第8話終末の遊戯

 唐突に麗音と、見知らぬ女が現れたことで、続けていた攻撃の手が止まった。どうして、お前がいるのか。そう聞こうとしたが、それよりも先に彼女が近寄ってきた。

 

「ボス、どうか一度、戦うのを中断してください」


 何を今さら。俺たちの害となるであろう相手を前にして攻撃の手を止めろだと。普段の麗音ならば、絶対に言わないことだ。そう思い、何かあるのかと周りを見渡した。

 そこに映る景色を見て、麗音が止めようとした理由を理解する。

 丘だった場所が、丘とは呼べないくらいに荒れてしまっていた。さっき見たときよりも酷くなっている。原因は言うまでもなく分かりきっている。

 この状況で戦いを続ければ、街にまで被害が及びかねない。それを危惧して、麗音は割って入ってきたのだろう。

 ただ、麗音以上に気になっているのが、麗音と共に現れた女だ。羽月の側にいるが、何者なんだ。彼女の仲間は、全て殲滅したと報告があった。

 側にいる麗音は、共に現れた女の存在に驚いていない。つまり、彼女の存在について少なからず知っているということだろう。それならば、麗音に聞くのが手っ取り早い。

 

「それで、アイツが誰かを知っているか?」


「はい、そのことに関しての報告なんですが、どうやら我々は偽の情報を掴まされたようです」


「偽の情報?【月牙】という組織の存在自体が嘘だったのか?」


「いえ、羽月が設立した【月牙】という組織は実際にあり、彼女を除くメンバーの殲滅は完了しました。ただ、その組織は羽月が隠れ蓑にしているだけであって、本命である組織は別に存在していたのです」


 薄々察してはいたが、本当にその通りだとは思わなかった。だとすれば、消すべき相手が増えたことになる。

 相手へ攻撃を放とうとした。だが、側にいる麗音が腕を前に出して制止してきた。

 

「お待ちください、ボス。ここは我々が」


 我々?一人しかいない筈なのに何を言っているんだと思ったが、羽月の周りをギルドの幹部全員が囲っている。

 全員が戦闘態勢だ。

 俺からすれば、コイツ等が戦っても周りに与える被害は変わらないと思うのだが、ここで言うのは止めておこう。

 それに、今のコイツ等の表情を見る限り、俺が何を言っても止まりそうにない。


「この女がボスに攻撃をしたのね。じゃあ、殺すしかないよね?」


「珍しく、お前と意見が一致したな。俺も殺すべきだと思う」


「馬鹿が、お前らは甘いな。ただ殺すだけではダメだ。苦痛という苦痛を与えてから殺すべき」


「若い者は物騒だな」


「眠いから、早く始末しよ」


 本当にコイツ等に任せても大丈夫か?

 今すぐ攻撃をしそうな雰囲気。だが、相手はそれとは反対で、戦闘態勢をとっていない。それ故に、出方を窺っているのだろう。そんな中で、先に動いたのは相手の方だ。

 しかし、攻撃をしてくるわけではなかった。

 

「この数を相手にするのは流石に無茶です。ここは退きましょう」


「そうだね。そんなわけだから、今日のところは退くことにするよ。それと、私たちの本当の組織について教えてあげる。名は【終末の遊戯エンドゲーム】。覚えておいてくれよ」


 相手は逃走を図ろうとしている。だが、それを見逃すほど、アイツ等は甘くはない。逃走すると察した瞬間、一斉に敵へ向けて攻撃を放った。

 タイミングとしては直撃の筈だ。

 しかし、砂煙が風と共に消えると、そこに敵の姿はなかった。ほぼ間違いなく逃走されたと言っていい。

 すぐに、周囲を警戒するように指示を出したが、既にこの街から姿を消しているようだ。

 あの状況で逃げるとしたら、瞬間移動のようなもので逃げる他ない。たしかに、羽月は瞬間移動のような動きをしていたが、恐らく、アレは限られた範囲だけだろう。

 今回は、この街から出られるくらい大規模ない移動を瞬間的に行ったことになる。

 そうなれば、後から現れた女が、それ系統の力を有していると思うしかない。

 

「それにしても、随分としてやられたな」


「仕方がありません。ボスは本気を出さないようにしていたのですから」


「そうは言っても、初めてのことだぞ。俺たち全員が揃っていながら、目の前で敵を逃がすなんて」


「ネオの力を使えば、力づくでも抑え込めたかもしれませんが・・・・・・」


 麗音の言うように、ネオの力を使えば敵を捕らえられた可能性が高い。ただ、彼女の力は、味方にも影響を及ぼすため、一人でないと満足に力を使えない。

 とは言え、本気を出していないのは相手も同様だろう。

 まさか、あれほどの相手が身近にいたとはな。

 間違いなく、今後も奴らは襲ってくる。残念なことに、俺がギルドのボスであることがバレてしまった。そうなれば、どこかのタイミングで敵に襲われるのは確実。

 しかし、今はここで諦めるしかない。


「麗音、アイツ等についての情報収集を速やかに行ってくれ」


「はい。そのつもりです」


 今後いつ襲われるか分からない以上、学校へ行くわけにはいかない。つまりそれは、俺の望む生活が崩れるということ。それを解決するためには、アイツ等を殲滅しなければならない。

 だが、今日戦ったからこそ分かる。アイツ等は、今までの犯罪組織とは違い、簡単に殲滅できるような相手ではない。

 こうなってしまっては、俺もギルドのボスとして、何もしないわけにはいかない。

 

「麗音、ギルド会談に出席するぞ」


「え?ボスがですか?」


 俺の言葉に、麗音が普段は見せない驚いた顔をしている。当然だ。俺すらも、今になるまで、このことについて触れることはないと思っていた。

 それでも、再び学校に通い普通の生活が出来るように、俺も我慢をしてボスの務めを果たすとしよう。

 

 

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