子供達と神々の神楽 ～月の章～

澪と恵

【金（きん）曜（よう）　日向（ひゅうが）家（け） 午（ご）前（ぜん）７時（じ）20分（ぷん）】

“「臨（りん）時（じ）ニュースを藤（ふじ）原（わら） 美（み）鈴（すず）がお送（おく）りします。俳（はい）優（ゆう）の曽（そ）我（が） 町（まち）子（こ）氏（し）の演（えん）じる魔（ま）女（じょ）バンドーラの衣（い）装（しょう）が、何（なに）者（もの）かによって盗（ぬす）まれると言（い）う事（じ）件（けん）が、今日（きょう）の深（しん）夜（や）起（お）きた模（も）様（よう）です。目（もく）撃（げき）した東（とう）映（えい）の関（かん）係（けい）者（しゃ）に由（よ）りますと、犯（はん）人（にん）は鼻（はな）高（たか）天（てん）狗（ぐ）の姿（すがた）をしていたとの事（こと）。……別（べつ）の事（じ）件（けん）です。○○県（けん）境（きょう）群（ぐん）市（し）○○町（ちょう）の株（かぶ）式（しき）会（がい）社（しゃ）、大和（やまと）土（ど）木（ぼく）建（けん）築（ちく）工（こう）業（ぎょう）の敷（しき）地（ち）内（ない）から、多（た）数（すう）の重（じゅう）機（き）が強（ごう）奪（だつ）される事（じ）件（けん）が起（お）きた模（も）様（よう）です。こちらの犯（はん）人（にん）は目（もく）撃（げき）者（しゃ）に由（よ）ると赤（あか）鬼（おに）だとの事（こと）。尚（なお）、この２つの事（じ）件（けん）の関（かん）連（れん）性（せい）は不（ふ）明（めい）との事（こと）です。この件（けん）に付（つ）いて警（けい）視（し）庁（ちょう）は……」”

　そんな朝（あさ）のニュース番（ばん）組（ぐみ）を見（み）ながら、朝（ちょう）食（しょく）を取（と）っていた太（たい）耀（よう）に、太（たい）耀（よう）の母（はは）親（おや）は心（しん）配（ぱい）そうに声（こえ）を掛（か）ける。

「昨日（きのう）帰（かえ）って来（き）てから、まだ機（き）嫌（げん）悪（わる）そうだけど。太（たい）耀（よう）、友（とも）達（だち）とケンカでもした？」

「そんなんじゃないよ、母（かあ）さん」

　太（たい）耀（よう）は母（はは）親（おや）にそう言（い）い返（かえ）すが、実（じっ）際（さい）太（たい）耀（よう）の機（き）嫌（げん）は悪（わる）い。

　理（り）由（ゆう）は、昨日（きのう）の澪（みお）との口（くち）ゲンカ。

「隠（かく）しても駄（だ）目（め）よ。相（あい）手（て）は葉（よう）司（じ）君（くん）、それとも北（ほく）斗（と）君（くん）？」

　母（はは）親（おや）に更（さら）にそう追（つい）及（きゅう）され、太（たい）耀（よう）は反（はん）射（しゃ）的（てき）に言（い）い返（かえ）す。

「アイツ等（ら）じゃ……」

　しかしそれが墓（ぼ）穴（けつ）と成（な）り、母（はは）親（おや）に口（くち）ゲンカの事（こと）がバレてしまう。

「ほら、やっぱりケンカしたんじゃない。でも珍（めずら）しいわね、太（たい）耀（よう）が他（ほか）の子（こ）とケンカするなんて？」

　最（さい）初（しょ）こそ少（すこ）し怒（おこ）った太（たい）耀（よう）の母（はは）親（おや）だが、息（むす）子（こ）が葉（よう）司（じ）や北（ほく）斗（と）以（い）外（がい）の子（こ）と問（もん）題（だい）を起（お）こしたのが懐（なつ）かしく、とても不（ふ）思（し）議（ぎ）に感（かん）じてそう聞（き）き返（かえ）した。

