美しい。鮮やかに広がる異文化、極上の郷土料理、色濃く落ちる影

大国・大嘉帝国の支配者である大帝は神である。全ての頂点に立つ大帝にとって、その下に位置する命は、皆全て食すべき存在である。中でも、生贄の花嫁として献上される少女は神聖な食材であり、彼女たちは饗花宮にて最後の時を過ごした後、屠られ、神に食われる。

読み始めてまず、歴史物・アジアンファンタジーといった空気感に驚かされました。人々の暮らしや文化といったものが仔細に描かれ、それらの記録のようにも感じました。民族衣装、郷土料理、建築物、信仰や国政など。その土地や人間と切っても切り離せない様々なものが鮮やかに目の前に広がり、異文化に直に触れているようでした。
文化の中には風習も含まれています。それはその土地なりの道筋があって根づいているものであり、余所者からしたら珍しかったり、受け入れられなかったりすることもありますが、安易に否定できるものでもないと思います。
大嘉帝国という国があって、そこでは大帝は神で、人間も食べる。
陰惨だと切り捨てられるであろう因習ですが、あり得ないものではないのではないか、と理解しようとしている自分がいました。

こちらの作品は連作短編で、違った土地に住む4人の少女それぞれの人生や思いが淡々と綴られます。
彼女たちは私から見て、どこか虚ろな部分をもっている印象を受けました。そして、彼女たちは現状に満足していてもいなくても、「満たされること」を求めていたように思います。
淡々とした語り口に閉じ込められた鬱屈や強い感情に変化は訪れるのか?
少女たちの思考や着地点に、とても引き込まれました。

作中に出てくる料理は素朴なものから豪勢なものまで、どれも目にも舌にも美味しそうで、読んでいて香りまで漂ってきます。
少女たちを殺す役目を持つ料理人は非常に腕が立つため、私は自然と、少女たちはどんなふうに料理されるんだろう? きっとすごく美しくて、美味しいんだろうな、と考えてしまいました。人間を殺して調理して食べることを肯定的に捉え、純粋に料理として「見たい」と思っている自分自身にゾッとしました。

とてもとても美しい作品でした。終章もすごく良かったです。
読めて良かったと心から思います。

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