第13話 奏多、配信を観る①

「暇すぎる……」


 ポツリと呟く。

 俺はいま、布団の上でごろ寝している。

 

 今日はダンジョンに潜る気分じゃないし、高橋は今日忙しいって言ってたしな……。


「こういう時は配信でも見てだらだらするか」

 

 色んな配信を見て勉強をするのも大事だな。

 そう思った俺は、ベッドに寝転がりながらスマホを手に取る。


「そういえば、前に芽衣もチャンネルを開設したって言ってたな。観に行ってみるか……」


 配信サイトを開くと、ちょうど、芽衣が配信していた。


『初配信! 頑張ってモンスター倒しま~す!♡』


 とても可愛らしいタイトル。

 芽衣らしいな。


『えへへっ、そうですかね~、私なんか――』


 配信を開くと、ちょうど芽衣がスマホに向かって視聴者とコミュニケーションをとっていた。

 同接も10万人を超えている。初配信でこれは凄いな……。


「なんてコメントしよう……あんまり堅苦しいのも良くないよなぁ〜」


"お疲れ~! 頑張ってるみたいだな!"


 コメント送信。

 すると、さっそく周りの視聴者が反応しだした。


"奏多じゃん!"

"彼氏きたー!"

"奏多見に来てて草"

"やっぱり本命ちゃんの配信は気になるよなぁ"

"おーい!芽衣ちゃん!奏多が来たぞ~"

"奏多のこと好きなの?"

"ぶっちゃけどうなの?"


 俺のコメントは一瞬にして流れてゆく。

 みんな良く俺だって分かるなぁ。


 俺が見に来ていると知った芽衣は恥ずかしそうにしながらも笑顔を向ける。


『か、奏多さん!? 配信観に来てくださったんですね!』


 慌てて髪と服を整えている。

 そんなにかしこまらなくていいのに。


『もー! みなさん、変なコメントしないでくださいよぉ。奏多さんに観られて恥ずかしいじゃないですか……』


"照れてて可愛い"

"もう乙女の顔なんよ"

"結婚してくれ"

"これご祝儀です赤スパ3万円"

"赤スパ乙!"

"赤スパすげぇ"


『ちょ、ちょっと! 私まだ結婚してませんからね!』

 

 頬を染めながら照れる芽衣。

 芽衣が視聴者にいじられている。なんか不思議な光景だ。


『奏多さん! 見ててください! 今からモンスターをどんどん倒しちゃいますよ!』


 自信満々に意気込む芽衣。

 すると、ガーゴイルが芽衣の前に現れた。ずっとタイミングを見計らってたかのようだ。


『ゴゲゲゲゲゲゲ』


 ガーゴイルはSランクのモンスターだ。

 上野のダンジョンの時は相当手こずってたみたいだけど大丈夫だろうか。


『私、前とは違いますよ!』


 そう呟きながら、拳を構える。

 ピリピリとした空気が画面越しからでも伝わってくる。


『えいっ!』


 ガーゴイルの腹に向かって打撃を一振り。

 打撃の衝撃によってガーゴイルの腹は貫通し、身体もろとも壁に叩きつけられる。


『ギャ……ガ』


 一瞬にして絶命した。


『見てください! これで汚名返上です!』


 スマホに向かってグーサインを向ける芽衣。


「凄い……」

 

 俺はポツリと呟く。

 前に俺が教えた踏み込みマスターしてるだけでなく、自分なりの形に落とし込んでいる。やっぱり芽衣はセンスがある。


"凄いな!最初に会った時よりも数段強くなってるぞ"


 コメントを送ると、

 芽衣は頬を染めながら笑顔を零した。


『えへへっ、ありがとうございます! ここまで強くなれたのは奏多さんのおかげです!』


"可愛い……"

"やっぱり正妻は芽衣ちゃんか"

"奏多が見てると知ってすぐテンション上がる芽衣ちゃん可愛い"

"打撃を繰り出すときにスカートが……みえ"

"強くて可愛くて、最強か? この子"

"惚れた"

"ガーゴイルをワンパンはさすがに草"

"もうSランクに昇格してあげてくれ"

"逞しくなったなぁ(親の目線)"


 コメントは大盛り上がり。

 どうやら視聴者も楽しんでみているようだ。


"芽衣、頑張れよー! お父さんが見てるからなぁ!"


 ふと、違和感のあるコメントが流れたのを俺は見逃さなかった。

 これは……。


"本部長キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!"

"パパ来たぞ!"

"お父さん巡回済み"

"お父さん仕事しろ"

"出てけー!"

"配信の邪魔するな~"

"本部長、仕事してんの?笑"


 そして、厳しいコメントがとめどなく流れ始める。


「やっぱり本部長か……」


 娘の初配信を聞きつけ、居ても立っても居られなくなったんだろう。


『もー! 見に来ないでって言ったじゃん! 出てって!』


"なんてこと言うんだ、会議を抜け出して、お前の初配信を見に来たんだぞ!"


 相変わらずの親バカだ。というか、仕事しろ。


"なんだこの赤スパは! 芽衣、お前とうとう結婚するのか!相手は誰なんだ!"


『えっ! ちょっと、そんなわけないじゃん!』


"お父さん勘違いしてて草"

"そうだよ!奏多と結婚するよ!"

"おめでとう!"

"888888888888888888888888"

"結婚おめでとう!"

"娘さんは幸せになります"

"お相手は奏多さんです!"


「奏多、娘の事を宜しく頼んだぞ! ちなみに子供の名前は決めたのか?」


 先ほどの赤スパの内容を読んだ本部長が、どうやら勘違いしてしまったようだ。

 普通に考えれば視聴者の悪ノリだと気づくはずなんだけど……。相変わらず娘のことになると周りが見えなくなる。


"親公認で草"

"もう二人とも付き合えよ"

"放送事故で草"

"視聴者も認めてるから結婚はよ"

"パパ暴走してて笑うわ"

"子供は気が早すぎるw"


『ご、ごめんなさい! 奏多さん、配信終わります! また来てくださいね~♪』

 

 その後、親と子の口喧嘩を画面越しで披露した末。配信は強制終了。

 これは、放送事故というやつだろうか。

 凄いものを見た気がする……。


 ピコン――――

 その時、一件の通知が目に入る。


『魔法の練習をします! ぜひ見に来てください!』


 丁寧な配信タイトル。

 ちょうど暗女が配信を始めたみたいだ。


「見に行ってみるか~」


 よく考えたら暗女の配信を一度も見たことなかった。

 これはいい機会だ。

 

 俺はそっと通知をタップした。

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