第16話 朝ご飯代わりの焼鮭定食
食堂開店の時間が来た。ケールは2階に移動して、シューカはレンジャーの拠点へと一旦移動したのだった。
「またお昼過ぎに来ます」
とシューカは言い残していったのだった。その間にもちらほらと客がやって来る。
「いらっしゃいませー」
「すみません、焼鮭定食お願いしますー」
入店と同時にそう言ってきたのは、1人の30代くらいの女性だった。茶髪を肩くらいまで切りそろえ、ジーンズを履いている。更に背中には大きな茶色いリュックサックを背負っている。
私は彼女へお冷を持っていくと、伝票に焼鮭定食を書く。
「朝ごはん食べられてないんですよね」
と語る女性。私はおなか減っていますよね。と返すと女性は勿論!と返したのだった。
「私、この辺旅しているんですよね」
聞けばこの女性は魔女で旅人らしい。1人でぐるぐると好きな場所を巡りつつダンジョンを攻略してお金を稼いでいるのだそうだ。
「冥界廊にも訪れた事あるんですか?」
「ありますね、これからまた行くところです」
「そうなんですね、頑張ってください!」
「ありがとうございます!」
その後、出来上がった焼鮭定食を女性に持っていくと、定食を食べながら女性が話を聞いてくれる?と私に問いかけて来た。
「はい、私で良ければ…」
「実はね、私、恋人がいたの」
彼女の話を聞くと、旅をする前は探検家の恋人と同棲して、ゆっくりと何不自由なく暮らしていたそうだ。花や自然に囲まれて生活し、たまには恋人とお出かけをしたりしていた彼女だったが、ある日恋人はダンジョンで行方知れずとなった。
「彼を探すために、私もダンジョンへ行く事にしたの」
「…見つかったんですか?」
「ううん、手がかりはまだこれだけ」
そう言って見せてくれたのは、1つの懐中時計だった。金色に輝くそれにはちゃんと蓋も付いてある。
「綺麗ですね」
「でしょう?手がかりはこれだけなの。そしてこれは冥界廊で見つけた」
「そうだったんですか…」
女性は定食をささっと食べ終えると、休む間もなく立ち上がってレジへ向かった。
「じゃあね、行ってきます」
そんな彼女の背中を私は、恋人が見つかりますようにと念を込めながら見送るのだった。
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