ケリーウィル②


「平和だな」


「だな」


「ただ、強いて言うのなら、その銃口をいい加減降ろしてくれないか?」


「断る」


いまだに銃を突きつけ、警戒を怠らないケリー。

古いエンジンを響かせながら走るケリーとリシャーラ。

ここ数時間、戦闘は起きていない。

気楽とは言えないものの、比較的穏やかに進んでいた。

山を越えて、森を越えた。


「もうすぐ、メドラに着く。結局、何にもなかったな。安全なのは良いことだが、少しつまらないな」


「平和は良いことだろ」


それは広い街のようなもの。

少し離れた駐車場に車を停め、二人は降りた。

駐車場と言っても苔生えまくっていて微かに白い線が見えるだけの、酷いものだったが。


「それで、ここからどうするんだ?」


「歩くんだよ」


足を止めることなく進むリシャーラ。

辺りを見渡しても植物しかない。

コンクリートでできたビルに絡みつく、巨大なツル。

かつて、ケリーがパンを奪っていた街よりも腐食が進んでいた。


(こんなところに、本当に人がいるのか?)


そう思ってしまうほどに生活感がなかった。

無論、破壊は植物だけの仕業では無い。

軽く見ただけでもわかる戦闘の後。

いや、戦闘というより、一方的な殺戮の方が近い。

至る所に残る弾丸の後。

ピンポイントで切断された電柱。


少し歩いて、小さなビルが見えた。

そこには電気がついていて、人影が見えた。

二人はビルに入り、階段を駆け上がる。

3階のマークが見えたところでリシャーラが扉を開け、入り込んだ。

長い廊下を歩き、一つの扉が目に入り込む。

リシャーラは扉をノックすると、返事を待たずして入り込んだ。


「入るぜ、ジジイ」


「リシャーラか……」


白衣を着込んだ男は振り向かず、右手のハンマーで鉄を打つ。

かーん、と火花が散った。

部屋の入り口にいるというのに汗がじんわりと出ている。


「……誰だ、お前は」


また、こちらを振り向かず、ハンマーを振り上げる男、ウェリーバル。

彼の顔面に火花が散った。

そんなことお構いなしに、何度も打ちつけるウェリーバル。


「……いや、ハズウェルが言っていたのか。それで、何しに来た」


リシャーラがケリーに近づき、耳元で話し始める。


(初対面の奴にはいっつもこうなんだ。これでもマシになったんだ)


ふーん、と相打ちを打つケリー。


赤く光る鉄が延びる。

かーん、かーんと響く金属の音。

滝のように汗をかき、ただひたすらに鉄を打つ。

隣に置いてあるバケツにはもう、水がほとんど残っていない。


「リシャーラ!」


男は大声を出し、助手を呼び出す。


「へいへい」


お互い、言いたいことはわかっているのだろう。

リシャーラはバケツを持ち、水を汲みに走った。


ふと、ウェリーバルがこちらを向いた。

目線の先はケリーの腰元。

ホルスターだった。


「坊主、それ見せろ」


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