学校一塩対応で有名な美少女を助けたら自分にだけデレてくれるようになった

シュミ

第一章

第1話 学校一塩対応な彼女

桜の散るこの季節。

僕、立花 和樹たちばなかずきは高二となった。


春休み中見事なまでに昼夜逆転していた僕はものすごく気分が悪い。

そんな感じで新しくなったクラスでいると一人の女子が話しかけてきた。


「よっ、ぼっち!」


聞き覚えのある声が聞こえ僕は振り返る。


「何だお前か……」僕はあからさまに残念という声で言った。


「何だとは何だ。せっかくぼっちしてる和樹に話しかけてあげたのに」


頬膨らませ嘘っぽく怒る彼女。


亜麻色の髪を肩にかからないくらいに伸ばし表情がころころ変わるおおきな瞳。そんな彼女、姫島 綾香ひめじまあやかは僕の幼なじみだ。そこそこ容姿が良く性格も良いので結構モテているらしい。だいぶ前からよく遊んでいたが僕は綾香にそういう感情を持ったことは無い。


「別にぼっちじゃない。一人が好きなだけだ」


これは痩せ我慢とかではなく本当のことだ。誰かといると気を使わなければならない

のであまり好きでは無い。


「もぉー意地張っちゃってぇ」


そう言いながら僕をつついてくる綾香。


「意地とかじゃないんだが……」


「ふ〜ん。まっ、そういう事にしてあげる」とニヤリ顔でそう言う綾香。


本当なんだけどなぁ。と思ったがこれ以上言っても同じなので諦めた。

まさかこいつと同じクラスなるとは……。

別に綾香が嫌いなわけでは無いがこのニヤリとした顔が少しイラッとくる時がある。


すると突然クラスがざわざわしだした。


「どうしたんだろ」


周りを見ると皆一点を見つめていた。僕も気になってしまい皆が向く方に目を向ける。


そこに居たのは一人の少女だった。

黒色の髪を背中の中ほどまで伸ばしおおきな瞳は少し鋭い。一目見ただけで皆美人だと口にしそうな程に容姿端麗の少女。


この学校にいれば彼女を知らない人は居ない。名前は冬野 千里ふゆのちさと。この学校では"氷の女王"と呼ばれている。


新しいクラスという事もあり、今は出席番号順で座っている。


冬野さんは廊下側から二列目の一番後ろの席だ。彼女が座った途端前に座っている男子が彼女に話しかけた。


「あ、冬野さんじゃん」と男が言う。


「……」


当然のようにそれを無視する冬野さん。


「……俺去年も冬野さんと同じクラスだったんだけど……覚えてる?」


男は諦めず話しかける。


すると冬野さんはしばらくの静寂の後口を開いた。


「……誰よ」


不機嫌そうな声でそう吐き捨てる冬野さん。彼女は男と目すら合わせなかった。全く興味が無いのだろう。


話しかけた男は相当勇気を出したのだろう。その素っ気なさに絶望し固まってしまった。


そう冬野さんが氷の女王と言われるのはその素っ気なさいわゆる塩対応な事からきている。あの完璧と言わんばかりの容姿から女王とつけたのだろう。


教室に入ってそうそう炸裂した塩対応っぷりに驚きクラスに変な空気が漂う。


「よし、私冬野さんと話してくるよ」


突然そんなことを言い出した綾香。

僕が止める前に彼女は行ってしまった。


綾香が冬野さんに近づくと冬野さんが顔を上げた。


「ねぇ冬野さん」


眩しいほどの笑顔を見せ冬野さんに話しかける。


「誰?」とさっきと変わらない声色で話す冬野さん。


でも無視はしてない。やっぱり女子だからか?と思った。


「私は姫島 綾香よろしくね」と綾香が言う。


少しの静寂の後冬野さんは口を開けた。


「そう……」


女子にも相変わらず素っ気ない。


いくら誰とでも話せる綾香でもきついんじゃないだろうか。


すると何を思ったのか綾香が冬野さんにこんな事を言った。


「冬野さん笑顔見して」


「笑顔?」と首を傾げる冬野さん。さっきよりも不機嫌そうな顔になっていた。


クラス内がざわつき始めた。「やばい」と綾香を心配する人や「見てみたい」と興味を示す人がいた。


冬野さんはしばらく黙り込みまたしても静寂がクラス内を包み込む。


しばらくして冬野さんは顔を上げ「こうかしら」と明らかに不機嫌そうな声で言った。


その顔を見てクラス全員の背筋が凍りついた。僕も正直恐怖を感じた。

綾香は「そ、そんな感じ……」と震える声で言った。


それもそのはず冬野さんは笑ってなんて居なかった。口角は上がっていたが目が全く笑っていない。何というか悪い魔女のようだ。


これはみんな思ったんじゃないだろうか冬野さんは絶対怒ってると……。


綾香は「そ、それじゃあまたねぇ……」と言い恐怖でガクガクになった足を動かし

逃げるようにして冬野さんから離れた。


冬野さんは多分人と関わるのが面倒だと思うタイプなのだろう。

だからあんなふうにしてわざと人を遠ざけているじゃないかと僕は思った。

人と関わるのが面倒、それは僕も共感できる。





始業式が終わり教室へと戻った。


クラスメイトの提案で席替えをする事となった。陽キャというのはこういういい提案をしてくれる時があるのでまれに助かる。だって出席番号順のままだと僕は一番前の席になってしまうからだ。


だが始業式の帰りにいた陽キャは苦手だ。金髪の男が周りに聞こえる声で「最近ばり可愛い彼女出来てよぉ……」と自慢話をしていた。話の内容はどうでもいいが僕は声がうるさいやつが苦手だ。多分そいつが冬野さんに話しかけたら殺されてしまうんじゃないだろうか……。


そうして席替えが始まり皆がくじを引いていく。僕は四番と書かれたくじを引いた。


先生が黒板に書いた席に番号を振り当てていく。


四番……四番は……よし!