「遅（おく）れると悪（わる）いから、僕（ぼく）行（い）くよ。ご馳（ち）走（そう）様（さま）」

　しかし太（たい）耀（よう）はそう言（い）って、自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）に戻（もど）るとランドセルを背（せ）負（お）い、少（すこ）し慌（あわ）てて家（いえ）から出（で）て行（い）こうとする。

「行（い）って来（き）ます……」

　そう言（い）って家（いえ）を出（で）た太（たい）耀（よう）は、昔（むかし）の事（こと）を思（おも）い出（だ）しながら心（こころ）の中（なか）で言（い）う。

（珍（めずら）しいか、やっぱり僕（ぼく）はアイツが嫌（きら）いだ……　でも……）

　★★★★

【同（どう）日（じつ）　玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう） 午（ご）前（ぜん）８時（じ）15分（ぷん）】

　太（たい）耀（よう）は学（がっ）校（こう）に到（とう）着（ちゃく）すると、澪（みお）と恵（めぐみ）を探（さが）し始（はじ）める。

　昨日（きのう）の 澪（みお）との口（くち）ゲンカが、人（ひと）伝（づた）いに恵（めぐみ）や組（クラス）全（ぜん）体（たい）に伝（つた）わってしまい、二（ふた）人（り）の仲（なか）も悪（わる）く成（な）っていた。

　その事（こと）に責（せき）任（にん）を感（かん）じていた太（たい）耀（よう）は、二（ふた）人（り）に謝（あやま）ろうと考（かんが）え、連（れん）絡（らく）網（もう）を使（つか）って二（ふ）人（たり）に電（でん）話（わ）をする事（こと）に決（き）める。

　しかし澪（みお）からも恵（めぐみ）からも、太（たい）耀（よう）からの電（でん）話（わ）だと分（わ）かると、直（す）ぐに電（でん）話（わ）を切（き）られてしまった。

　仕（し）方（かた）なく太（たい）耀（よう）は、今日（きょう）学（がっ）校（こう）で直（ちょく）接（せつ）二（ふ）人（たり）に謝（あやま）る事（こと）に決（き）めたのだ。

　太（たい）耀（よう）が靴（くつ）箱（ばこ）を確（かく）認（にん）すると、二（ふた）人（り）は学（がっ）校（こう）には来（き）て居（い）る。

　がしかし、ランドセルは有（あ）るが当（とう）人（にん）達（たち）は教（きょう）室（しつ）に居（い）無（な）い。

　　キーン　コーン　カーン　コーン

　　　ピン　ポン　パン　ポン

「玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）の皆（みな）さん、お早（は）よう御（ご）座（ざ）います。今日（きょう）は新（しん）入（にゅう）生（せい）歓（かん）迎（げい）会（かい）です、生（せい）徒（と）の皆（みな）さんは椅子（いす）を持（も）って体（たい）育（いく）館（かん）に行（い）きましょう」

　　ポン　パン　ポン　ピン

　校（こう）内（ない）放（ほう）送（そう）が終（お）わり、組（クラス）の皆（みんな）が椅子（いす）を持（も）って体（たい）育（いく）館（かん）に移（い）動（どう）しだすが、澪（みお）と恵（めぐみ）が組（クラス）に戻（もど）って来（く）る様（よう）子（す）は無（な）い。

「おい太（たい）耀（よう）、行（い）くぞ！」

　そう呼（よ）び掛（か）けた葉（よう）司（じ）に太（たい）耀（よう）は言（い）う。

「悪（わる）い葉（よう）司（じ）、僕（ぼく）の椅子（いす）を体（たい）育（いく）館（かん）に持（も）ってってくれ。僕（ぼく）は澪（みお）と春日（かすが）さん探（さが）して来（く）る」

「そう言（い）やあいつ等（ら）、どうしたんだ？」

　葉（よう）司（じ）がそう太（たい）耀（よう）に聞（き）くと、北（ほく）斗（と）がそれに答（こた）える。

「ミオッチは昨日（きのう）の事（こと）が有（あ）って、ボク等（ら）と顔（かお）合（あ）わせ辛（つら）いんだと思（おも）うけど、春日（かすが）さんはやっぱりムリかなぁ……」

