第2話 奏多、喧嘩を売られる①

 そして、あっという間に本番当日を迎えた――

 ダンジョン委員会本部にイベントの参加者一同が集まっていた。


 配信で見たことある有名な探検家もちらほらいる。

 やっぱりみんな金一封と温泉旅行目当てだろうか。


「すみません。わざわざ参加していただいて……」

「うふふ、奏多くんからのお誘いだもの。断れないわ」


 今回は真奈美さんも一緒に参加することになった。

 忙しい身でありながら、仕事を早く終わらせて駆けつけてくれた。


「それにしても……可愛い子たちを連れているのね」


 真奈美さんは俺の後ろに控えていた芽衣と暗女に目をやる。


「芽衣と暗女です。今回一緒にイベントに参加します」

「あら、よろしくね。二人の活躍見させてもらってるわ」


 二人に向かって笑顔を向ける。


「あっ、ありがとうございます! よ、宜しくお願いします!」


 暗女は少し緊張気味のようだ。


「宜しくお願いします……」


 芽衣はどこか虚ろな表情を浮かべながら真奈美さんの胸元辺りを見ていた。


「大きい……どうして私だけ……」

「何かしら? 私に何か付いてる?」

「あっ! なんでもないですっ! が、頑張りましょう! あはは……」


 それにしても高橋のやつはどうしたんだ?

 誘った張本人が遅刻とはどういうことだ……。


「やぁ。そこのレディたち――」


 そんなことを考えていると、金髪に長い髪。腰に剣を携えたいかにもナルシストという言葉が似合う男性が俺たちに近づいてきた。


「君たちみたいな可愛いレディーたちをずっと探してたんだ。良かったら僕たちと一緒にイベントに参加しないかい? キリっ!☆」


 一同がはてなマークを浮かべる。


「ドレイク、ずるいぞお前だけ抜けがけか?」

「そーだぞ! 俺らにも喋らせろよ」

「あはは、ごめんごめん。可愛い子を見つけちゃうとつい自然と身体が動いちゃってさ!」


 なんなんだこのふざけた三人組は?