僕は窓側から二列目の一番後ろになった。普通に当たり席だ。だがこの席替えみんなが思っていたのはそんな事では無だろう。冬野さんの近くに行きたくない、特に男子は思っていた。


そうして席を移動したのたが……。


窓側の一番後ろの席、僕の隣の席だ。そこに座ったのが何と冬野さんだったのだ。


マジ……か。やはり近くの席というのは何かと関わり持つことが多い。そんな時にあんな目で見られたら……。考えるのも怖くなった。


席替えをし、今日は下校となった。


冬野さんは荷物をまとめ颯爽と教室を出ていった。


他の男子共は僕に「ご愁傷さま」と笑いながら言って出ていった。


これからどうなるのやら……。

僕はため息をつき教室を出る。


教室を出て階段を降りている。一階近づくにつれて話し声がきこえてきた。


「誰よ、あなたたち」


少し低めの棘のある声。この声……冬野さんじゃ。僕はそう思い話し声の聞こえる方へ視線を向ける。


「良いだろ一緒に遊びに行こうぜ」


金髪のチャラそうな男とその友達だろうか、冬野さんがそいつらに絡まれていた。


「だから行かないって言っているでしょ」


睨みつけそう言う冬野さん。


ま、この様子なら諦めて帰るだろ……。僕はこの場を後にしようとした瞬間だ。


すると「さっきから何なんだその態度は!」と怒鳴る金髪。


「キャッ───」


僕は後ずさるのをやめ冬野さんの方を見る。


あいつら何やってんだよ。


金髪が冬野さんの胸ぐらをつかみ壁に押し付けていた。


「ただ遊びに誘ってるだけなのに睨みつけてきやがって」


怒りを露わにする金髪。


「それはあなたがしつこいからよ」


どうする、さすがに冬野さん助けないとまずくないか……。冬野さんの手が震えているのがわかった。


でも単身で飛び込んでも勝てるわけが無い。───待てよ。そういえばあの金髪……。僕はある事を思い出した。


これならいけるかもな。


僕は階段をおり金髪の方に向かった。


「何してんだお前ら」僕はそう言った。


「誰だお前、関係ねぇだろ消えろ」睨みつけてくる金髪。


「あなた....」と冬野さん。


少し安心した顔をしているように見えた。


「冬野さんが嫌がってんの分かんないの?」


「嫌がってる?俺はただ遊びに誘ってるだけだ。横から入ってくんじゃねぇよ」


そんなの通じるわけないだろ。


「遊びに誘うのに胸ぐら掴み必要ないと思うけど」


何かと突っかかってくる僕に腹を立てたのか

金髪はチッと舌打ちをした後冬野から手を離し僕に噛み付いてきた。


「いいから消えろよ。殴んぞ」と金髪。

だいぶ腹が立っているみたいだが僕の狙い通りだ。思った以上にこの金髪が短気なバカだったので助かった。


「いや僕は君のために言ってるんだよ……」


僕は金髪の耳元でそう呟いた。


「はっ?どういう意味だ」と金髪。


「お前彼女いんだろ」


「何で知ってんだ……」と動揺する金髪。


そりゃ知ってるよ。あんなに大声で話してたんだから。


「お前この事彼女知られていいのか?」


僕はこの金髪の彼女が誰かは知らない。

それがバレたら終わりだ。頼むこれで引いてくれよ……。


全身に緊張が走った。


すると金髪はチッ───と舌打ちをした後「絶てぇ言うなよ」と言いあっさり引いてくれた。


ほんとバカで良かった。と僕は安堵の息を漏らした。


こんな男と付き合った人には気の毒だが言ってしまえばまた冬野さんに何かしてくるだろうから言えないな。どうせ長続きはしないだろう……。


今はそんな事より……。


「大丈夫?冬野さん」


僕はそう言い座り込んでいる冬野さんに手を差し出した。


でも彼女は僕の手を取らず立ち上がり何も言わず去っていった。


───えっ……。僕は驚きを隠せずにいた。別に感謝して欲しいとかでは無いがここまでフル無視されるとは思っていなかった。


怖がってたししょうがないか。僕はそういう事にして帰ることにした。人助けが出来て良かったと思っておこう。





僕は今、昨日冬野さんを助けたことを後悔しそうになっている。


なぜなら……。


朝からずっと冬野さんに睨まれているからだ。明らかに機嫌が悪そうだ。


やっぱり助けない方が良かった……もしかして昨日何も言わず帰ったのって僕がしゃしゃり出たのが気に入らなかったのか……僕は色んなことを考えてしまった。


冬野さんの威圧的な視線が痛くめちゃくちゃ怖い。僕は一体何をされるのだろうか……。

そんな事を考えた。

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