ケリーウィル③


マガジンを抜き、弾倉の弾を落とす。

安全装置セーフティをかけ、ウェリーバルに渡す。

じっくりと細部まで見渡すウェリーバル。


(このチャンバーの改造カスタム、それにフレームの星型の刻印。やはり、何処かで……)


目の色が変わり、手袋越しにトリガーを、スライドを何度も触れる。


「おい、持ってきたぞ」


ちょうど、リシャーラが帰ってきた。

両手に目一杯の水が入ったバケツを担いでいる。


「すまないな」


そう言って彼は銃をケリーに返した。

いまだ赤く光った鉄を掴み、バケツに放り投げた。

ジュウゥゥと天板のように熱い物が中に入っていく。

取り出す頃には水が無くなっていた。


ウェリーバルの視線がリシャーラに向く。

悟ったのか、彼はバケツを運び、外へ出ていった。


また、冷やした鉄を燃やす。

ドロドロの液体になった。

それを、肩に流すとウェリーバルは立ち上がり、ケリーの方を向いた。


「坊主、名前は?」


急に投げかけられる問答にケリーが目を見開く。

警戒を解いてくれたのだろうか。


「ケリー




───────────────────


(流石に、多いなぁ。あの子を守りながら戦うのは流石に厳しいね)


カルロスとはまた違った武装集団と戦闘中の二人。


バイクを隠し、遮蔽物に隠れた。

ディアラの位置から、ウィルの姿は見えない。

そもそも、ウィルは今頭を打たれ、生死を彷徨っている。

少しでも顔を出せば蜂の巣にされてしまう。

10を超える銃口が獲物を待つ。


バイク旅の途中、旧高速を封鎖する団体がいた。無視しようとしたものの、バリケードを道全部に立てられていて、通ることができなかった。

バイクを止め、交渉に出るディアラ。


まあ、結果だけ言えば失敗したのだが。


「通して欲しいんだけど」


「断る」


「何か欲しいものある?」


流石に通れないのは困るので物々交換の交渉に切り替える。


「強いて言えば」


リーダーらしい男が答える。


「お前らの命だな」


その瞬間、交渉は決裂した。


「!」


ディアラを囲むように銃を持った仲間が展開する。

全方向から、銃口が覗く。


「大人しくすれば、命だけは助けてやる」


少しずつ近づいてくる男。

少女はニヤッと笑い、ホルダーに手を寄せる。


「悪いけど、急いでるんだ」


言葉を紡ぎ終えるよりも先に、弾丸が、リーダーの頭を撃ち抜いた。


『!』


部下全員が気づいた時には、リーダーは既に倒れていた。

アサルトライフルのトリガーが引かれる。

それよりも早く、ディアラが屈み、弾を避けた。


不意を突くようにナイフを持ったウィルが後ろから敵を刺す。


「!」


刹那、皆の視線がディアラから離れたのを見逃さなかった。


弾尽きるまでトリガーを引き続けた。

けれど、全員殺れたわけではなかった。

スライドが止まってしまう。

右手でマガジンを落とし、左手で新たなマガジンを嵌め込む。


時間にして2秒もなかった。


バン。


ディアラでは無い。別の銃撃音。


「が……ッ!!」


それは、ウィルの頭を撃ち抜いていた。

スライドが元に戻る。

トリガーを引く。


ウィルの身体が倒れる。

ディアラがそれを支える。

振り向くと未だくたばっていないモノたちが銃を構えている。


「はあ!」


超人的な力で、ウィルを放り投げた。

何処か遮蔽物の後ろにぶち込み、自身も遮蔽に向かって走る。


(やるしか、ないよね)


『!』


捨て身の覚悟で遮蔽から体を出すディアラ。

敵の反応よりも早く、銃弾を撃ち込む。

2発、肩をかすった。

3発、腹部を少し抉った。


「……はぁ、疲れた」


座り込もうとして、ウィルのことを思い出した。


(いた!)


今もなお血を流し続けるウィル。


ならどうしたんだろう。僕には、これぐらいしかできない)


思考を巡らせる。

包帯を巻かせる。

目が覚めることなく、浅い息の音。


電源のスイッチが入るかのように、ウィルの目が覚めた。


「思い出した……」


頭を抑え、凶弾から目覚めたウィルが叫ぶ。


「俺の……名前!!」


叫ぶ。ありったけを、誰かの記憶に刻むために、もう2度と忘れないために。


「ウィル


───────────────────


何処かで、互いの知らぬうちに運命は交差する。


ケリーウィル・パターソン』


己の名を告げる。

何処かで、新たなる死が幕を開ける。

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