2-5.国王の力

「ウチの子が迷惑をかけました。ごめんなさい」


 あたしはルビィの口を手で塞ぎ、会話を試みた。


「あぁ!? ンァに謝ってんだァ!?」

「下がれ」


 キングは隣の男を黙らせ、一歩前に出た。

 なんだか親近感を覚えたけど、そんな穏やかな状況じゃないわよね。


「貴様、そこそこ強いな。何者だ?」

「……スカーレット」

「聞いたことが無い。どこの生まれだ?」


 会話に応じた。

 余裕がある? それとも情報を求めている?


「どうした? 何か、話せぬ事情でもあるのか?」

「……まさか、王様がいらっしゃるとは思わず、口を開くことすら恐れ多く」

「ああ、少しばかり人を探しているものでな。気になる報告を聞き、走ってきた」


 王都、ここから二百キロは離れていなかった?

 随分とフットワークが軽い王様なのね。恐れ入るわ。


「イーロン・バーグという名前に聞き覚えはあるか?」

「……さあ、聞いたことがありません」


 キングがイロハを探している?

 どういうこと? 一体、何が目的なの?


「そうか、知っているのか」


 まずい、ルビィの表情を読まれたか!?

 迷ってる時間は無い。一秒でも早く離脱する!


「どこへ行く?」

「っ!?」


 あたしは後方に離脱した。

 しかし、一瞬で回り込まれた。


 慌てて急停止する。

 そのまま後方に距離を取り、再び違和感を覚えた。


「余は無駄なことが嫌いだ。故に、教えてやろう」


 キングは正面に手を伸ばした。

 その瞬間、周囲が青い光に包まれる。


「三色混合魔法、ロイヤルブルー。余の魔力は因果を操る」

「……因果、ですって?」

「貴様が逃げた先に余は存在しなかった。故に、存在していたことにした。これ以上の説明が必要か?」


 そうか、これが違和感の正体か。

 どれだけ相手が速いとしても、その動きが全く見えないなんてありえない。だけど彼の言ったことが本当なら、見えなかったことにも説明がつく。


(……何よ、それ。反則じゃない)


 逃げられないことを理解した。

 そして、恐らく戦っても勝てない。


「理解したようだな。直ぐに居場所を話せば、見逃してやっても良いぞ」


 どうしよう。完全に失敗した。こんな相手が出てくるなんて思わなかった。

 でも思考を止めたらダメ。今のあたしにできる最善を考えないと。


「ふむ、何か考えているな。面倒だ。地下に入れて拷問するか」

「オォイ!? ボス待ってくれ。その前に、一発ヤラせてくれよ。せっかく歯応えのありそうな獲物が来たんだ。お預けなんて、そりゃ酷い話だぜぇ!?」

「認めぬ。貴様が戦えば、何も残らぬ」

「残す戦い方もできるよぅ! 生け捕りにすれば良いんだろ? 分かってるともさ」

「……」

「ボスゥ! 後生だ! ヤラせてくれよぉ!?」


 キングは不愉快そうに目を細めた。

 その後、ふと、あらぬ方向に目を向ける。

 それから少し考えるような間が空き、やがて彼は溜息を吐いた。


「必ず生け捕りにしろ。失敗した場合、貴様を殺す」

「分かったァ! 生け捕りにする。しくじったらボスに殺される。それで良い!」

「期限は二日後の夜明けだ。間に合わなかった場合も貴様を殺す」

「ありがてぇ……ありがてぇ……」


 キングは呆れた様子で彼を見る。

 それから数秒だけあたしに目を向け、何も言わず姿を消した。


(……行ってくれた)


 よく分からないけど助かった。


「おぉん? テメェなんか安心してねぇかァ?」


 こいつ本当に気持ち悪いわね。

 ヤバい薬でもキメてるのかしら?


「スカーレット様ァ! こいつは、こいつはルビィにやらせてください!」

「あぁん? テメェには興味ねぇよ。引っ込んでろ」

「……ッ! お前ェ!?」


 ルビィが興奮している。

 まぁ、理由は想像できるけどね。


 キングは言った。貴様が戦えば、何も残らぬ。

 ルビィが激怒している。他の仲間は姿が見えない。


「オレァ……アァ、なんだったか? ……そう、ユビサキーガ・ムッチッチ! ボスに貰った名前だァ。この意味、分かるかァ?」


 むっちっち……確か、この国では王族が認めた強者に「むっちっち」という古代語が与えられるんだっけ。意味は、偉大なる存在だったかしら?


「スカーレット様、もう我慢しなくて良いですよね?」

「ルビィ、落ち着きなさい」

「あいつらは! いつも急に現れて、ルビィ達の大切なモノを奪っていく!」


 ……これはダメね。

 強制的に言うことを聞かせても良いけど、戦わせた方が良さそう。


「気を付けて」


 あたしはルビィの後ろに下がった。

 その直後、激しい戦闘が始まった。


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