第6話

 最後の“渦の魔法”が掛けられた白樺しらかばの根元を、一定の距離を空けて確認する。

 ……なんてどす黒く、荒っぽいのかしら。

 今までの渦が密やかに、息をひそめるかのように存在していたのに対して、目の前の渦は、まるで蛇がとぐろを巻くように、うねりながら、近づく者を飲み込もうとしている。

 ……まるでこれを生み出した者は、ここまでたどり着いたからには悪意や憎悪を隠すつもりはない、と言っているようだわ。


 アニメの中でララはこの渦と対峙した時、畏怖いふの感情を隠しきることが出来なかった。

 それでも、私達が戦う近くで懸命に祈りを捧げ、私達の回復をし続けていたの。

 僅かばかり、けれど確実に渦にはダメージが与えられ続けていたわ。

 もしかしたら、粘り勝ちで最後の渦を破壊することができるかもしれない──そう思った時だった。

 渦はまるで手を伸ばすかのように、どす黒い影を巻き上げ、ララを掴み上げた。

 そして、無惨にもララの身体を叩きつけた──。

 このアニメの中で最初で最後に失われた命。


 あの光景を絶対に現実のものにしてはならないの。

 



          ◇

 


「ソラ……無理はしてほしくない」

「大丈夫よ」

 そう告げると、渦の近くに一歩近づく。

 そのまま一歩、二歩と歩みを進め続ける。

「ソラ……? 武器も構えずに、なにを──」

 後ろから聞こえた問い掛けに、答えることはしなかったわ。

 その代わりに渦をすぐ背にして三人の顔を一人一人見た後、こう告げる。

「アレク、レイン、ララ。必ず、三人で私のことを迎えにきて。互いが互いのことを守るのよ」


 ──そのまま渦の中に身体を預けるように力を抜いて後ろ向きで倒れる。


「ソラ!!」


 渦に飲み込まれる様を三人は信じられない、といった表情で、なんとか私の身体を引き止めようと手を伸ばしながら走り出したのが確認できた。


 ──良かったわ。

 私は少しでも“あの人”の琴線に触れることができたのね。




         


 

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