第10話ここ

 誰だよ、アイツは。たった一言で、この場の空気を一変させた女。

 周りには聞こえないであろう声量で、側に立っているミツハに聞いた。

 名前を聞いて、素直に驚いた。女の名前は、イリア。そういった情報に疎い俺でも知っているような有名人だ。そこらの犯罪者ならば、名前を聞くだけで震えあがるという噂話を耳にしたことがある。

 その噂話を聞いた時には、脚色された話だと思っていたが、そうでもないのかもしれない。

 彼女が漂わせている雰囲気が、それを証明している。

 そして、その彼女が話を取り仕切ることになった。


「これよりギルド会談を始めます。進行は、【光の庭】の代表である私が務めさせていただきます。何か話したいことがある人は、ご自由にどうぞ」


「それでは、私から・・・・・・」


 なんだかんだで、あっさりと話し合いが始まった。

 最初の話の議題は、各ギルド間で起きている問題についてだ。

 問題というのは、他のギルドが追っていた犯罪者が、自分のギルドが管轄する場所で被害を出した時について。

 各ギルドは、世間が思っているよりも仲間意識がない。なぜなら、ほとんどのギルドが手柄を挙げることに必死だからだ。それ故に、問題が起きることも少なくはない。

 最初から場の空気が悪くなりそうな議題だ。

 とは言え、流石に十何人もいれば、一つ話題が出るだけで自然と話し合いは進んでいく。ただ、これだけ我の強いメンツが集まると、簡単には話の決着がつかない。

 一つ意見が出ると、誰かが反対の意見を述べることの繰り返し。

 これでは、とても議論と言えない。このまま白熱していくと、誰かの血が流れそうな雰囲気だ。

 だが、俺が何か言ったところで、どうにもならないだろう。どうにかできるのは、この場に一人しかいない。


「落ち着いてください。皆さんの言い分は理解しました。どの意見にも間違いはありません。しかし、このままでは平行線を辿ることになるのは明白。ですから、折衷案ということで、他のギルドの管轄する場所にまで被害が及んだ時には、そこを管轄するギルドの介入を許可するものとする。ただし、そこで出た被害については、これまで通り、そこを管轄しているギルドに責任を持ってもらうということで、どうでしょうか」


 そう言い終えると、彼女は少しだけ笑みを見せた。

 彼女が喋っている間は、誰も口を開くことはなかった。正確に言うならば、物音すら立っていなかった。

 そして、彼女の言葉に対しての反論の声が出ることはない。彼女が発したことの内容が最良だったからというのもあるが、それ以上に、反論を許さないという無言の圧力を感じたのは気のせいではないだろう。ただ、俺としては、時間のかかりそうな議論がアッサリと終わって有難い気持ちの方が強い。

 

「そういえば、【幽谷の影】の代表さんが、何か話したいことがあると聞いていたのですが・・・・・・」


 俺が、話をしたいことがあるなんて情報、どこで聞いたんだよ。

 そう聞きたくはなったが、今はそれついては触れないでおこう。そんなことよりも、せっかく話を振ってくれたのだから、あのことについて話をするべきだろうな。

 そうでないと、どんどんと他の話で会談が進んでいきそうだ。

 俺は、【終末の遊戯】についてのことを、資料を交えながら詳細に話した。

 これを聞いて、各ギルドの代表は、どんな反応を示すのか。大体の想像は出来ているのだが・・・・・・


「それで、取り逃がしたから協力してくださいってか?名のあるギルドだと聞いていたが、所詮はその程度なのか」


「そうですね、たかだが一つの犯罪組織に苦戦するとは。ましてや、そんな出来損ないのギルドが、このギルド会談に参加しているとは」


 ほとんどのギルドの代表が、想像通りの反応を示した。そうでない者も数名いるが、半分以上のギルドの代表が俺たちのことを馬鹿にしたような反応だ。俺としては、そんな反応は気にならないのだが、側に立つ二人の怒りが今にも爆発しそうなのを感じ取ってしまった。

 二人とも、自分のギルドのボスが好き放題言われていることに怒ってくれているのだろう。

 ならば、俺も一言くらいは言い返すべきだろうな。


「いやいや、別に貴方たちに協力を頼みたくて、この話をしたわけではない。もし、何も言わないでおいて、どこかのギルドが壊滅でもしたら可哀想だと思ったからですよ」


「な、何だと、それではまるで、我々のギルドが貴様のギルドよりも弱いと言っているように感じるぞ」


 俺が返した言葉に、真っ先に反応したのは、俺の話に対して一番最初に反抗的な姿勢を見せた男だった。俺の言葉が、よほど頭にきたのかテーブルを叩いて、椅子から立ち上がった。

 今にも攻撃をしてきそうな様子。こいつもそうだが、ギルドの代表というのは短気な奴のことなのか?いや、そんなことよりも、怒って落ち着きそうにないアイツを、どうするかを考えなければ。

 そうだ、丁度いい。アイツで試すことにしよう。

 俺は、このギルド会談に初めて出席して、数分しか経っていないが分かったことがある。ここは、俺が思っているような会談とは違う。ここでは、力がある者の言葉が強い効果を持つ。だからこそ、麗音はミツハとネオを俺の付き添いにしたのだと。

 それならば、やることは単純。

 俺は側にいるネオに、目線だけを向けた。

 それだけで全てを察したであろうネオは、手を前に出した。そして、一言だけ呟く。


「跪いて」


 その瞬間、立ち上がっていた男が、一瞬で地に這いつくばる姿勢となった。それを見ていた他の者たちは、男の方を少しだけ見ると、瞬時に視線を俺たちの方へと変えた。

 どうやら、少しは話を聞く気になったようだ。

 そうなれば、俺からは一言だけ。


「さぁ、話し合いの続きをしましょう」


 こうなれば、多少は話が出来るだろう。

 

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