第9話
「アレク……自ら話してくれるのね」
「……そんな気がおきるとは、自分でも驚いているよ」
昔はただの森だった場所に“渦の魔法”を張り巡らせたのはアレクの父だった。
「僕が物心ついた頃には父はもう世界の全てを呪っていた。なにがあったのか聞くことも、子どもとして父を救う方法を模索することもしなかった。ただ、父の跡を継いで“渦の森”を存続させ続けた。……この行為に大した意味はない」
アレクは無機質な笑みを浮かべて言った。
私が口を開きかけた時。先に口を開いたのは、“魔王様”もとい、ロイドだった。
「君は感情豊かな人間だよ。自分を見てくれる人に出会えば変わることができる、そんな感情豊かな人間だ」
ロイドは切れ長の瞳を細めて穏やか笑う。
もう! いっつも良い所を持っていくんだから! 昔から──って、あら? なに言ってるのかしら?
アレクはロイドの言葉を聞いて、少し目を見開いて戸惑ったような表情を見せた。
「……そう、なのかな。あまり、自分について考えたことがなかったが……」
「そうよ。──あなたはあなたのしたことで今回は人の命を奪わなかった。そして、自分の行為に疑問を抱くことができた。……けれど、長い時間、多くの人達に迷惑を掛け、怖い思いをさせたわ。これからはそれに向き合うのはどう? 私もつきあうわ」
「僕もつきあうよ」
ロイドが言うと、ネオちゃんとララも「僕たちも」と同意した。レインも盛大なため息をついた後、「ああもう! 俺もつきあうよ!」と言ってくれたわ。
「……ありがとう」
◇
──こうして、“渦の森”の存在は消えてなくなったの。
アレクは自分の過ちを世間に公表したわ。
裁きを受けることにホッとした表情を浮かべた彼こそが、彼の本質なのだわ。
“渦の森”として恐怖を持たれた場所は道が整備され、自由に人々が行き来されるようになった。
それからロイドとは、よく会うお友達の関係になったの。
……とても懐かしい、ドクドクと脈打つ胸の高鳴りを感じていることは、今はまだ内緒にしておくつもりよ。
〈完〉
女勇者は90歳(※前世) 鹿島薫 @kaoris
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