　悩（なや）んでいる北（ほく）斗（と）の耳（みみ）に恵（え）理（り）花（か）の声（こえ）が聞（き）こえる。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、逃（に）げて……」

　鬼（おに）丸（まる）に捕（と）らわれている恵（え）理（り）花（か）がそう行（い）うが、北（ほく）斗（と）も小（こ）太（た）郎（ろう）も動（うご）か無（な）い。

　正（せい）確（かく）には北（ほく）斗（と）は動（うご）けない。

「フン、逃（に）げる程（ほど）臆（おく）病（びょう）ではないが、立（た）ち向（む）かう勇気（ゆうき）は無（な）いか……」

　鬼（おに）丸（まる）がそう言（い）うと、暫（しばら）くして事（じ）務（む）所（しょ）の中（なか）から数（すう）名（めい）の大人（おとな）達（たち）が現（あらわ）れる。

「恵（え）理（り）花（か）ちゃん！」

「コイツ、確（たし）か河川（かせん）敷（しき）の！」

　驚（おどろ）いている大人（おとな）達（たち）を確（かく）認（にん）した鬼（おに）丸（まる）は、北（ほく）斗（と）に視（し）線（せん）を戻（もど）し思（おも）う。

（見（み）込（こ）み違（ちが）いか、押（お）しが足（た）らんか……）

「想（そう）像（ぞう）の鎚（つち）よ聞（き）いているか？　この小（こ）娘（むすめ）の命（いのち）が惜（お）しくばお前（まえ）だけで来（く）るがいい」

　そう言（い）った鬼（おに）丸（まる）の周（しゅう）囲（い）から、熱（ねつ）を帯（お）びた灰（はい）色（いろ）の煙（けむ）りが立（た）ち上（のぼ）り、北（ほく）斗（と）達（たち）の視（し）界（かい）を一（いち）時（じ）的（てき）に塞（ふさ）ぐ。

　煙（けむ）りが消（き）えると、鬼（おに）丸（まる）と恵（え）理（り）花（か）の姿（すがた）はその場（ば）から消（き）え去（さ）っていた。

　★★★★

　人（ひと）目（め）に付（つ）かぬ様（よう）に、鬼（おに）丸（まる）とスセリは黒（くろ）沢（さわ）家（け）に移動（いどう）しており、恵（え）理（り）花（か）は鬼（おに）丸（まる）にお姫（ひめ）様（さま）抱（だ）っこされた状（じょう）態（たい）で眠（ねむ）っていた。

「此（こ）れから如何（どう）するつもりです、鬼（おに）丸（まる）」

　スセリは鬼（おに）丸（まる）に少（すこ）し驚（おどろ）いた様（さま）にそう言（い）うと、鬼（おに）丸（まる）は少（すこ）し面（めん）倒（どう）臭（くさ）そうに答（こた）える。

「余（あま）り大（おお）きな声（こえ）を出（だ）すな、小（こ）娘（むすめ）が起（お）きるぞ。俺（おれ）は前（まえ）に言（い）った筈（はず）だ、自（じ）分（ぶん）の望（のぞ）みを優（ゆう）先（せん）すると。それに貴（き）様（さま）も、あの小（こ）僧（ぞう）が一（ひと）人（り）でどの程（てい）度（ど）出（で）来（き）るか知（し）りたいのだろう？」

「それはそうですが、行（い）きなり恵（え）理（り）花（か）を連（つ）れ去（さ）るなんて……」

　そう言（い）ったスセリの言（こと）葉（ば）に、鬼（おに）丸（まる）は思（おも）う。

（スセリ、この娘（むすめ）に情（じょう）でも目（め）生（ば）えたか？）

「安（あん）心（しん）しろ、小（こ）娘（むすめ）にはお姫（ひめ）様（さま）役（やく）をやって貰（もら）うだけだ」

　鬼（おに）丸（まる）はスセリにそう答（こた）えると、更（さら）に考（かんが）える。

（前（まえ）の戦（たたか）い。俺（おれ）に攻撃（こうげき）を当（あ）てた心（こころ）が鬼（おに）のモノで有（あ）るならば、小（こ）僧（ぞう）の心（こころ）にも俺（おれ）と同（おな）じモノが眠（ねむ）っている筈（はず）……）

