第3話 奏多、喧嘩を売られる②
『第一回ダンジョン委員会主催。チキチキ~探検家たちの競技大会~』
伊原本部長がマイクを持ち、高らかにイベント開催の宣言をした……。
もっとカッコいいイベント名考えられなかったのか。
ダサすぎる。
『君たちに集まってもらったのは他でもない。今回のイベントは探検家同士の交流を目的としている! 優勝者には豪華賞品を用意してるから期待しててくれ!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
探検家たちが一斉にざわつく。
みんな優勝商品が目当てみたいだ。
『さっそくだが、集まってもらったみんなにはそれぞれ三つの種目に取り組んでもらう!』
モニターに説明が映し出される。
ルールはこうだ。探検家は最低二人、最高四人のチームを組んでもらい。一人は必ず種目に取り組むことになっている。
そして――
『三つの種目の成績上位のチームが本選に参加する権利を得る!』
つまり、チーム戦というわけか。
一人がいい成績を残したとしても意味がないってことか。
『各々怪我のないように取り組んでくれ! それでは以上!』
説明を終えた伊原本部長は笑顔を浮かべながらはけていった。
「さて、それじゃあ。だれから――」
俺が口を開こうとしたその時、後ろから声をかけられた。
「ごきげんよう。みなさま」
白いメイド姿に身を包んだエレノアがいた。
「エレノアさん! どうしてここに!?」
芽衣と暗女が駆け寄る。
「お店は大丈夫なんですか……?」
「はい、今日は皆様の応援をしに来ました。頑張ってくださいね」
エレノアはいつもの天使のような笑顔を浮かべた。
「皆様、どうかお怪我のないよう。お気をつけて」
彼女は両手でスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をした。
相変わらず上品な人だ。
『誰かと思えばクソメイドのおでましか』
『イヒヒ。馴れ合いなんかしちゃってだっさ~い』
後ろから二人の女性の声。
振り返るとそこには二人の女性がこちらを睨んでいた。
「シャルルさん。それにあなたは
「エレノア、せっかくおめぇを誘ってやったてのにどうして来ねぇんだよ! 殺すぞッ!」
修道服に身を包んだ口の悪いシスター。後ろには大きな槍を携えている。
赤い三つ編み姿が特徴的な女性だ。
いったい何者だ? エレノアと親しそうだけど。
「イヒヒ。シャルル、相変わらず口悪すぎですよー」
もう一人は金髪ツインテールが特徴的な女性。
時々口に手をやり、変わった笑い声をあげている。
「私はもう探検家ではありませんし。この方々の応援をしに来ました」
「こんなクソみたいな奴らの応援? っち、反吐が出るぜ!」
シャルルの煽りにもろともせず、シャルルは二人のことを話し始めた。
「ご紹介が遅れました。この方たちは私が探検家をしていた時の友人で―――」
「自己紹介はいいんだよ。俺はこいつらとなれ合う気はねーから」
エレノアが喋り終えるより前にシャルルが告げる。
シャルルは嫌な表情を浮かべた後。
真奈美に視線を向けた。
「真奈美もだ、どうしてこんなやつらと一緒につるむ必要があるんだ?」
「一緒にいて楽しいからに決まってるじゃない」
真奈美さんは頬に手をあてながら微笑んだ。
「もしかして、シャルルちゃん、仲間にいれてほしいのかしら?」
「ったく、相変わらずくえねーやつだな」
「それにしてもあなたたち二人だけで参加かしら?」
「ったりめーだろ。俺たちだけで十分だ。お前らみたいに仲良しこよしするためにこのイベントに来たわけじゃない」
シャルルは悪態をついた。
「それにしてもあなたが委員会のイベントにわざわざ顔を出すなんて珍しいですね。何か理由でも?」
エレノアが訊く。
「それはですねー。優勝景品の温泉りょ……」
「このクソ霧切! 言うんじゃねー!」
霧切の口をむりやり塞いだあとにゲンコツを繰り出した。
やっぱり温泉旅行が目当てなのか……。
「そんなことよりエレノア、こんな貧弱なやつらといっしょにいたら俺らが舐められちまうぞ」
「シャルルさん、この方たちを甘く見てると痛い目みますよ」
エレノアが淡々言う。
「どう見たって大したことねーだろ! 一人はおどおどしてるし、もう一人は貧乳でおまけに背も小さいし。如何にも雑魚って感じだろ」
芽衣と暗女を蔑む。
「強い弱いに貧乳なんか、かっ、かんけいないじゃないですか!」
すると芽衣は頬を膨らませながらシャルルに突っかかる。
「なんだおめぇ気にしてんのか?」
「き、気にしてません!!」
「め、芽衣ちゃん。落ち着いて〜」
暗女が間に入るが、明らかに動揺している芽衣。
状況がカオスになってきた……。止めるべきだろうか。
「シャルル、年下をいじめるのおやめになってください」
「っち、こんな底辺の奴らと一緒にいると俺らSSランクの質が下がるってもんだ」
「そうそう! 付き合う相手は選ぶべきですよね~! イヒヒ」
「戦う前から相手の力量を図るのはよくないですよ。シャルルさん、霧切さん」
エレノアが注意する。
「んなことよりエレノア、この冴えない男は誰だよ」
冷徹な目を俺に向けるシャルル。
「シャルル! こいつ、見たことある顔だと思ったら。奏多だ!」
「奏多? 誰だそりゃ?」
「あの、ワイバーンを倒したやつですよ!」
「なに? こいつが……?」
シャルルは俺の足先から頭まで、品定めするように睨む。
「ワイバーンは俺の獲物だったんだ。それをお前が……」
「あぁ……えっと……よろしく」
シャルルの顔が鼻先まで近づく。
俺は耐え切れなくなり目を逸らした。
「ワイバーンを倒すほどの実力があるには見えないけどな』
「シャルルさん、奏多様を甘く見てると後悔いたしますよ。この方はあの雅さんのお弟子さんなんですから……」
エレノアが忠告する。
「ほーう。こいつがね……」
するとシャルルは少し考えた素振りをしたあとこう呟いた。
「決めた。いまからお前は俺の獲物だ」
「え、獲物!?」
不適な笑みを浮かべるシャルル。
「当たり前だ。俺が狩る予定だったワイバーンをお前が倒したんだ。責任とれよ」
「せ、責任!?」
俺なんか悪いことした!?
「イヒヒ! シャルルに目を付けられたら最後、絶対に逃げられませんから覚悟しておいたほうがいいですよ~」
『第一種目に参加する方はこちらにお集まりください』
すると、委員会のアナウンスがロビーに響き渡った。
「っち、せいぜい震えながら神にでも祈るんだな」
「イヒヒ! まったね〜!」
捨て台詞を吐いた後、二人は人混みの中へと消えていった。
「失礼いたしました。私の友人たちが失礼を……」
エレノアが申し訳なさそうに呟く。
「あっ、いや。大丈夫だ。それにしてもSSランクの人たちって癖強いんだな……」
なんていうか、俺って色んなひとから因縁を付けられる定めなのかもしれない……。
色んな人と交流が深めるのはいいが、こんなことになるとは思わなかった。
俺はそんなことを思いながらため息を吐くのだった。
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