第7話超能力

 俺が放った攻撃を相手は躱して、相手が放った攻撃を、俺が全て防ぐといった攻防が続いている。

 

「ねぇ、本気出さないの?」


「馬鹿か、こんな場所で本気を出せるわけがないだろ」


 もし、ここで本気を出せば、丘が消えてしまうだろう。だが、今のままで勝てる相手でないのは、戦っていて分かる。

 彼女は強い。

 現に、俺が数多く放った【闇斬】を、全て難なく躱している。そこらの犯罪者ならば、この技を一発放てば終わりなのだが、彼女はそうではないようだ。

 それに、彼女も本気を出していないだろう。

 周りの物を飛ばしてくるだけで、決定打となるような攻撃を仕掛けてこない。

 ただ、数分の間だけでも攻防を繰り返しているおかげで、分かったこがある。それは、敵の動きだ。俺の攻撃を躱す時に、高速で移動しているかと思ったが、そうじゃなかった。あれは、間違いなく瞬間移動の類だ。

 そして、物を飛ばしてくる攻撃。あれも、彼女が指を動かしているだけで、どんな力で飛ばしているのかが分からない。

 このまま同じ攻防を繰り返していても埒が明かない。多少、周りへの被害が出るが、一気に片をつけるべきだろうか。

 ただ、その思いは彼女も同じようだ。


「このままじゃ、つまらないね。どう?こうしてくれたら、少しは本気を出してくれるかい?」


 そう言うと、彼女は両手を前に出した。

 その途端、周囲の地面が割れて、浮き上がった。さっきの、周りの物を飛ばす攻撃とは規模が桁違いだ。しかも、その狙いを俺じゃなく、街に向けている。

 もし、この攻撃が街に直撃すれば、その被害は計り知れない。

 ただ、この攻撃を打ち消すには、相応の技で応戦する必要がある。


「全てを吸い込め【黒穴くろあな】」


 彼女の攻撃を打ち消すための技を行使した。

 何もない空間に、黒い穴のようなものが現れる。そして、その穴が彼女が街に放とうとした攻撃を次々に吸い込んでいく。

 だが、この攻撃には厄介な点がある。それは、攻撃対象を絞れないこと。つまり、周りにあるものを全て吸い込んでしまう。

 だからこそ、彼女の攻撃を全て吸い込んだ瞬間、すぐに【黒穴】を消した。それでも、周りへの被害はある。

 彼女の攻撃によるものもあるが、この場にあったベンチや生い茂っていた草木が全て消えた。辺り一帯、見るも無残な光景となっている。

 彼女は、俺の攻撃から逃れたようで、少し離れた場所に移動していた。攻撃を打ち消されてと言うのに、彼女は焦る様子がない。それに、あの規模の力を使って疲れている様子も感じられない。それどころか、笑みを浮かべている。

 俺も疲れてはいないが、大抵の『超越者』は、あの規模の力を行使すれば動くことすら困難なくらい消耗するものだ。

 どうやら、俺たちが想定していたよりも、遥かに上の実力者かもしれない。

 これは、殺す気でいかないとダメだな。


「【黒弾こくだま】」


「おっ、少しはやる気になってくれたのかい」


 【黒玉】は【黒死玉】よりも大きさは小さいが、敵に向かって行くスピードと連射速度が段違いだ。

 その速度は、拳銃の弾の速度を上回る。

 それを拳銃のように、彼女を狙って撃っていく。それでも彼女には、一つも当たることがない。全て、瞬間移動のようなもので連続で発動して躱している。

 やはり、彼女に対して速さを重視した攻撃は無意味なのだろう。

 そして当然、彼女も攻撃を仕掛けてくる。

 

「君の気持ちに応えるための、私からのプレゼントだ!」


 その瞬間、上から何か分からない重みが圧し掛かってきた。思わず、片膝をついてしまうほどの圧力。攻撃の手が止まってしまったが、すぐさま自分の周りを闇の力で覆った途端、重みは消えた。

 この攻防の中で、ハッキリとしたのは、お互いが決め手に欠けていることだ。

 気付けば、辺りは暗くなってきている。

 このまま同じことを続けていたら、朝になってしまう。俺は試しに、攻防の中で、彼女に質問を投げかけてみた。


「なぁ、気になったんだが、お前のその力は何なんだ?」


「私の力?超能力だよ、ほら」


 そう言って、彼女は近くに落ちている石ころを、手を使わずに宙へと上げた。答たえてくれない可能性の方が高いと思っていたが、彼女はすんなりと答えてくれた。それは、彼女にとってデメリットと感じなかったからだろう。

 実際、それが分かったところで、彼女が手ごわい相手であることに変わりはない。

 今も、彼女の攻撃が俺に当たることはないが、同時に俺の攻撃も当たらない。お互いに肉体の損傷は一切ないが、疲労だけは溜まっていく。

 そして、陽が完全に落ちた。 

 こうなれば、俺に有利性が生まれる。


「ちょっと、さっきより攻撃の威力上がっていない?」


「当たり前だろ。俺の力は闇だぞ。その力は陽が出ている時よりも、陽が落ちた夜の方が威力は増すんだよ」


 ここで、一気に仕留めるしかない。その為には、彼女の瞬間移動でも躱しようのない攻撃をするしかない。 

 それは、彼女も同じなのか、何か大きい攻撃を放ってくるであろう構えをとりだした。

 それを見て、俺は地面に手を当てた。

 そして、攻撃を放とうとした瞬間、俺と彼女の間に誰かが割って入ってきた。


「「お待ち下さい、ボス」」


 同じ言葉が、二人の女の声で重なって聞こえてきた。そのうちの一人は麗音だが、もう一人の女は見覚えがない。

 俺は攻撃の手を止めるしかなかった。それは相手も同じで、とっていた攻撃の構えを崩していた。

 様子を見る限り、麗音と共に現れた女は、羽月の仲間のようだ。

 どうやら、すんなり決着とはならなそうだ。

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