「それじゃ三（さん）人（にん）で探（さが）そうぜ、その方（ほう）が早（はや）いだろ？」

　そう提（てい）案（あん）する葉（よう）司（じ）に、北（ほく）斗（と）が言（い）い返（かえ）す。

「見（み）付（つ）けるだけじゃ問（もん）題（だい）の解（かい）決（けつ）にはならないよ。それにイスはどうするのさ？」

「それなら澪（みお）と春日（かすが）のも含（ふく）めて、先（せん）生（せい）が持（も）ってってやろう」

　急（きゅう）に話（はな）しに入（はい）って来（き）た、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）に三（さん）人（にん）は驚（おどろ）く。

（（！））

　驚（おどろ）いている三（さん）人（にん）に、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は更（さら）に続（つづ）ける。

「その代（か）わり、他（た）の先（せん）生（せい）達（たち）には余（あま）り見（み）付（つ）かるなよ」

「ありがとう御（ご）座（ざ）います、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）」

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）の言（こと）葉（ば）に、太（たい）耀（よう）はお辞（じ）儀（ぎ）をしお礼（れい）を言（い）うと教（きょう）室（しつ）を駆（か）け出（で）て行（い）く。

「ありがとよ先（せん）生（せい）」

　続（つづ）けてそう言（い）った葉（よう）司（じ）が教（きょう）室（しつ）を出（で）て行（い）くと、最（さい）後（ご）に北（ほく）斗（と）が軽（かる）いお辞（じ）儀（ぎ）をして教（きょう）室（しつ）を出（で）て行（い）った。

「へぇぇぇ。渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）、けっこう良（い）い所（ところ）あるじゃない」

　それを見（み）ていた葵（あおい）がそう言（い）うと、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は文（もん）句（く）を言（い）う。

「結（けっ）構（こう）は余（よ）計（けい）だ！」

「多（た）分（ぶん）天（あま）池（いけ）君（くん）と春日（かすが）さんを説（せっ）得（とく）する自（じ）身（しん）が無（な）いから、北（ほく）斗（と）君（くん）達（たち）に丸（まる）投（な）げしただけですよね？」

　一（いち）連（れん）の様（よう）子（す）を見（み）ていた薫（かおる）が渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）にそう言（い）うと、図（ず）星（ぼし）をつかれた渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は恥（は）ずかしそうに薫（かおる）と葵（あおい）にお願（ねが）いをする。

「薫（かおる）、島（しま）田（だ）。あぁは言（い）ったが澪（みお）と春日（かすが）の椅子（いす）はお前（まえ）達（たち）で運（はこ）んでくれ。流石（さすが）に椅子（いす）五（いつ）つ持（も）って階（かい）段（だん）降（お）りるのは危（あぶ）なそうだからな」

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）の言（こと）葉（ば）に、葵（あおい）は文（もん）句（く）を言（い）う。

「何（なん）で私（わたし）達（たち）が！」

「委（い）員（いん）長（ちょう）の仕（し）事（ごと）だ。自（じ）分（ぶん）から立（りっ）候（こう）補（ほ）したんだろう」

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）にそう言（い）い返（かえ）され、葵（あおい）はブツクサ言（い）いながらも、恵（めぐみ）の椅子（いす）を自（じ）分（ぶん）の椅子（いす）に重（かさ）ねて持（も）ち上（あ）げる。