　そして鬼（おに）は言（い）う。

「鬼（おに）の敵（てき）には鬼（おに）が相応（ふさわ）しい。さて小（こ）娘（むすめ）には悪（わる）いが、お姫（ひめ）様（さま）役（やく）をやって貰（もら）うぞ」

　★★★★

　空（そら）は紺（こん）色（いろ）に染（そ）まっている。

（ボクだけで来（こ）いって、どこに居（い）るのさ……）

　境（きょう）群（ぐん）市（し）を40分（ぷん）程（ほど）走（はし）り回（まわ）わった北（ほく）斗（と）が、そう思（おも）いながら公（こう）園（えん）で休（きゅう）憩（けい）しているとスセリから念（ねん）話（わ）が届（とど）く。

（「北（ほく）斗（と）、聞（き）こえる？」）

（「スセリ？　今（いま）どこに居（い）るの？」）

　慌（あわ）てて北（ほく）斗（と）が念（ねん）話（わ）でそう聞（き）き返（かえ）すと、スセリは申（もう）し訳（わけ）なさそうに答（こた）える。

（「ごめんなさい、私（わたし）が油（ゆ）断（だん）していたばかりに。貴方（あなた）達（たち）とは別（べつ）の、川（かわ）の近（ちか）くに有（あ）る小（しょう）学（がっ）校（こう）よ。近（ちか）くにガスタンクとか言（い）うのが在（あ）るわ」）

（「美（み）朱（あか）小（しょう）学（がっ）校（こう）の方（ほう）か。恵（え）理（り）花（か）ちゃんは無（ぶ）事（じ）？」）

（「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）よ。それより一（ひと）人（り）？」）

（「うん、鬼（おに）丸（まる）にも言（い）われたし……」）

　そう返（へん）事（じ）を返（かえ）した北（ほく）斗（と）だが、本（ほん）心（しん）は別（べつ）の所（ところ）に有（あ）った。

　動（うご）けなかった自（じ）分（ぶん）を悔（く）い、自（じ）分（ぶん）の力（ちから）で恵（え）理（り）花（か）を助（たす）けたいと思（おも）っていたのだ。

（「待（ま）ってて、今（いま）狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で助（たす）けに行（い）くから」）

　北（ほく）斗（と）が念（ねん）話（わ）でスセリにそう言（い）うと、スセリは心（しん）配（ぱい）そうに念（ねん）話（わ）で言（い）い返（かえ）す。

（「くれぐれも正（しょう）体（たい）はバレない様（よう）にね。バレたら家（か）族（ぞく）全（ぜん）体（たい）が大（たい）変（へん）な事（こと）になるかも知（し）れないから」）

（「分（わ）かってる」）

　念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）した北（ほく）斗（と）は、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）を呼（よ）び出（だ）す場（ば）所（しょ）を探（さが）し始（はじ）め、念（ねん）話（わ）を受（う）けたスセリは思（おも）う。

（これなら、北（ほく）斗（と）も一（ひと）人（り）だけで巻（ま）き込（こ）んでも問（もん）題（だい）はなさそうね……　フフフ、頑（がん）張（ば）りなさい北（ほく）斗（と））

　近（ちか）くの市（し）民（みん）体（たい）育（いく）館（かん）裏（うら）に在（あ）る駐（ちゅう）車（しゃ）場（じょう）までやって来（き）た北（ほく）斗（と）は、人（ひと）目（め）が無（な）い事（こと）を確（かく）認（にん）して、持（も）っていたキーホルダーを掲（かか）げ叫（さけ）ぶ。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、恵（え）理（り）花（か）ちゃんを助（たす）ける為（ため）に力（ちから）を貸（か）して！」

　すると北（ほく）斗（と）の回（まわ）りに大（おお）きな鉱（こう）石（せき）の柱（はしら）が多（た）数（すう）生（せい）成（せい）され、北（ほく）斗（と）を包（つつ）み込（こ）んで鉱（こう）石（せき）の柱（はしら）は鉱（こう）石（せき）の山（やま）へと変（か）わり、その山（やま）を破（は）壊（かい）して光（ひかり）と共（とも）に狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が出（しゅつ）現（げん）し、遠（とお）吠（ぼ）えをする。

「ワオーン！」

　気（き）が付（つ）くと、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の中（なか）に居（い）た北（ほく）斗（と）は思（おも）う。

