第17話 奏多、暗女家へ遊びに行く②

 落ち着きを取り戻した朱莉ちゃんと友哉くんは、お姉ちゃんイジりに飽きたのか

 仲良くテレビを見て笑っている。


「先ほどはすみません……うちの妹が」

「元気なのはいいことじゃないか。すごく可愛らしいよ」


 俺には兄弟がいないからこういう下の子と触れ合うのは新鮮だ。


「これ、肉じゃがです。もしよかったら食べてください……」


 暗女はもじもじしながら、肉じゃがをちゃぶ台の上に乗せると、朱莉ちゃんと友哉くんが、笑顔を浮かべながら寄ってくる。


「お姉ちゃんの肉じゃが大好き~」

「それじゃあ、いただきます」


 俺は、肉じゃがを口に運ぶ。


「美味しい……!」


 味が染みていて美味しい。

 じゃがいもとにんじんもホクホクだ。


「こんなに美味しい肉じゃが初めて食べるよ。暗女って料理上手かったんだな」


 今度モンスターの料理方法でも教えてあげよう。

 暗女なら飲み込みが早いかもしれない。


「そっ、そうですか……良かったです……」


 暗女は安心した表情を浮かべたあと、肉を口に運んでゆく。


「朱莉、ちゃんとまっすぐ座りなさい」

「友哉も箸の持ち方が違うわよ」


 そしてすぐに二人の行儀を正す暗女。

 俺はその様子をじっと見つめる。


「どうされたんですか?」


 暗女が小首を傾げる。


「いや、やっぱり暗女は家族思いだなともってさ」

「そ、そうですかね……」

「うん、家にいる時の暗女はなんていうか……お姉さんって感じがする」

「あ、ありがとうございます!」


 頬を染める。

 その様子をじーっと見つめる兄妹たち。


「お姉ちゃん顔真っ赤だよー!」

「なっ……!?」

「照れてるのー?」

「そ、そんなんじゃないから!」


 顔を真っ赤にしながら否定する。


「そういえば、お姉ちゃん、寝る前に必ずかなたお兄ちゃんの配信見てるよね」

「前にかなたお兄ちゃんの声聴きながら寝てたよー!」

「な、なんでそれを……!」


 なんだ、配信を見に来てくれたんならコメントしてくれればいいのに。


「もー! や、やめなさい! 食事中でしょう!」

「「はーい」」


 二人が納得した表情を浮かべたあと、えへへと笑い合う。

 暗女の反応を見るのが好きなんだろうな。この子達を見てると愛されて育てられているのが分かる。


「さっきのはえっと……妹たちの嘘なんで気にしないでくださいね! だからえっと……」

「お、おう……」


 暗女が必死になりながら喋る。

 なんで頬を赤らめているのかよく分からないがとりあえず返事をした。


「あの……奏多さんは子供お好きですか?」


 暗女が不意に訊く。


「特に意識はしてなかったんだけど、暗女の兄弟を見たら、余計に欲しくなったよ」

「何人ぐらいほしいとかあるんですか?」

「うーん。五人?」

「五、五人ですか……!? それは奥さんが大変……ですね」


 すると暗女は目をグルグルさせながらプシューっと頭から煙を出した。

 芽衣の時もそうだったが、これどういう原理なんだろう。


「冗談だよ。まぁ、二人ぐらいかな?」

「あっ、そうですよね……あははっ」


◆ ◆ ◆


 食事を終えた俺は、暗女の洗い物を手伝うことに。

 朱莉ちゃんと、友哉くんはテレビで配信を見ている。楽しそうだ。


「ありがとうございます。なんだか、私たちって夫婦みたい……ですね……」

「えっ? すまん。聞こえなかった」


 ちょうど食器の音と重なってしまい聞き取れなかった。


「あっ! いや、なんでもないです……全然くだらないことですので!」

「そうか? ならいいけど」


 少しの静寂が訪れたあと、暗女は悲しげに口を開いた。


「その……奏多さん……相談に乗ってもらいたいことが……」


 暗女が俺に相談? 珍しいな。


「どうしたんだ?」

「その……私、奏多さんのおかげで魔法の扱い方が上手くなりました……それは、その……嬉しいことなんですが」


 この前の魔力制御の修行のことだろう。

 まだ荒さはあるが、このまま練習していけば暗女ならSランクは余裕だろう。


「私、このまま強くなっていいのかなって」

「どういうことだ? 強くなればたくさん依頼を受けられるって前に言ってただろ?」

「それはそうなんですけど……」


 暗女は少し躊躇いながら語り出す。


「視聴者の皆さんがみたいのは私の弱いところであって、強くなっていく私を見たら興味がなくなって行っちゃうんじゃないかって……練習していて思ったんです」


 前に暗女は、自分のスキルを配信で見せたことによって、バズったと言っていた。

 暗女は家族を養っていくために探検家と配信を両立している。色々不安も多いのだろう。


 だけど俺は断言できる。


「それはないよ」

「ど、どうしてですか?」


 暗女が小首を傾げる。


「前に暗女の配信を見に行った時に、暗女の事を応援するコメントだらけだったんだよ。暗女は修行に夢中で気づいてなかったと思うけど」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ、それに家族のために頑張ってる姿を見て、自分も頑張らなきゃなって思う人もいると思うんだ」

「私の姿を見て……?」

「うん、暗女は自分が思ってる以上に色んな人に影響を与えてると思うよ」

「私が……みんなに……」

「暗女は暗女らしく自信を待って配信をしていけばいいと思う」


 俺は、暗女の目を見つめながらそう言った。

 なんだからしくないことを言ってしまって、急に恥ずかしさがこみあげてくる。


「まぁ、俺が生意気に言えたことじゃないけどな。配信歴は暗女の方が長いし……」

「いえっ、奏多さんに相談して良かったです。ありがとうございます! 私、元気でました……!」


 笑顔を零す暗女。

 どうやら元気を取り戻したようだ。


「暗女、やっぱり笑ってる方がいいよ」

「えっ?」

「あ、いやっ、配信中してる時の暗女って、暗い顔してるからさ。もっと笑ってるところを視聴者はみたいんじゃないかって……」

「笑ってる姿ですか……分かりました。今度から意識してみます!」


 すると、暗女は明るく微笑んだ。とても自然で可愛らしい笑顔だった。

 自信もってこれからもやっていってほしいな。俺はそう思った。


◆  ◆  ◆

 

「かなたお兄ちゃんばいばい〜!」

「また遊ぼうね〜!」

「うん! 元気でね〜」


 くつろいでいるうちにいつのまにか夕陽が沈んでいることに気づいた俺はそろそろ家に帰ることにした。


「奏多さん、今日はありがとうございました。また遊びにきてください……!」


 三人は俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。

 とてもいい家族だ。


「よし、俺も頑張るかな!」


 俺は伸びをしながら、沈みゆく夕陽に向かって呟いた。

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