第9話代表たち

 俺は今、布団に包まれている。何故、こんなことをしているのかと聞かれれば、現実逃避をしたいからと答えるだろう。

 あの戦いの翌日、丘の惨状はすぐにニュースとなった。テレビでは、【超越者】の能力暴走による事故であると報じられた。だが実際は、犯罪組織との抗争によるもの。一般人は、そのことについては何も知らない。

 知る必要がないのだ。そんなことは、人知れずギルドの者たちが解決すればいいだけのこと。ゆえに、その為の話し合いを、ギルド会談で設けようとしていたのだが・・・・・・


「行きたくねーな」


「何を言っているんですか?ボス自らが、ギルド会談に出席すると仰ったじゃないですか」


「それはそうだけどな・・・・・・・」


 ギルド会談。それは、各地方に拠点を置いているギルドのボスたちが、定期的に集まり、話し合いを行う場である。

 ただ、俺は今まで出席したことがなく、全て麗音に代理で出てもらっていた。

 そのギルド会談が、四時間後に行われる予定となっている。都合のいいタイミングに予定されていて良かった。

 とは言え、行くのに抵抗があるのも事実。そこに集まる者たち皆、ギルドに関わる者たちではあるが、皆が仲良くしているわけではない。むしろ、険悪な者たちもいると聞く。

 麗音いわく、過去には建物が壊れるほどの大荒れ状態になったこともあるそうだ。

 そんな場所へ、喜んで行きたくなるわけがない。それでも、今回ばかりは我慢して俺も行く必要がある。

 だから、俺は布団の中から出た。そして、麗音に指示を下す。


「会談へ向かうための準備を頼む」


「はい、お任せを」


 俺の意志が伝わったのか、返事一つで行動へと移った。

 俺は俺で、自分の準備を行う。流石に、今の格好で行くわけにもいかない。とても品のある者たちが集まる場とは思っていないが、多少なりとも身だしなみには気を遣っておくべきだ。

 一応、ギルドのボスとして赴くのだから。

 準備を済ませて、外に出ると、一台の車が停まっていた。麗音が用意してくれたのだろう。

 停まっている車に乗ると、既に運転席と助手席に誰かが乗っていた。麗音が乗っているのかと思っていたが、そうではないようだ。

 運転席にはミツハ、助手席にはネオが座っている。ということは、この二人が一緒に行くのか?ハッキリ言って、一番連れて行くべきではない二人だ。

 まさかとは思いながら、聞いてみる。


「もしかして、お前たちが一緒に行くのか?麗音は?」


「麗音は、他にやるべきことがあるからって言って、私とネオにボスとの同伴を任せてきたの」


 正気か?麗音の奴は。

 そう思ったが、既に車は動き出していた。どうやら、本当にこのメンツで行くようだ。

 それだというのに、助手席のネオはいつも通り寝ているし、運転席に座るミツハは、遊びに行くかのようなテンションでいる。

 車内は、緊張感のある場所に行くとは思えないくらいの雰囲気だ。そんな状態のまま、会談を行う場所へと向かっている。

 目的の場所には、一時間くらいで着いた。

 本当ならば、二時間は要する道だが、ミツハの無茶な運転で、大幅に時間が短縮された。

 そして、助手席では、いまだネオが寝ている。

 

「おい、起きろ」


「んっ、ボス?どうして、ボスがいるの?」


 ダメだコイツ。しっかりと寝ぼけていやがる。

 真面目に受け答えするのも馬鹿らしい。

 馬鹿二人と共に、会談の会場となる建物に足を踏み入れた。

 中へ入ると、中で待ち構えていた男に、部屋にまで案内された。会談するに相応しい広い部屋。部屋には、大きいテーブル一つと、それを中心に椅子が並べられている。そこには、六人のギルドの代表が既に座って待っていた。

 やはり、どのギルドの代表もギルドメンバーを二人ほど側に控えさせている。

 有名なギルドの代表たちが集まっているだけあって、その顔触れは壮観だ。そんな者たちと並ぶ形で、俺も椅子へと座る。

 他にも続々と、代表たちが集まり、用意されいる椅子が埋まっていく。

 

「おお、【幽谷の影】の代表様じゃないか。まさか、代理の者ではなく、本人自ら出席するとは何か心境の変化でもあったのか?」


「黙りなさい。ボスが自ら足を運んだ。それについての理由を、貴方程度の者が知る必要はないことよ」


 斜め前に座る男が、俺に話かけてきた。いや、話しかけてきたというより、突っかかってきたというべきだろう。適当に受け流そうとしたが、俺よりも先にミツハが答えた。

 だが、受け流すのではなく、分かりやすく相手を怒らせてしまっている。本人は、そのつもりでやっているのだろう。

 互いにケンカ腰の状態で、どっちとも引き下がる様子は感じられない。むしろ、熱が高まっているようで、両者ともに、異能力による攻撃を放とうとしている。

 まだ始まってすらいないのに、この状況。

 大人しくしていろとは言ってみたものの、効果はなし。誰かが止めに入ろうとする気配もない。仕方がない、ここは俺が、力づくでも二人を抑えるとするか。

 しかし、俺が動こうとした瞬間、手を叩いた音が部屋中に響き渡った。ケンカしそうになっている二人も含めて、この場にいる皆が、一斉に音がした方へと視線を送った。

 そこには、椅子に座る女性が一人。おそらく、彼女が音を鳴らしたのだろう。

 その女性は、皆の視線が集まったのを確認すると、一つ間を置いてから、口を開いた。


「皆さん、始めましょうか」


 彼女が発したのは、たった一言。それも、透き通った声で。

 ただ、透き通った声からは、普通ならば感じることはないであろう重圧を感じた。

 それは、他の者も同様のようだ。その証拠に、攻撃しそうになっていた二人が、瞬時に大人しくなった。

 一度目を合わせ、一言声を聞いただけだが、彼女がとてつもない人物であるのは間違いないと断言できる。

 どうなることかと思ったが、彼女の一言により、ギルドの代表たちが集うギルド会談が始まった。

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