージは半端なかったがずっと睨まれるよりはましだ。


授業が終わり下校の時間になった。

昨日はすぐに教室を出た冬野さんが席に座ったままだ。帰る準備は済んでいるのに

何でだと疑問になったが考えはしなかった。


さ、帰ろ……。僕はカバンを持ち席を立った。


すると「待ちなさい」と棘のある声が聞こえた。


え、冬野……さん?


冬野さんは僕の腕をガッチリ掴んで離さない。


な、何されるのんだ……。僕は恐怖を感じた。


教室からクラスメイとがぞろぞろ出て行く。


冬野さんは僕を睨んだまま何も話さない。


こ、殺される……。ほんとにそう思うほどに今の冬野さんは不気味だ。


───そうして教室から人がいなくなり僕と冬野さんだけが残った。静かになった教室で冬野さんと二人きり僕は息を呑み恐る恐る彼女に話しかける。


「……ふ、冬野さんどうしたの?」


そう言うと冬野さんはハッとした顔をし掴んでいた腕を離した。そして顔を俯き何故かもじもじし始めた。


「あ、えっと……その……立花くん」といつもより少し高く棘のない優しい声が冬野さんの口からでた。

───冬野さんからだ。僕はこの状況が読めず頭がこんがらがった。


そうして冬野さんは席から立ち上がった。相変わらず顔はうつ伏せたままで表情が見えない。冬野さんから次の言葉でず二人の間で静寂が漂う。この間が僕はすごくむず痒かったので僕は冬野さんに話しかける事にした。


「冬野さん、昨日あれから大丈夫だった?」

「昨日助けてくれてありがとう」と冬野さんが言った。


完全に被ってしまった。すると冬野さんがハッと顔を上げた。僕と冬野さんはバッチリ目が合いお互いに固まってしまう。その時見えた彼女の顔は真っ赤になっており驚いたからか大きく見開く瞳。その瞳にいつもの威圧感は無かった。


───お互いにハッとなり目を逸らす。


冬野さんあんな顔できるんだ……かわいい。いや違うとりあえず……。


「ごめん」

「ごめんなさい」


またしても被ってしまう。

「あぁ〜また被ったぁ〜」と真っ赤になった顔を隠し唸る冬野さん。僕も少し恥ずかしくなり顔が熱くなっているのがわかった。


どうしよ、僕引き止めたの冬野さんだし彼女の話を聞こう。


「……ふ、冬野さんどうぞ」


僕がそう言うと冬野さんは息を整え口を開いた。


「それじゃあ。えっと……立花くん、昨日助けてくれてありがとう後言うの遅れてごめんなさい」


そう言い冬野さんは頭を下げた。


「……とりあえず冬野さん頭を上げて」


冬野さんは申し訳なさそうに頭を上げる。


もしかしてこれを言いたくてずっと僕の方見てたのかな……。僕はそう思った。


「あれから大丈夫だった?」


「うん、立花くんのおかげで……」


「それなら良かったよ」


僕は冬野さんにそう言い微笑んだ。


すると冬野さんは拍子抜けたような顔をした。


「怒らないの……?」


「怒る?そんな事しないけど……」


逆にこの状況で怒る奴は居ないと思うけどなぁ……。


すると冬野さんは安心したような顔をした。


「昨日助けてもらったのにお礼も言わず逃げるように帰っちゃったから……今日立花くんを見てたのもそれを気にしてたからで……」と冬野さん。


「やっぱりそれで見てたんだ……」


あ、声に出ちゃった……。


「あ、えっと……それは……ご、ごめんなさい!」


りんご並みに顔を真っ赤にしてあたふたする冬野さん。


そんな彼女を見ていると何だか面白くて笑ってしまった。


「わ、笑ないでよ……!」と全く棘のない声で恥ずかしそうに言う冬野さん。


「ごめん……でも気にしなくて良いよ。昨日のことも」


「あ、ありがとう……」と冬野さん。


すると冬野さんがまだ何か言いたそうな顔をした。


「……」


だが少しして「今日は引き止めごめんね。それじゃあ私帰るよ」という冬野さんが言った。


多分彼女が言いたかったのはそんな事では無いとすぐに分かったが僕は彼女に合わせることにした。


「別に良いよ、それじゃ……」


彼女に合わせるつもりだったが僕は言い切る事が出来なかった。僕とすれ違う冬野さんの顔がすごく寂しそうに見えたから。

もしかして……


「冬野さん」


僕は振り返り彼女を呼び止める。


「また『明日』ね」


僕がそう言うと冬野さんは目を輝かせた後少し黙り「うん!また明日」と笑みを浮かべながら言い嬉しそうに教室を出た。


冬野さんが教室を出たあと僕は疲れからか崩れるようにして椅子に座った。


冬野さん多分話し相手が欲しいんじゃないか僕は何となくそんな気がした。どうやら合っていたみたいだ。


何だ笑顔できるじゃん……。それにめちゃくちゃ可愛かったなぁ。


僕の中で冬野さんの印象ががらっと変わった日だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る