「なんですか? あなたたちは……」


 芽衣が怪訝な表情を浮かべる。


「失礼。僕の名前はドレイク。SSランクの探検家だ。ちなみにチャンネル登録者数は二千万人。最近はアイドル活動もしてるんだ! もちろんセンターさ!」

「あぁ、そうですか……」


 芽衣はつまんなそうに呟く。

 しかしドレイクは続けてこういった。


「ちなみに後ろにいるこいつらはそのアイドルグループの仲間なんだ。もちろん探検家も両立してやっている。どうだ? みんなカッコいいだろ? 僕には負けるけどね!」

「おい! ドレイクそれは言いすぎじゃないか?」

「俺らだってカッコいいと思うだろ?」

「はぁ……」


 暗女が困り顔を浮かべながら呟く。


「僕と一緒にイベントに参加してくれたら高級タワマンの最上階の一部屋を君たちに譲ってあげるよ。キリっ!☆」


 長い髪を思い切りかき上げながら決め顔を浮かべるドレイク。

 さっきからこいつなんなんだ……来ていきなり……。

 みんなが困ってるし、ここは俺が――


「どうだい? 僕たちと一緒に――」

「お断りさせていただきます」


 割って入ろうとしたその時、ハッキリとした口調で芽衣が口を開いた。


「な、なんだって?」

「私、奏多さんと一緒に優勝するために来たんです。知らないたちとは組みたくありません」

「わ、私も……! 嫌です……!」


 すると、ドレイクは俺の存在に気づかなかったのか、

 俺の方を向いてクスリと笑った。


「あぁ、ごめんごめん。オーラがなくて全然気づかなかったよ。君、いま話題の奏多だろ?」

「そうだけど」


 なんだ、俺の事知ってるのか。


「今回のイベントの参加者、レベルが低そうだと思わないかい? 有名な人はちらほらいるけど、僕の足元にもおよばないよ」


 ドレイクは蔑むような目で周りの探検家たちを見つめる。


「ワイバーンを倒したあの配信。どんな手を使ったのかは知らないが、加工はもうやめておくんだな」


 俺の方に手をやり決め顔をするドレイク。


「加工だと?」

「図星か? 最近多いんだよね。バズりたい一心でズルする輩がさ」

「マジかよ。こいつさいてーだな」

「こんなやつ通報しとこうぜ~」


 こいつらマジで言ってるのか。さすがに呆れて言葉が出ない。


「さっきからあなたたち、なんなんですか?」


 芽衣が割り込む。


「奏多さんの実力は本物です! どんな強いモンスターだって一瞬で倒しちゃうんだから!」

「そ、そうです……! 奏多さんは魔法の扱いだって凄いんです……! し、失礼なこと言わないでください!」 


 暗女も珍しく反論する。

 が、ドレイクは髪をかき上げながらこう言った。


「なるほど。君はこのレディーたちに信頼されているようだな」


 すると、ドレイクは腕を組み考えた後、こう告げた。


「それなら、このイベントで僕たちが優勝できたらこの可愛らしいレディーたちを独占できるっていうのはどうかな? キリっ!」

「おっ! 面白そうだな!」

「さんせ~い!」


 なんでそうなるんだ……。

 っていうか、ちょいちょい決め顔ウザイなこいつ……。


『これより開会式を始めます。探検家は所定の位置についてください』


 ロビー全体にアナウンスが響き渡る。


「おっと、それじゃあ。僕たちはそろそろ失礼するよ」

「お、おいっ待て!」


 ドレイクとその仲間たちは俺の事なんか目もくれず、俺意外の三人に向かってウインクをした。


「それじゃあ。待っていてね! 愛しのレディーたち! すぐにそいつの化けの皮を剥がしてやるからさ! キリっ!」

「じゃあね可愛い子ちゃんたち~☆」

「すぐに迎えに行くからね~☆」


 決め顔を浮かべたあと、ドレイクたちは人混みの中へと消えていった。

 俺、勝負を受けるって一言も言ってないんだけどな……。


「なんなんですか! あの勘違い男ども! むかつく~!」


 ドレイクが見えなくなると同時に芽衣が拳を振り上げる。


「暗女ちゃん! 絶対勝とうね!」

「う、うんっ! 私、あの人嫌いです……」


 芽衣と暗女の団結力が今まで以上に凄い。


「真奈美さん、妙に冷静でしたね」

「あっ、いや。ごめんなさい。ヒートアップしてる二人を見てたら冷静になっちゃって……」


 真奈美さんは頬に手をあてながら微笑した。

 真奈美さんが怒ってたらどうなっていたか……想像したらゾッとする。


 ピロピロ――

 高橋から着信だ。まったくあいつどこほっつき歩いてるんだか……。


「おい、お前どこいるんだ? 俺たちはもう集まってるぞ」

『すまん風邪ひいたわ』

「マジかよ。大丈夫なのか?」

『まぁ、俺はなんとか。それより助っ人は来てくれたのか?』

「あぁ、真奈美さんが駆け付けてくれたよ」

『あの人がいれば百人力だな。すまないが俺は配信でお前らの活躍を見させてもらうとするよ』


 高橋の声色がいつもより暗い。

 相当重症のようだ……。


「分かった。絶対優勝してくるから」

『任せたぞ』


 俺はさっき絡まれたドレイクたちのことを訊いてみることにした。


「そうだ、高橋。ドレイクっていう探検家知ってるか?」

『あぁ、有名だよな。探検家の腕も相当らしいけど、そいつがどうかしたか?』

「そいつに因縁を付けられた」

『えぇ……お前、何したんだよ』

「何もしてない……」


 本当に何もしてない。本当に……。

 いつの間にか勝負することになってるし。


『お前ってよく変な奴に絡まれるよな』

「まったくだ……」


 俺はため息を吐きながら呟いた。

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