「まったくもう。男（だん）子（し）の学（がっ）級（きゅう）委（い）員（いん）は太（たい）耀（よう）君（くん）がなると思（おも）ってたのに……」

　そして愚痴（ぐち）を言（い）いながら、葵（あおい）は教（きょう）室（しつ）を出（で）て行（い）った。

　★★★★

「……ねぇ」

　第（だい）二（に）音（おん）楽（がく）室（しつ）の楽（がっ）器（き）の置（お）いてある部（へ）屋（や）。

　其（そ）処（こ）で恵（めぐみ）を見（み）付（つ）けた澪（みお）は、蹲（うずくま）っている恵（めぐみ）にそう話（はな）し掛（か）けた。

「……何（なに）？」

　恵（めぐみ）にそう言（い）い返（かえ）されるが、澪（みお）には返（かえ）す言（こと）葉（ば）が見（み）付（つ）からない。

　悪（あく）意（い）が無（な）かったとは言（い）え、結（けっ）果（か）的（てき）に不（ふ）安（あん）の恵（めぐみ）に組（クラス）の注（ちゅう）目（もく）を集（あつ）め、更（さら）に不（ふ）安（あん）を増（ぞう）大（だい）させて今（いま）の状（じょう）態（たい）にしてしまった自（じ）分（ぶん）が、どう言（い）えば許（ゆる）してもらえるか分（わ）からないし、勇（ゆう）気（き）付（づ）ける言（こと）葉（ば）なんて持（も）ってはいないからだ。

　しかし知（し）らない振（ふ）りも出（で）来（き）なかった澪（みお）は、恵（めぐみ）を探（さが）し出（だ）した。

　けれどそれ以（い）上（じょう）でもそれ以（い）下（か）でもない。

　掛（か）ける言（こと）葉（ば）は思（おも）い付かず、かと言（い）って素（す）直（なお）に謝（あやま）る勇（ゆう）気（き）も無（な）く……

　ただ傍（かたわ）らで、佇（たたず）むだけしか出（で）来（き）てはいない。

（「貴方（あなた）達（たち）はそれで良（い）いの？」）

　不（ふ）意（い）に、刻（とき）代（よ）の声（こえ）が澪（みお）と恵（めぐみ）の頭（あたま）に響（ひび）く。

　二（ふ）人（たり）は反（はん）射（しゃ）的（てき）に刻（とき）代（よ）の姿（すがた）を探（さが）すが、刻（とき）代（よ）の姿（すがた）は無（な）い。

（「心（しん）配（ぱい）して来（き）てみれば。大（たい）変（へん）な事（こと）になってるわね、二（ふた）人（り）共（とも）」）

　念（ねん）話（わ）の声（こえ）はすれど姿（すがた）の見（み）えない刻（とき）代（よ）は、二（ふた）人（り）に念（ねん）話（わ）を続（つづ）ける。

（「言（い）ったはずよ、私（わたし）は貴方（あなた）達（たち）自（じ）身（しん）。姿（すがた）は違（ちが）うけど、私（わたし）の言（こと）葉（ば）は貴方（あなた）達（たち）自（じ）身（しん）の気（き）持（も）ちそのもの。変（か）わりたいなら、自（みずか）らの姿（すがた）を鏡（かがみ）に問（と）うて御（ご）覧（らん）なさい」）

　刻（とき）代（よ）からの念（ねん）話（わ）が終（お）わって暫（しばら）くし、部（へ）屋（や）の外（そと）の方（ほう）から北（ほく）斗（と）の声（こえ）が聞（き）こえて来（く）る。

「ミオッチ、春日（かすが）さん、居（い）る？」

　　キュウーン

　大（おお）き目（め）の扉（とびら）を開（あ）け、北（ほく）斗（と）が澪（みお）と恵（めぐみ）の居（い）る部（へ）屋（や）に入（はい）って来（く）ると、北（ほく）斗（と）は二（ふ）人（たり）を見（み）付（つ）け心（しん）配（ぱい）そうに言（い）う。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、急（いそ）がないと新（しん）入（にゅう）生（せい）歓（かん）迎（げい）会（かい）が始（はじ）まるよ？」

　しかし澪（みお）と恵（めぐみ）からの反（はん）応（のう）は無（な）い。

　困（こま）った北（ほく）斗（と）は話（はな）しを続（つづ）ける事（こと）にした。

「イスは渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）が持（も）ってって来（く）れるって。それと、太（たい）耀（よう）君（くん）が二（ふた）人（り）に謝（あやま）りたがってたから呼（よ）んで来（く）るね」

