第31話 到着

あの時の出来事は、サヤにとってあまりにも恐ろしくて、忌まわしい記憶…




それに自ら触れることは簡単ではなかった。




サヤ「レド…わがままを言って申し訳ございません…私、少し怖いです…」




震える手でレドの手を握る。




レド「何かあったのか?無理はするな…」




サヤ「でも…ここで出なければ王妃として失格ですの…!これは国と国の読み合いです。負ける訳にはいきません。」




レド「わかった…サヤの意思を尊重しよう。では…出迎えるぞ。」




長い馬車の列が王城に到着する。




そこから、きらびやかなドレスを着た二人の女性が降りる。




衛兵「ルナ・メグ王女!ナーガ・メグ王女!ご到着でございます!」




真っ先にルナがレドの元へ急ぎ足で来る。




ルナ「レド様ぁ!お久しぶりでございますわ!」




レド「ルナ様もお元気で何よりです。幼き頃はよく世話になった。」




ルナ「覚えていてくださったんですの?とても嬉しいです…!レド様はずっとお変わりないようで…?」




二人が話している間、ずっと心に痛みを負いながらも愛想笑いを続けるサヤ。




するとルナはターゲットを変える。




ルナ「それと…サヤ様もお久しぶりですわね!ずっと前に王宮でお会いになりましたよね?」




サヤ「は…はい…あの時の思い出は一生ものです…覚えていてくださって光栄ですわ…」




少しぎこちない様子で返事をする。




ルナ「レド様、サヤ様…この度はご結婚おめでとうございます!お土産の品を持ってきましたの!お見せしたいので、中に入りましょう?」




レド「そうですね。入りましょうか…」




ルナ、ナーガと大勢の執事を連れて城へ入った。




客室へ案内し、荷物を置いてからお祝いの品を見ることにした。




ルナ「レド様…敬語はもうやめましょうか?幼なじみですし、その方が親しみやすいかと!私、堅苦しいの苦手で…」




レド「それもそうだな。敬語は省く…でいいか?」




そう言うとルナは目を輝かせ、




ルナ「もちろんですの!あぁ、嬉しい…またレドとこうして話せるだなんて…!」




レドの腕に抱きついて、そう言うルナにサヤは胸が張り裂けそうになる。




やめて。と言いたいけれど、隣国の王女という立場もあり何も言えずに立ちすくむ。




先ほどからナーガが何も話さないのを不審に思い、こっそりサヤが声をかける。




サヤ「ナーガ様…体調が優れないようでしたら言ってくださいね…」




ナーガ「…………」




返事が無いので何も対応できず、気まずくなる。




その間にも、ルナはレドと親しげに話している。




どんどん追い詰められる感覚を覚え、息をするのが苦しくなっていく…




ルナ「サヤ様!私たちあの時お友達になりましたよね…サヤとお呼びしても?」




嘘だと思いたかった。




自身の人生を変えた出来事を覚えておらず、それどころか綺麗な思い出にすげ替えていたことに。




サヤ「……もちろんです。ルナ様は人と親しくなるのがとてもお上手なのですね。私なんて…いつも言葉が詰まってしまいますもの…本当に駄目で…」




自分を傷つけてまで取り繕おうとする。




ルナ「レド、私の国のお土産ですの!見てくれる?」




レド「ちょっと待ってくれ…サヤと話したいことがある。」




そう言ってサヤを別の部屋へ連れて行き、話をする。




レド「サヤ、どうしたんだ?自分を卑下にするのは…」




サヤは緊張の糸が切れ、涙を流す。




サヤ「ごめんなさい…私上手くできない…ルナ様と話してて…」




そう言い残すとサヤは自分の部屋へと足早に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る