（太（たい）耀（よう）君（くん）から聞（き）いた通（とお）りだ……　待（ま）ってて恵（え）理（り）花（か）ちゃん、今（いま）助（たす）けに行（い）くから）

　　ガコン

　★★★★

　校（こう）舎（しゃ）からの明（あ）かりや、少（しょう）年（ねん）サッカーの為（ため）にグラウンドに設（せっ）置（ち）されているナイター設（せつ）備（び）の明（あ）かりに照（て）らされた美（み）朱（あか）小（しょう）学（がっ）校（こう）。

　そのグラウンドの8割（わ）りは金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）で囲（かこ）まれた状（じょう）態（たい）で、壁（かべ）の周（まわ）りには午（ご）後（ご）の６時（じ）頃（ごろ）だと言（い）うのに、先（せん）生（せい）達（たち）から連（れん）絡（らく）を受（う）けた警（けい）察（さつ）も含（ふく）め、色（いろ）々（いろ）な人（ひと）々（びと）が結（けっ）構（こう）な数（かず）集（あつ）まって居（い）た。

　　ガコン

　道（どう）路（ろ）を駆（か）けて美（み）朱（あか）小（しょう）学（がっ）校（こう）にやって来（き）た狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は、金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）の階（かい）段（だん）を作（つく）り、その柱（はしら）を足（あし）場（ば）に人（ひと）々（びと）の頭（ず）上（じょう）を飛（と）び越（こ）え、更（さら）に金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）も飛（と）び越（こ）えた。

　　ガコン

　金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で飛（と）び越（こ）えた北（ほく）斗（と）が目（め）にしたのは、グラウンドの中（ちゅう）央（おう）に置（お）かれた選（せん）手（しゅ）宣（せん）誓（せい）をする台（だい）の上（うえ）に居（い）た、恵（え）理（り）花（か）をお姫（ひめ）様（さま）抱（だ）っこしている鬼（おに）丸（まる）。

　北（ほく）斗（と）は鬼（おに）丸（まる）に向（む）かって言（い）う。

「鬼（おに）丸（まる）、その子（こ）を返（かえ）せ！」

「言（い）われた通（とお）りに一（ひと）人（り）でやって来（き）た事（こと）は、男（おとこ）として褒（ほ）めてやるぞ想（そう）像（ぞう）の鎚（つち）」

　嬉（うれ）しそうにそう言（い）った鬼（おに）丸（まる）に、北（ほく）斗（と）は怒（おこ）りっぽく言（い）い返（かえ）す。

「そう言（い）うなら、場（ば）所（しょ）ぐらい教（おし）えて行（い）けバカ！　ずっと探（さが）し回（まわ）ってたんだぞ」

（……　……　……!!）

　すると北（ほく）斗（と）の声（こえ）で恵（え）理（り）花（か）は目（め）を覚（さ）まし、それに気（き）付（づ）いた鬼（おに）丸（まる）が恵（え）理（り）花（か）に向（む）かって言（い）う。

「ほら盲（もう）目（もく）な姫（ひめ）君（ぎみ）、心（こころ）向（む）かぬ勇（ゆう）者（しゃ）が助（たす）けに来（き）たぞ」

　そう言（い）い終（お）わると、鬼（おに）丸（まる）は恵（え）理（り）花（か）を宣（せん）誓（せい）台（だい）の上（うえ）に降（お）ろし、自（じ）分（ぶん）は金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）の近（ちか）くまでワープした。

「スセリ、隠（かく）れているのは分（わ）かっている。出（で）て来（き）て結（けっ）界（かい）を張（は）れ！」

　鬼（おに）丸（まる）の言（こと）葉（ば）で、スセリは恵（え）理（り）花（か）の真（ま）横（よこ）に現（あらわ）れる。

「貴方（あなた）は何（なに）を考（かんが）えているの？」

　スセリが鬼（おに）丸（まる）にそう問（と）うと、鬼（おに）丸（まる）は笑（わら）いながら言（い）い返（かえ）す。

「心（こころ）動（うご）かす事（こと）など決（き）まっている、宴（うたげ）だ！」

　鬼（おに）丸（まる）は左（ひだり）手（て）に小（こ）槌（づち）を出（しゅつ）現（げん）させると、金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を叩（たた）き、叩（たた）いた面（めん）以（い）外（がい）の壁（かべ）が上（うえ）から消（しょう）滅（めつ）して行（い）く。

