第12話 奏多、探検家狩りと出会う

「誰だ……?」


 目の前には忍者の恰好をした男が一人。佇んでいた。


「奏多さんお知り合いですか?」


 芽衣が訊ねる。


「いや、知らないな」


 こんな忍者みたいなやつ、知り合いにいたっけか?


「俺様の名前は『探検家狩りのストーム』名前ぐらいは知ってるだろう」


 忍者の男は自信満々に言うがまったく記憶にない。


「うーん……探検家狩り?」


 俺は記憶を頼りに頭を巡らす。


「あー! もしかして!」

「っふ、ようやく思い出したか……いま有名の――」

「岡崎君か! 中学生の時の同級生の!」

「違うわ!!」


 あれ? 人違いか。

 俺の記憶が正しければ岡崎君はよく忍者の恰好をしてニンニンしてた記憶があるんだけど……。


「二人はストームって名前知ってるか?」


 後ろの二人に訊ねる。


「いえっ、こんな変な人知らないです……」

「私も……忍者の知り合いはいないです……配信者にもそんな人はいなかった気がします」


 どうやらみんな知らないらしい。変な奴に絡まれただけか。


「もしかして、奏多さんのファンかもしれませんよ!」


 それは考えてなかった。たまたま居合わせた視聴者か……。


「握手だけでいいですか? 写真はまだちょっとまだ恥ずかしくて……」


 俺はストームと名乗る男に歩み寄り、手を差し出す。

 しかし、中々握ろうとしない。

 なんだ、写真の方がよかったか?


「貴様……俺様を舐めてるのか?」

「いや、そんなことは……」


 まずい怒らせちゃったか……。

 こういう一つの不祥事が炎上につながるってまえに高橋が言ってたし。気を付けなくちゃ。


「それじゃあ、写真撮りましょうか!」


 カメラアプリを立ち上げ写真を撮ろうとするが、中々笑顔を見せない。

 俺にはまだファンサが足りないと言うのか。


「あっ! もしかしたら、暗女の視聴者かもしれないぞ!」

「えっ、そうなんですか? あの……。リア凸は初めてなので、えーっと、どうしたら……」


 暗女はおずおずとストームの前に歩み寄ろうとしたその時。

 ストームの忍刀が俺の首筋にかかる。


「おふざけは終わりだ。貴様を倒しにきた。俺様と戦え、北村奏多」

「か、奏多さん!」


 心配そうに見つめる二人。

 どうやら、ファンじゃなさそうだな。まったく変な奴に絡まれた。


「どうして知らないやつと戦わないといけないんだよ」

「俺を倒さないと色んな探検家が被害にあうぞ」


"こいつ、いま探検家が手を焼いてるストームだ"

"Sランク以上の探検家を狙ってるって噂の"

"Sランク探検家が相手にならないって相当強いんじゃね?"

"今調べたけどほんとっぽい"

"東京全域に注意報がひかれてる"


 横目でコメントを見る。

 どうやら探検家狩りというのは本当らしい。


「しょうがないな。一回だけだぞ」

「っふ、今日がお前の命日だ!」


 すると、ストームは跳躍し、天井、床、壁へと

 瞬時に移動し始める。


「はーはっはっは! 俺様の姿が見えるか? 見えないだろう!」

「へー結構やるじゃん」

「俺様のスキルは『超スピード』音速をも超える速度で移動することができるんだ!」


 さすがSランクの探検家を倒してきたことだけはある。

 こいつ相当強いな。


「その首、貰った!」


 俺の背後に回ったストームが斬りかかってくる。

 だが――。


「よっ!」


 俺はそれをいとも簡単に村正でガードしてみせた。


「な、なんだと!?」

「お前喋りすぎなんだよ。忍者らしくないぞ」

「き、貴様……ならこれはどうだ!」


 ストームは静かに着地し、印を結ぶ。

 すると、残像が五体程浮かび上がった。


「「「「「分身の術! 貴様に本物が見破れるかな?」」」」」


 すげぇ、さすが忍者! って感心してる場合じゃないか。


「か、奏多さん! 私もお手伝いします!」


 後ろで控えていた芽衣がストームに向かって打撃を繰り出す。

 が、その攻撃は虚しくも何もない空間に放たれる。


「えっ! 攻撃はしっかり当たってるはずなのに!」


 何が起こってるのか分からず狼狽えるうろた芽衣。


「っふん、貴様ごときに見切るはずがないだろう。さぁ、かかってこい北村奏多!」


 分身をしているわけではなさそうだな。

 高速で移動することによって残像を生み出しているんだろう。ちょっと試してみるか。


「それ、面白いな。俺もやってみていいか?」

「なに?」


 俺はスキル。現実化リアライズを発動する。


現実化リアライズ――分身の術×100』


 俺は、先ほどストームが行った印を見よう見まねで真似する。


「「「「「「「「「「こんな感じか? なんか不思議な感じだ」」」」」」」」」」


 百体の分身が浮かび上がり、ストームたちを囲む。


「き、貴様……これは一体……」


 狼狽えるうろたストーム。


「相手が悪かったな。そろそろ終わりにするけど、いいよな?」


 俺は、村正に手をやり、抜刀の構えを取る。

 それと同時に百体の分身も同じ動きをする。


『剣技―――時雨ッ!×100』


 村正を引き抜くと同時に百体の分身から斬撃が繰り出される。

 それをストーム目がけて放った。

 

「ぐっはっ!」


 峰うちで放った攻撃は、ストームに直撃。それと同時に周囲の床や壁が一気にひび割れた。

 とてつもない威力の攻撃をうけたストームはその場で崩れ落ちる。


「あっ! やべ! やりすぎた!」


 ちょっと気絶する程度に抑えたはずなんだが、村正の強化を行ったからだろう。

 峰うちでこの威力か……エレノアの館恐るべし……。

 今度からは周囲に気を付けながら村正を使わなくちゃな……。


「おご……うぅぅ」


 村正の威力に驚いているとストームが意識朦朧のなか呟いた。


「お前、意外としぶといな」

「この程度の攻撃……俺様には……ぐっは!」


 立ち上がろうとするが、すぐに膝を付いた。


「めっちゃ効いてるじゃんか、悪いことは言わん。無理するな」

「っふん、貴様、中々やるじゃないか。やはり俺の目に狂いはなかった」

「は?」


 よろめきながら立ち上がるストーム。


「覚えておけ北村奏多! 貴様を倒すのはこの俺様だ!」


 すると、はーはっはっは! っと高笑いをしながらストームの姿が煙と共に一瞬にして消える。

 いったいどんな原理なのか分からないが忍者だから成り立ってるんだろうな。


"探検家狩りのストーム結構強かったな"

"一瞬にして消えたけどどうなってんの?"

"変な奴に絡まれたな"

"また現れるんじゃない?"

"とりあえずよくわからんやつだったな"

"相手が悪かったな"

"あのストームが手も足も出ない"


「な、なんだったんですかねあの人……」

「変な人でしたね……」


 芽衣と暗女はポツリと呟いた。

 まったく、最後まで人の話を聞かない奴だったな。


「まぁ、とりあえず、二人とも帰るか」


 また現れませんようにと、俺は心のなかで祈りながら今度こそダンジョンの外へと歩き出すのだった。

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