　そして北（ほく）斗（と）は太（たい）耀（よう）を呼（よ）びに行（い）こうとする。

　しかし……

「待（ま）って！」

　それを澪（みお）は声（こえ）を上（あ）げて止（と）めた。

　北（ほく）斗（と）は優（やさ）しく澪（みお）に言（い）う。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）。太（たい）耀（よう）君（くん）は昨日（きのう）の事（こと）、そんなに怒（おこ）ってないから」

　そう言（い）った北（ほく）斗（と）に、澪（みお）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）りながら言（い）い返（かえ）す。

「違（ちが）う……」

（やっぱり僕（ぼく）にはムリ……）

　そう心（こころ）の中（なか）で言（い）い、自（じ）分（ぶん）には変（か）わる事（こと）は無（む）理（り）だと考（かんが）え始（はじ）めた澪（みお）の、ランドセルに付（つ）いている白（はく）銅（どう）鏡（きょう）のキーホルダーに人（ひと）知（し）れず罅（ひび）が入（はい）る。

　　ピキン

　澪（みお）は自（じ）分（ぶん）の心（こころ）にケジメを付（つ）けたつもりで、北（ほく）斗（と）に力（ちから）無（な）く言（い）う。

「……ごめん。後（あと）で体（たい）育（いく）館（かん）に行（い）くから、僕（ぼく）の事（こと）放（ほう）っておいて」

　そう言（い）ってその場（ば）から立（た）ち去（さ）ろうとする澪（みお）の腕（うで）を、恵（めぐみ）は顔（かお）を上（あ）げ掴（つか）み引（ひ）き止（と）める。

（恵（めぐみ）ちゃん？）

　恵（めぐみ）の行（こう）動（どう）に澪（みお）が驚（おどろ）いていると、恵（めぐみ）は 少（すこ）し悲（かな）しそうに言（い）う。

「……待（ま）って、私（わたし）も行（い）く」

　言（い）った恵（めぐみ）は澪（みお）の腕（うで）から手（て）を放（はな）し、立（た）ち上（あ）がった恵（めぐみ）に北（ほく）斗（と）も少（すこ）し驚（おどろ）く。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）？」

　恵（めぐみ）は北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）に返（へん）事（じ）を返（かえ）さない。

　恵（めぐみ）の意（い）思（し）は澪（みお）に向（む）いていた。

　恵（めぐみ）が取（と）った行（こう）動（どう）は無（む）意（い）識（しき）で、そうしないと仲（なか）間（ま）がいなくなってしまう気（き）がしたのだ。

「……恵（めぐみ）ちゃん？」

　勇（ゆう）気（き）を出（だ）してそう聞（き）く澪（みお）に、恵（めぐみ）は我（われ）に返（かえ）ると少（すこ）し考（かんが）え、今（こん）度（ど）は恵（めぐみ）が勇（ゆう）気（き）を出（だ）し北（ほく）斗（と）に聞（き）いてみる事（こと）にした。

「白（しら）石（いし）君（くん）は、どうしたら自（じ）信（しん）が付（つ）くと思（おも）う」

　どんな言（こと）葉（ば）でも良（い）いので、少（すこ）しでも前（まえ）向（む）きになれる言（こと）葉（ば）を聞（き）けたのなら、それに縋（すが）ってみようと。

　しかし北（ほく）斗（と）からの言（こと）葉（ば）は、恵（めぐみ）が思（おも）いも寄（よ）らないモノ。

　北（ほく）斗（と）は少（すこ）し考（かんが）えてから言（い）う。

「前（まえ）にボクが太（たい）耀（よう）君（くん）に同（おな）じ事（こと）聞（き）いたら、聞（き）いた時（じ）点（てん）でダメだって言（い）われたよ」

「「えっ！」」

　澪（みお）も恵（めぐみ）も、北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）に声（こえ）を出（だ）して驚（おどろ）いた。