　その様（よう）子（す）を確（かく）認（にん）したスセリは、恵（え）理（り）花（か）に念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「このままだと不味（まず）いわ恵（え）理（り）花（か）、あの姿（すがた）に！」）

　念（ねん）話（わ）でそう言（い）われた恵（え）理（り）花（か）は、慌（あわ）てて汗衫（かざみ）姿（すがた）に変（か）わり、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の近（ちか）くに移（い）動（どう）した。

　壁（かべ）が消（き）え去（さ）ると、鬼（おに）丸（まる）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、恵（え）理（り）花（か）の姿（すがた）が、壁（かべ）の近（ちか）くに居（い）た人（ひと）達（たち）や、学（がっ）校（こう）に残（のこ）って居（い）る先（せん）生（せい）達（たち）の視（し）界（かい）に入（はい）る。

「観（かん）客（きゃく）達（たち）よ、見（み）るが良（い）い。此（こ）れこそ今（いま）の時（じ）代（だい）に黄泉（よみ）返（がえ）りし鬼（おに）の姿（すがた）！　ファキオ、エゴゥ、メタル、カロル、コルプス……、赤（あか）き鋼（はがね）の体（からだ）よ出（い）でよ」

　そう言（い）いながら鬼（おに）丸（まる）は、金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を叩（たた）く。

　すると金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）が光（ひか）り輝（かがや）きながら、全（ぜん）長（ちょう）20数（すう）メートル程（ほど）の、頭（あたま）の無（な）いロボットの様（よう）な姿（すがた）に変（へん）化（か）した。

　黒（くろ）を基（き）調（ちょう）とした黒（くろ）と赤（あか）のカラーリング。

　まるで新（しん）幹（かん）線（せん）か蛇（へび）を模（も）した様（よう）な肩（かた）。

　突（とっ）起（き）物（ぶつ）の付（つ）いた膝（ひざ）は山（やま）々（やま）の様で……

　赤（あか）い体（からだ）は鬼（おに）の顔（かお）を模（も）している。

　その姿（すがた）はまるで、頭（あたま）は無（な）いが土（ど）曜（よう）５時（じ）に放（ほう）送（そう）しているアニメに出（で）て来（き）そうなロボットだと、北（ほく）斗（と）は思（おも）った。

　そのロボットの様（よう）なモノからは、蒸（じょう）気（き）が立（た）ち昇（のぼ）っている。

「回（かい）、帰（き）、原（げん）、點（てん）！」

　その掛（か）け声（こえ）と共（とも）に、鬼（おに）丸（まる）は光（ひか）り輝（かがや）きロボットの様（よう）なモノと融（ゆう）合（ごう）した。

　するとロボットの様（よう）なモノに、蛇（へび）と鬼（おに）の混（ま）じった様（よう）なロボットの顔（かお）が生（う）み出（だ）されて行（い）き、ロボットの様（よう）なモノが完（かん）全（ぜん）な人（ひと）型（がた）になると、鬼（おに）丸（まる）は口（こう）上（じょう）を始（はじ）める。

　しかもかなりノリノリで、ポーズまで付（つ）けながら……

「我（われ）勇（いさ）みし者（もの）の王（おう）にして、界（かい）たる隈（くま）と水（みず）の鋼（はがね）王（おう）。その名（な）も勇（ゆう）者（しゃ）阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）」

　余（あま）りにも突（とっ）拍（ぴょう）子（し）も無（な）い事（こと）を鬼（おに）丸（まる）がやったので、恵（え）理（り）花（か）所（どころ）かスセリも結（けっ）界（かい）の事（こと）を忘（わす）れて阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）を見（み）ていたので、鬼（おに）丸（まる）に怒（おこ）られる。

「おい、見（み）てないで結（けっ）界（かい）を張（は）れ！」

「そうだった、ごめんなさい。我（われ）荒（あら）魂（たま）尊（のみこと）の比（ひ）売（め）なれば、神籬（ひもろぎ）の事（こと）の葉（は）にて、布（ふ）留（る）部（べ）を鎮（しずめ）守（まも）る主（あるじ）と成（な）らん」

