第4話

 私はわくわくしながら、ツイッターのアプリを開いた。もともと登録してくれた人が400人くらいいたのだけど、1000人を超えていた。フォロワーさんがリツイートしてくれたのだ。


『僕でよかったら友達になりませんか。大学2年生』


 いいなぁ。若くて、元気なんだろなぁ。イケメンかしら。私はリプライを返した。全員にするつもりだった。


『高校生です✌』


『同年代です。私も入院してます。仲良くしてください』

 そっか。入院仲間ができるっていうのもいいかも。私は嬉しくなった。

⇒『どんな病気ですか?』

⇒『切迫早産です』

 あ、妊婦さんか。もやもやする。内心は不幸になって欲しいと思う。


『自分もガンです』

⇒『なんのガンですか?』

⇒『胃癌です。明日手術です。お互い頑張りましょう』

 なんだ、まだ手術できるんじゃねーか。


『恋人募集に応募していいですか。バツ三。子ども8人。無職の外国籍です。水虫とわきが持ちです』

 ふざけんな。ばーか!!!


 だんだん読むのが嫌になって来た。まともなコメントの方が多いのに、変な返信に引っ張られてしまう。


『余命宣告されて彼氏募集って、すごい煩悩にまみれてますね。まだまだお元気ですよ』

『今から彼氏作ってどうするんですか?介護要員ですか?』

『応募しようか迷ってるんですけど、遺産どのくらいありますか?』

『よくゴリラに似てるっていわれます。それでもいいですか?』


 見るたびにフォロワーが増えていて、数日で1万人を超えた。中には海外の人も混じっていた。


『家が洪水で流されてしまいました。現金送ってください』(翻訳)


 詐欺を企んでる人のエネルギーはすごいなと思う。

 本人を目の前に説教してみたい。


 だんだん、ツイッターをする元気もなくなる。見るだけになって来る。

 何が書いてあるかも覚えていないのだが、いろんな人のツイートを見た。


 だるいし、吐き気がすごい。

 もう、助からないというのが体感でわかる。

 

 山Bのビデオを見る。

 すごいイケメンだ。

 おかげで元気になる。


***


 誰もが知っているだろうけど、ツイッターには、DMを送る機能もある。

 何人か直接DMをくれて、こういう治療はどうかと教えてくれる。

 もう、手遅れだ。ありがとうとお礼を書く。


 宗教の勧誘もある。

 新興宗教。

 私は神様は信じない。


 そして、入院して一週間くらい経った時。


 何と山B本人からもDMが来たのだ!何度も確認したが、本当に公式からだった。そのことをツイッターに書いた。


『なんと、さっき山B様本人からDMをもらいました😲

 号泣しました🌊

 ご活躍をあの世から祈ってます😢

 本当はもっと見ていたかったですが。

 一介のファンにまでDMをくれるなんて、本当に優しい方なんだと思いました。

 いままで楽しませていただいて、ありがとうございました』


 人生で一番幸せな瞬間だった。

 私だけに向けられたメッセージ。


 しかし、これがいけなかったらしい。


『病気だからって、山Bの気を引こうとするのやめてください。みんな大変なのは一緒です』

『病気をエサにして、同情を引くのずるい。いい年して恥ずかしい』

『余命宣告されている割には元気すぎる。父が末期がんでしたが、意識がもうろうとして、スマホなんて見れませんでしたよ。だから、癌というのは嘘だと思う』

『癌だっていう証拠出せ』


 私は抗がん剤の点滴の写真をツイートした。

『本物のがん患者です』

→古参のフォロワーさんは『そんな人たち相手にしちゃだめですよ』と言ってくれた。

→『その写真、ネットから取って来たんじゃねーの?』

→『そうそう。探せばいっぱいあると思う』

 

『この人は人の気を引きたい寂しい人なんだよ。相手にしないのが一番。返信すると喜んじゃうから。無視するべし』

『40代独身でシャニーズファンなんて気持ち悪い。実物もきもいと思う』

『もうシャニーズ事務所は存在しませんよ。社名を間違えるなんて、事務所のタレントさん、被害に遭われた方々双方に失礼です』

『今時、シャニーズファンとかありえない』

『そのうち、半年前に余命宣告されましたが、奇跡が起こりました!治りました!って言うパターンじゃないの?どこぞのYouTuberみたいに』

『芸能人でもあるまいし、あんたのツイートなんて誰も見ないよ』

『病気のふりするのやめてください』

『そんな風にネガティブだから友達がいないんじゃないですか。家族とかもいないんですか?』

『お見舞い来てくれる人と誰もいないんですか?かわいそう』

『友達いないのがわかる。自分から人を遠ざけている』

『病気になるのは前世の報いです』


 笑ってしまった。末期がんの人にこういう言葉をかけるってすごいなと思う。ネットだからなんだろう。こういう人は面と向かっては何も言えないに違いない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る