　内（ない）容（よう）にではなく、金（かね）持（も）ちだったり、能（のう）力（りょく）で目（め）立（だ）ちまくる葉（よう）司（じ）、太（たい）耀（よう）、恵（え）理（り）花（か）と友（とも）達（だち）が出（で）来（き）ていて、北（ほく）斗（と）自（じ）身（しん）に自（じ）信（しん）が無（な）い事（こと）にである。

　二（ふ）人（たり）の反（はん）応（のう）を少（すこ）し不（ふ）快（かい）に思（おも）った北（ほく）斗（と）は、少（すこ）しムッとして聞（き）く。

「『えっ！』て、どう言（い）う事（こと）さ」

「ごめんなさい。あの三（さん）人（にん）と仲（なか）良（よ）くて自（じ）信（しん）が無（な）いとは思（おも）わなくて……」

　恵（めぐみ）が申（もう）し訳（わけ）なさそうにそう言（い）うと、澪（みお）も頷（うなず）いた。

「ボクに自（じ）信（しん）なんて無（な）いよ。でも最（さい）近（きん）は、成（な）りたい自（じ）分（ぶん）に成（な）る為（ため）に行（こう）動（どう）はしてる」

　北（ほく）斗（と）がそう言（い）うと、恵（めぐみ）は聞（き）き返（かえ）す。

「どう言（い）う事（こと）？」

　すると北（ほく）斗（と）は照（て）れながら言（い）う。

「好（す）きな子（こ）が自（じ）分（ぶん）を見（み）てくれる様（よう）、なるべく僕（ぼく）の方（ほう）から行（こう）動（どう）を起（お）こす様（よう）にしてる」

（……相（あい）手（て）は黒（くろ）沢（さわ）さんよね、多（た）分（ぶん）。そう言（い）う事（こと）が出（で）来（き）る勇（ゆう）気（き）が私（わたし）に有（あ）れば……）

　俯（うつむ）きそう考（かんが）える恵（めぐみ）に、北（ほく）斗（と）は教（おし）える。

「伏（ふし）見（み）さんが言（い）ってたけど、今（いま）の自（じ）分（ぶん）に自（じ）信（しん）を持（も）ちたいから、代（だい）役（やく）引（ひ）き受（う）けたんでしょ。その勇（ゆう）気（き）が有（あ）れば、きっと変（か）われるとボクは思（おも）うよ」

「……ねぇ恵（めぐみ）ちゃん。僕（ぼく）は恵（めぐみ）ちゃんが出（で）てる劇（げき）が見（み）たい」

　澪（みお）が突（とつ）然（ぜん）、恥（は）ずかしそうに恵（めぐみ）にそう言（い）った。

　顔（かお）を赤（あか）くしながら。

　一（いち）度（ど）は現（げん）状（じょう）から逃（に）げ出（だ）そうとした澪（みお）が、恵（めぐみ）の行（こう）動（どう）や北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）に感（かん）化（か）され、上手（うま）く伝（つた）わらないと思（おも）いつつ恵（めぐみ）に贈（おく）った精（せい）一（いっ）杯（ぱい）の言（こと）葉（ば）。

「ボクも春日（かすが）さんと一（いっ）緒（しょ）に劇（げき）やりたいな。もし多（おお）人（にん）数（ずう）が苦（にが）手（て）なら、ボクかミオッチだけ見（み）てれば良（い）いよ。ボク等（ら）に向（む）かってならそんなに緊（きん）張（ちょう）しないで……」

　北（ほく）斗（と）がそう話（はな）しをしているとチャイムが鳴（な）る。

　　キーン　コーン　カーン　コーン

「ほら、急（いそ）がないと新（しん）入（にゅう）生（せい）歓（かん）迎（げい）会（かい）が始（はじ）まるよ」

　そう言（い）った北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、恵（めぐみ）は自（じ）分（ぶん）に言（い）い聞（き）かせる。

　澪（みお）と北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）に答（こた）える為（ため）に。

（やってみよう……　少（すこ）しだけがんばって）