　言（い）って恵（え）理（り）花（か）は手（て）を四（よん）回（かい）叩（たた）く。

　　パン　パン　パン　パン

　すると手（て）を一（いち）度（ど）叩（たた）く毎（たび）に、学（がっ）校（こう）のグラウンドの四（よ）隅（すみ）に真（ま）っ白（しろ）い大（たい）樹（じゅ）が出（しゅつ）現（げん）し、木（き）の間（あいだ）に半（はん）透（とう）明（めい）の白（しろ）い壁（かべ）が出（で）来（き）、天（てん）井（じょう）にも半（はん）透（とう）明（めい）な白（しろ）い壁（かべ）が出（で）来（き）ると、鎮（しずめ）守（まもり）の結（けっ）界（かい）が完（かん）成（せい）する。

　グラウンド内（ない）に居（い）た人（ひと）々（びと）は、スセリの力（ちから）で結（けっ）界（かい）の外（そと）に移（い）動（どう）させられ、それを確（かく）認（にん）した鬼（おに）丸（まる）は言（い）う。

「此（こ）れだけの事（こと）をすれば、奴（やつ）等（ら）も文句（もんく）は言（い）うまい……」

　阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）の左（ひだり）手（て）に、柄（つか）の長（なが）い黄（おう）金（ごん）の大（おお）槌（つち）が現（あらわ）れる。

「想（そう）像（ぞう）の鎚（つち）よ、さぁ宴（うたげ）の始（はじ）まりだ！」

　そう言（い）いながら鬼（おに）丸（まる）は、阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）で恵（え）理（り）花（か）に大（おお）槌（つち）で殴（なぐ）りかかる。

　　ガゴン　ガゴン　

　　　ブオガチコン

　しかし狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の作（つく）った大（おお）きな壁（かべ）が、その攻（こう）撃（げき）を阻（はば）んだ。

（中（なか）々（なか）の反（はん）応（のう）だな……）

　そう思（おも）いながら鬼（おに）丸（まる）は、阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）を数（すう）歩（ほ）退（ひ）いてから自（みずか）らの頭（ず）上（じょう）に注（ちゅう）意（い）を向（む）けた。

　ガコン

　作（つく）った壁（かべ）を目（め）隠（かく）しに、上（じょう）空（くう）から強（きょう）襲（しゅう）する狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）だが、音（おと）と影（かげ）で攻（こう）撃（げき）に気（き）付（づ）いた鬼（おに）丸（まる）に、更（さら）に一（いっ）歩（ぽ）退（ひ）いてカウンターのニーキックを見（み）舞（ま）われ、攻（こう）撃（げき）を喰（く）らった狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は、10メートル程（ほど）吹（ふ）き飛（と）ばされる。

　　ガツコーン

　　　ガコン　ガコン

「うわぁぁぁ！」

　叫（さけ）ぶ北（ほく）斗（と）に、鬼（おに）丸（まる）は教（おし）える。

「壁（かべ）を目（め）隠（かく）しに使（つか）う発（はっ）想（そう）は悪（わる）くはない。だか相（あい）手（て）の姿（すがた）も見（み）えんのだから、その対（たい）処（しょ）もしておくべきだったな」

　鬼（おに）丸（まる）》はそう言（い）い終（お）ると、転（ころ）がってる狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に大（おお）槌（つち）で追（つい）撃（げき）を仕（し）掛（か）けようとした。

　しかし恵（え）理（り）花（か）が防（ぼう）御（ぎょ）結（けっ）界（かい）を張（は）って、その攻（こう）撃（げき）を遮（さえぎ）る。

　　ガコン

　　　ブオカシャン

　阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）の攻（こう）撃（げき）を防（ふせ）ぎながら、恵（え）理（り）花（か）は北（ほく）斗（と）に聞（き）く。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）！」

「うん、平（へい）気（き）……」

　太（たい）耀（よう）の時（とき）の様（よう）に、気（き）を失（うしな）っていないか心（しん）配（ぱい）していた恵（え）理（り）花（か）が、北（ほく）斗（と）の声（こえ）を聞（き）いて安（あん）心（しん）している最（さい）中（ちゅう）、鬼（おに）丸（まる）がスセリに念（ねん）話（わ）で話（はな）しかけてくる。