第18話

 セン、シグマ、ノワールがゴブリンたちに走り出すと、ゴブリンたちも気づきセンたちに向かって一斉に向かってきた。


 「フン、逃げずに向かってくる覚悟は褒めてやろう。だが······相手を間違えたな、お前たちは左右をやれ、我は正面をやる」

 

 「お前ではなく、シグマです。では右を受けたまりました」

 

 「私は左をやります」


 シグマとノワールは左右に分かれ、センは正面に向かってさらに速く走り出した。


 「さて、スキルを使わず何匹かは、主のいる方へ誘導、全く主はむちゃな命令をする。だがハンデとしてはそれくらいで十分」


 センは足を止めて左に差している刀を鞘から抜き、左手を鞘に置いたまま刀を構えると、ゴブリンの数匹はセンに向かって飛びかかってきた。


 「さて······フンッ!」


 センは横なぎに刀を振るうと、風圧が生まれ飛びかかってきたゴブリンが後方へと吹き飛んだが、他のゴブリンはためらわず、センに向かって襲い始めた。


 「本気を出せないのが、残念だが······今はそれでも楽しむか」


 センは笑みを浮かべながら、襲い掛かるゴブリンの攻撃を受けることなく、ゴブリンを一刀両断した。


 「ハハハッ! どうした! その程度か! ゴブリン風情がぁ!」


 久々の戦闘のせいか興奮状態となり、ムクロの作戦でもある誘導のことすっかり忘れた様子で見境なく、目の前のゴブリンを一掃を始めた。


 「全く、セン様はマイマスターの作戦をお忘れですね」


 シグマは、センの行動を見て呆れていた。


 「でしたら、セン様の分も仕事をこなすまでです」


 シグマはスカートの中から2丁の拳銃を取り出し構えた。


 「数は32匹ほどですか、少々多いですかね……でしたら数を3分の1ほどに減らしましょう。時間は······約1分21秒45ですね」


 シグマは構えている拳銃の引き金を引いた瞬間。銃声が鳴り響き、12匹のゴブリンの額に銃弾が命中した。


 「あら、いけません。額の真ん中に当てるつもりが、1匹は2ミリずれてしまいましたね······次は修正して今度はズレなしで──」


 「グォォォォォ!」


 棍棒を持った一匹のゴブリンがシグマは目掛けて走ってきた。

 

 「うるさいですね」


 シグマは右手の拳銃を上へ投げ、右手をゴブリンに向かってかざすと、変形し銃身が出てきた。


 「──〈魔力弾〉」


 銃身から光弾が連続で放たれ、何発かゴブリンに命中すると数発は耐えてたが、一発が額に当たり倒れ、右手を戻し投げた拳銃をキャッチした。


 「全く、このスキルは威力がないから使いたくないのですが」


 シグマが使ったスキルはエクストラスキル〈魔力弾〉は、魔力を光弾として連射で放つスキルだがその分、威力が低いためシグマは積極的に使おうとしない。


 「あら、いけませんマイマスターにはスキルは使うなと言われたのに······無駄な出費と命令無視をしてしまいました。その代償はあなたたちで支払ってもらいましょう」


 そう言うと、拳銃から空薬莢を取り出すと、空中に薬莢が現れ自動で薬莢が装填された。


 「さすがマイマスターに賜った。A級装備【魔導回転式双拳銃 ガーゴイル】の〈自動装填〉は秘宝ですね。では行きますか!」

 

 シグマが再び、拳銃をゴブリンたちに向かって引き金を引き、銃弾を放った。


 「さ、さすが、セン殿とシグマ殿だ。それに比べて私なんか······魔法やスキル、がないと、何もできないのに、それに──」


 ゴブリン数匹が、半泣き状態のノワールに目掛けて攻撃を仕掛けると。


 「私!ゴブリン嫌いなんですよー!」


 ノワールは鞘から剣を抜き、攻撃を仕掛けた数匹のゴブリンに切りつけると、血を吹き出し二つに分かれた。


 「だって! ゴブリンと女騎士だと! どうしてもそういうシチュエーションを連想しちゃうんだもん! 私! そういうジャンルの本読んで、いつも憂鬱な気持ちになっちゃうから! 嫌なのに! 主君ためだからしかなく戦ってるだけだもん! もう嫌だー! スキルや魔法使いたいー!」


 ノワールは泣きわめきながらも、迫りくるゴブリンに攻撃を繰り出した。


 「うぉ シグマはまだしも、センとノワールは作戦のことすっかり忘れているな」


 見ていたムクロは、シグマを除きセンとノワールは作戦の事を忘れていると思った。


 「全ク、セン殿モノワール殿ハ、何ヲヤッテオルノダ。我ガイキマショウカ?」


 「いや、クロはもしものための護衛だから、待機」


 「心得マシタ」

 

 それにしても、この異世界に来て始めてセンたちの戦いを見たけど、なんかすごいな。

 センは攻撃そのものは大雑把で、刀をただ振るっているだけど、高い物理攻撃力のおかげで逆に戦闘がなりなっている。

 シグマはステータス自体は低いけど、攻撃そのものは正確で倒す順序と配分が上手い。

 ノワールは戦闘能力は高いけど、性格のせいで戦いに自信がないように感じられるって所か。

 この戦闘はフェルネスのレベリングと戦闘経験を積ませるだけでなく、ある意味、センたちの戦い方を見るためでもある。少々ゲームでの戦い方は変わっているが、問題はなさそうだ。

 

 戦いが始まって、5分ほど経った頃。ムクロが装備している【共有の指輪】で、センたちが倒したゴブリンの経験値がそのままパーティーに共有され、フェルネスには渡しておいた【成長の腕輪】と【熟練の腕輪】のおかげで、かなり経験値がもらえているはず。

  

 「さてと、そろそろいいかな······お!」


 シグマの方から数匹のゴブリンがこちらに向かってきた。


 「やっぱり最初はシグマの方が来るのが早いな、フェルネス出番だよ」


 「は、はい!」


 フェルネスは茂みから出て、向かってくるゴブリンに短杖を構えた。

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