第5話

「──魔法を私利私欲で使うなど、あってはならないと思うよ」

 アレクが落ち着いた声音で言った。

「……そうね」


 ──確か、アレクは二十歳ハタチだったかしら。

 彼は自身の若さとは反比例するように、その仕草や口調は穏やかで大人びている。

 切れ長の瞳はとても涼やか。それに腰の辺りまで伸ばされた艶やかな金髪は一つにまとめられていて、その立ち姿はまるで造形された美術品のよう。

 ……アニメで初めて見た時にも思ったけれど、やっぱり素敵ね。

「本当にあなたは素敵な人ね」

「──え?」

 ……あら、いやだ。声に出ていたわ。

「……ありがとう。君も、とても魅力的な女性だよ」

「まあ、こんなにお世辞が上手な方だったのね」

「……お世辞ではないさ」

「ねえ、アレク。私を明るい方向へ導いてほしいの」

「……え?」

「私もあなたを明るい方向へ導くわ。──ララのことも、レインのことも、ネオちゃんのことも、街の人たちも。だから、みんなも目の前の人を、明るい方向へ導く力が自分にはあると信じてほしいの」

「ソラ……」

 アレクはゆっくりと身体全体を方向転換しながら、レインとララを見る。そして、レインとララも同じように一人一人に視線を向けた。


 レインが口を開く。

「簡単なことだ。誰も欠かさずに、互いが互いを救えばいいのだろ?」

 ──フフ。相変わらず、自信家で傲慢ごうまんな物言いね。

 ……けれど、今までとは違う、人を救うことを前提とした言葉を聞くのは初めてだわ。

 確かに人としての温かみを感じたのは気のせいではないわよね?

 


          ◇


 

 渦の森を進んで三日目。

 この森を抜けるのも、目前に近づいてきた。

 アニメでは終盤に差し掛かる頃ね。


 もうすぐ、最大の難関が……そして、最大の悲劇が襲うの。

 魔王様の城が肉眼にくがんでもはっきりと捉えられるようになった頃、最後の“うずの魔法”が掛けられた場所があるわ。

 それは、この森の中でも特に太い幹を持った、立派な白樺しらかばの根元。

 そこに掛けられた“渦の魔法”はこの森の終わりを感じて希望を抱く者を嘲笑うかのように、今までの比ではない、強力で最悪の仕様に仕上がっているの。

 

 ──そして、この場所で……ララが命を落とすの。

 

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