3-11.魔導国の終わり

 ウリナテキゴ大陸で最も高い山の頂。

 わたくしは少し開けた場所に立ち、敵国を見下ろしながら呟きました。


「……万感の思いです」


 かつて、この世界には魔王と呼ばれる存在が君臨していた。

 人々は力を合わせ、魔王を封印することに成功した。


 魔導国の目的は、その封印を解くこと。

 魔王の力を利用して、より自分達にとって都合の良い世界を作ること。


 しかし、その企みは失敗する。

 魔王は解き放たれ、世界に再び危機が訪れる。 


 魔王は強大な黒魔法を操る。

 全てを無に帰すその力は、恐らくイロハ様をも上回る。


 唯一の対抗手段は、白魔法。

 聖女が持つ本来の役割は、きっと魔王を打ち倒すことなのだ。


 わたくしは魔王と戦ったことがある。

 今の時間軸に至るよりも前、彼と共に彷徨い続けた時間の中で、何度も。


 勝率は決して高くなかった。

 さらに、今回は聖女としての力が覚醒していない。


 原因は分からなかった。

 だけど何の問題も無い。


 わたくしは全てを知っている。

 そして、目的を遂げるための準備を整えた。


 今日まで、本当に長かった。

 王国の掌握。魔導国の情報収集……。


 決して強制されているわけではない。

 全ては、彼の理想を実現するため。わたくしが自分の意思で決めたこと。


 彼の無邪気な表情を見る度、思い出す。

 何か嬉しいことがある度に、思い返す。


 それは、この時間軸では存在しない記憶。

 わたくしの体感時間では、何万年も前の出来事。


 ほんの一時、話をしただけ。

 その時間がいつまでも忘れられない。


 あの時間が無ければ、今のわたくしは存在していない。

 彼と出会わなければ、きっとわたくしは人形のような存在になっていた。


「これより、魔導国を滅ぼします」



 *  *  *



 魔導国には七つの大都市がある。

 それぞれの都市は「セブンス」と呼ばれる存在に管理されている。


 殲滅する必要がある。

 わたくしにとっては大した脅威ではないけれど、ひとつでも残せば、後で面倒な事になるかもしれない。そんな懸念が生まれる程度の相手ではある。


 理想を言えば、七つ同時に叩きたい。

 わたくしも最初は「グレイ・キャンバス」を育て、共に戦うつもりだった。


 しかし「確実に」セブンスを打ち倒せる人材は育たなかった。

 このため、主たる戦闘はわたくしが行うことにした。


「敵襲ゥゥゥゥゥゥ!」


 まずは一つ目。

 わたくしは白魔法によって強化した赤の魔力を使って、都市の中央を爆破した。


 直ぐに警報が鳴り、人が集まる。

 わたくしは、あえて人を集めさせた。


「えいっ」


 まとめて殲滅する。

 それを何度か繰り返すと、ターゲットが現れた。


「たった一人を相手に何をして──」


 彼の名は、確かジーベン。

 まぁ、もう二度と口を開かない相手のことを気にしても仕方がないですわね。


「後始末」


 わたくしは彼の首を投げ飛ばし、部下達に合図を送った。

 敵側の最高戦力であるセブンスさえ取り除けば、残りは烏合の衆。わたくしが都市を隅から隅まで破壊する必要は無い。部下達だけで十分だ。

 

「次」


 わたくしは次の都市へ向かった。



 *  *  *

 


「我はゼクぶへぁ!?」


 二人目。


「俺は──」


 三人目。


「わた──」


 四人目。五人目。六人目。

 わたくしは心を無にして、淡々と敵を屠った。


 相手は「楽園」を生み出した存在だ。

 その命を刈り取ることには全く抵抗を覚えない。


 わたくしは魔導国の最奥部に辿り着いた。

 ここは、ムッチッチ大陸よりも遥かに発展した魔導国においても、目を見張る程に技術が進んでいる。


 雲に届く程に高い建物。絵に描いたように整理された街並み。その全てに、貴重な魔力伝導体が使われている。もしも初めて目にしたならば、わたくしは足を止めて口を開いていたことでしょう。


 だけど、今は迷わない。

 時折妨害を受けながらも、真っ直ぐに目的地へ向かう。


 そして到着した。


 迷路のような施設を一直線に駆け抜けた先。

 巨大な扉を開くと、一人の人物がこちらに背中を向けていた。


「……驚いた。まさか半日で魔導国を半壊させるとは」


 その人物は振り向きながら言う。


「目的はなんだ?」


 彼の名はアインズ。

 魔導国を支配する存在であり、非常に優れた頭脳を持つ。


 しかし戦闘能力は皆無である。

 わたくしは彼を摑み、壁に向かって全力で投げた。


 鈍い音がした。

 それだけで終わり。


「……やっと、ここまで辿り着きました」


 魔導国の七人は全く障害にならない。

 何度も戦った経験があり、この時間軸でも数年単位で準備をした。


 問題は──


「これを見るのも、久々ですわね」


 目の前に巨大な水槽がある。

 何か特別な名称があるのかもしれないけれど、わたくしの知るところではない。


 その中に、何かある。


 言葉で言い表しがたい異形。

 ヒトではない。他の動物で例えることもできない。


 ブヨブヨとした桃色と黒色が混じった体。

 定期的に脈を打っており、生きていることが分かる。


 この物体の名は、魔王。

 アインズは魔王を復活させ、その身体から溢れ出る無限の魔力を利用することで、様々な研究を加速させようと考えていた。


 しかしそれは失敗に終わる。

 魔王を制御することはできず、暴走が始まるのだ。


 その力は、かつてのイロハさまと互角。

 どの時間軸においても世界は甚大な被害を受けた。


 魔王の復活は時間の問題である。

 このまま放置したとしても、イロハさまが二十歳を迎えるよりも早く暴走する。


「今ここで、終わらせましょう」


 わたくしは右手を振った。

 増幅された赤の魔力によって衝撃波が生まれ、水槽を破壊する。


「全ては、彼の夢を叶えるために」


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聖女に殺される悪役貴族に転生した私ですが、なぜか聖女と一緒に魔王ライフが始まりました 下城米雪 @MuraGaro

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