ケリーウィル①


「誰か!誰か!反応してくれ!誰か!」


ウィルは虚な足取りで前へと進む。

何処に向かっているのか、本人ですら分からない。

そもそも、此処が何処なのか。


歩いて、走って、倒れて、血が出た。

何度も痛いと思った。何度も死にたいと思った。


(もう、疲れた)



眠ろう。重い瞼を閉じて深い眠りにつく。


「キミ、大丈夫?」


どこからか、声が聞こえる。

初めて聞いた、少し高い少女の声。


ウィルが目を開けると、バイクに跨って手を差し伸べる少女。

金髪に黄金の瞳。


「……腹、減った……」


ギュルルルと、腹が鳴った。

喉も乾いた。


少女がバイクから降りて、リュックサックを漁り出した。


「ほら、食べなよ」


それは、小さなパンとペットボトル。

座り込んだウィルの隣に座る少女。


「キミ、名前は?」


「……ウィル……だと、思う」


「ふーん。何か訳ありみたいだね。僕の名前はディアラ。よろしく」


フランクに話しかけるディアラと名乗った少女。

パンを貪り食うウィル。

ボロボロの身体に液体が染み込む。

隣で覗き込み、優しく話しかけるディアラ。


「キミ、行く宛はあるの?」


「……ない」


「そっか……」


腕を組み考え込むディアラ。


(流石に二人乗りはまずいよなぁ)


(まぁ、なんとかなるか)


結論を出した。


「乗っていく?」


「良いのか?」


虚な目をした少年に光が差し込んだ。


「もちろん」


ごくんと、パンを飲み込み立ち上がるウィル。

つられてディアラも立ち上がってしまった。


「さ、行こうか」


「どのに?」


「世界一の大都市、カルロスだよ」


────ッ


ウィルの頭に電流が走る。


──────逃げるのか


知らない声が響く。


──────皆んなを殺して


黙れ


─────皆んなを裏切って


知らない映像が流れてくる。

銀色のナイフが赤く染まる。

赤い液体が飛び散り合う。



「あああぁァァァあああァァァ!!!!」


頭を抱え悲鳴を上げるウィル。

誰かに助けて欲しくて。


「どうしたの!?」


少女の声すら聞こえず。

助け舟すら見えずにいた。


「!」


気がつくと少女に抱きしめられていた。

少女の腹部は赤く染まっている。

銀色の刃が腹部を刺していた。

口から血が流れている。

そんなこと構わず、少女は笑顔を崩さない。

最早、一種の恐怖を覚えるぐらい優しい少女。


「大丈夫だよ……僕は、キミの味方だから……」


「落ち着いて……大丈夫……」


ようやく、冷静になって状況を把握するウィル。


「ごめん……」


ナイフを引き抜き、ただ謝る。

それぐらいしか、ウィルには出来ない。


少女は腹部を押さえ込む。

バッグから包帯を取り出し、巻きつけた。


「もう大丈夫だよ。さ、行こう」


「うん」


ウィルは考えるのをやめた。

バイクの後ろに跨り、風を感じる。

少し、気持ちよかった。



これが昨日の事。

ケリーのバイクが爆散した日のことだった。

カルロスに集う運命。

けど、それはまたかなり後の話。

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