第19話

 「さて、フェルネスのお手並み拝見だな」


 フェルネスは潜在的に魔法職としての才能はある。けど、つい最近職業クラスを得たばかり······やっぱり心配だな。


 「ムクロ殿ハ、ヤハリフェルネス殿ガ心配デスカ?」

 

 クロが察したかのようにムクロに話しかけてきた。


 「クロ?······やっぱり、実戦には早すぎたかなと思って、ちょっと後悔してる」


 「恐ラク大丈夫デスヨ、フェルネス殿ハ、キット、イイ結果ニナリマス」


 「クロ······」


 けど······結局は俺がフェルネスに無理を押し切って、やってるだけむちゃだけはしないでくれ。


 ムクロが心配をしていた矢先に数匹のゴブリンが向かってくると、フェルネスは短杖を構えて、大きく深呼吸を行い、集中を始めると短杖の先から小さい火の球が作り出せれた。


 落ち着いて、私······ムクロが言ってた戦いは冷静じゃないとダメだって······ムクロから職業クラスをもらった以上、絶対に使いこなす!


 「──〈火球ファイアーボール〉」


 フェルネスはゴブリンに向かって〈火球〉を放ち、一番近いゴブリンに着弾した瞬間、〈火球〉が爆発し、ゴブリンを吹き飛ばした。


 「すごい······これが」


 「フェルネス! 油断するな! ゴブリン一匹だけじゃない!」


 一瞬の隙に、残り数匹のゴブリンがフェルネスとの距離を縮めて、武器を振り上げた。


 「はっ!?──〈大気の壁エアウォール〉」


 フェルネスはとっさに風属性の防御魔法を張り防いだが、ゴブリンの攻撃が強かったのか〈大気の壁〉がすぐに砕けた。

 

 〈大気の壁〉が砕けた!? まずい!


 「フェルネス!」


 ムクロがとっさに前に出ようとするが、フェルネスは短杖の先からいくつもの小さい水の球が作り出された。

 

 「──〈水の散弾ウォーターショット〉!」


 水の球を放つと数匹のゴブリンに命中し、体にいくつもの小さな穴が開き絶命した。


 「ハァ、ハァ、ハァ──」


 「フェルネス!」


 「──ムクロ?」


 ゴブリンは全て片付いたと思い、ムクロとクロはフェルネスに駆け寄った。


 「大丈夫? まさかあの一瞬で〈大気の壁〉が砕けたことを理解して、〈火球〉ではなく〈水の散弾〉を選ぶとはね」


 「はい、〈火球〉は威力があるから私も巻き込むと思って、前方範囲攻撃ができる〈水の散弾〉の方がいいと思って」


 まだ職業を就いて間もないに、あの一瞬でそこまで考えてたのか······冷静に周りの状況をちゃんと理解している。


 「ほぉ、さすがに雑魚のゴブリン程度は倒せたか」


 「セン様、その言い方はいけませんよ」


 「やっと終わりました。ホントゴブリン嫌いです」


 セン、シグマとノワールが近寄ってきた。


 「セン、それにシグマとノワール······他のゴブリンは?」


 「そんなの、もう片付いた」

 

 センが指をさす方へ見ると、大量のゴブリンの死体が転がっていた。


 「まじか、こんなに······」


 ムクロは大量のゴブリンの死体を見て驚いた。


 「大半は、我が討ち取った。終始わめいていた悪魔と違ってな」


 「なっ!? そんなことありません。セン殿! 私だってセン殿と同じくらい倒しましたから!」


 「さて、どうかな」


 「ムカッー!」


 センとノワールがゴブリンの討伐数のことで口喧嘩を始めた。

 

 全く、やっぱり忘れてるか······性格に難ありだな。


 「セン様、ノワール様」


 シグマが名前を呼ぶ声には、今までにない冷たさを感じた。


 「今回の戦闘はあくまで、フェルネス様の実戦経験とレベルアップが目的です。それなのにあなた方は、どうしてくれるんですか?」


 「フン、そう言う貴様こそ、スキルを使っていたではないか」


 「確かにそうですが、少なくとも命令は果たしました。数匹はフェルネス様に誘導致しました」


 シグマとセンはお互い睨み合いとなった。


 「セン殿! シグマ殿! もうその辺でいいじゃないですか!」


 「あぁ!?」「はいっ!?」 


 「ひっ!?······すみません」


 ノワールは収めようとするが、センとシグマに睨まれ落ち込んでしまった。


 「セン、シグマ。ノワールの言う通りだ。スキルと命令についてはもうすぎたことだ。だからやめろ」


 「······確かにな、これ以上は埒が明かないか」


 「そうですね。これ以上、マイマスターやフェルネス様を待たせるのも失礼ですしね」


 ムクロに指摘されたセンとシグマは睨み合いをやめた。


 「それでいい、結果はどうであれ、少なくてもフェルネスのレベル上げは成功した」


 【成長の腕輪】と【熟練の腕輪】そして【共有の指輪】のおかげフェルネスのレベルはかなり上がってる。今は、レベル13ってところか······だけど、これ程の規模だからゴブリンキングがいると思ったけど、俺の読み違──


 「グァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 突然、横穴から雄叫びのような声が響きだし咄嗟にセンとクロ以外が耳をふさいだ。


 「うるさっ!? なんだよ今のは······まさか!?」 

 

 「うぅ一体、なんですか?」


 「フェルネス、杖を構えろ」


 「え?」


 「どうやら、本命が来るみたいだ」


 そのムクロの一言で全員が臨戦態勢に入った瞬間に横穴ほから、地響きが始まり次第に大きくなっていった。


 さっきの雄叫びはおそらく、ゴブリンキングだ。モンスターのとしてのランクは中級でレベルは15。フェルネスのレベルは負けているが、俺たちがカバーすれば問題ない。


 地響きが続き、横穴から姿が現しだした。


 「さあ、来るなら来、い──」


 横穴から現れたのは、体長5メートルを超え、装飾を身につけている大型の棍棒のような武器を持っていたが、ムクロは一瞬で理解をした。あれはゴブリンキングであってではないことに。


 「嘘······だろ!?」


 あの武器、棍棒じゃない杖だ。まさかあれは······俺の予測が正しければ、今のフェルネスに戦わせるわけにはいかない······あいつは、ゴブリンキングの変異種、ゴブリンキング・メイジ。ランクは中級だが推定レベルは──20。

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