12.もうダメだ。おしまいだ

 五日って言った! 五日って言ったじゃん!

 ノエルのバカ! ぽんこつ聖女! ばーか!


 イヤァアァァァァァ!?

 もうダメ! おしまい!


 どうしてぇ!?

 ……どうして、こんなことに。


 ダメだ。頭痛が痛くて何も考えられない。

 うっ、うぅぅぅ、うぅぅぅぅぅぅぅ……。


 ──という気持ちで王様と出会った。


 どこかの部屋。

 ノックをした後で入る。


 校長室みたいな内装。

 中央に豪華なテーブルとソファがある。

 王様らしき人が、そこに一人で座っていた。


(……護衛とか居ないんだ。最強だから不要ってことなのかな)

 

 想像したよりも穏やかな外見だ。

 なんというか股下王子のお父さんって感じ。


 彼と違って体のバランスは普通。

 悪代官みたいに小太りということもない。


「国王様、お久しぶりでございます」


 ノエルが先に挨拶をした。

 ウチも彼女に倣って頭を下げる。


「良い。座れ。楽にせよ」


 怖くてまともに顔が見られない。

 とりあえず声は落ち着いてるっぽい?


 ウチは内心で怯えながら座った。

 最初はノエルに怯えていたけれど、今は隣に座っている彼女が心強い。


「ノエル、貴様は席を外せ」


 !?


「その者と二人で話したい」


 ウチはノエルを見る。

 お願い! 説得して! 傍に居て!


 ノエルは全てを察した様子で頷いた。

 ウチはパァッと心の中で笑顔を咲かせる。


「失礼いたします」


 裏切り者ぉ!?


「さて、急に呼び出して悪かったな」


 ノエルが部屋を出た後、王様が言った。

 

「……」


 ウチは無言で頷いた。

 マジ無理。王様に対する礼儀作法とか知らない。


「随分と警戒している」


 王様は愉快そうな声で言った。

 威圧感やばい。失言ひとつで死刑かも。


「余は魔力を解放しておらぬが、まさか見えているのか?」


 破滅の未来しか見えません。

 今必死に回避策を考えています。

 だから、ちょっとだけ時間をください。


「ふっ、沈黙か。それもまた面白い」


 何も言えないだけですぅ。


「さて、まずは素直に賞賛しようか。貴様はムッチッチの名を冠する者に勝利した。おめでとう。誇って良いぞ」


 王様はゆっくりと拍手した。

 笑顔だけど、ちっとも目が笑ってない。


「尤も、あれは王族にて最弱だがな」

「……はは」


 もうダメ帰りたい。

 吐きそう。愛想笑いすらできない。


「……」


 王様は優雅に何か飲んだ。

 ティーカップ。中身は紅茶かな?


「余は強者を尊重する。あの聖女は、貴様の所有物だ」


 王様はティーカップを机に置いた。

 小さな音。そして次の瞬間、王様から魔力が溢れ出る。


 高密度の魔力は瞬く間に部屋全体を満たした。

 やがて世界は色を奪われ、高貴な青に染められた。

 

 コード113いちいちさん

 三色混合魔法、ロイヤルブルー。


「……ほう?」


 ウチが機械的に「色」を分析していると、王様は感心したような声を出した。


「面白い。これを見て、その程度か」


 世界の色が元に戻る。

 王様は満足した様子で立ち上がった。


(……え、終わり? 帰ってくれるの?)


 ウチは今日一番の喜びを胸に、王様の背中に目を向ける。

 王様はドアの前で立ち止まると、ウチに背中を向けたまま言った。


「貴様は聖女の力を手に入れた。一体、何を為す?」


 どういう意味だろう。

 聖女の力……ああ、分かったかも。


 白魔法の本質は増幅。他者が持つ青の魔力を増幅すれば、病気を治したりできる。多分、王子と結婚した後は医者的な存在になる予定だったのだろう。


 そういえば、王様が見せた魔力は青系統だった。

 なるほど完全に理解した。そういうことだったのか。


「……何も変わらない」


 王様の方針に従います。

 これまでと何ひとつ変化しません。


「彼女の行く末を見届ける。それだけです」


 わたくしは無関係です。

 ノエルのことは好きにしてください。


「……面白い」


 王様は満足そうな笑みを見せた。

 よし、好印象だ。上手くやったぞ。


「名前を聞いていなかった」

「……イーロン・バーグ」


 突然、王様が振り向いた。


「バーグ?」


 なんか驚いてる?

 とりあえず、ウチは沈黙することで肯定の意を示した。


「……くっ、はは、はははは」


 え、こわ。なんで急に笑い始めたの。


「次が楽しみだ」


 王様は部屋を出た。

 

「……どゆこと」


 ウチは一人、困惑する。

 さっぱり意味が分からない。


 ただ、怖い。

 なんかヤバそう。


「……さっさと亡命しよ」


 二度と会いたくない。

 そんな気持ちを胸に、ウチは時間を置いてから部屋を出た。



 *  *  *



 深夜徘徊なう。

 さっき悪夢で目が覚めた。


 流石に今回はソロプレイ。

 ノエルは部屋で寝ているはずだ。


「……実家が恋しい」


 ウチが求める安息の地は実家だ。

 でも、その選択肢は無い。だって王様に目を付けられた。


「……やば」


 ふと重大なことを思い出した。

 ウチだけじゃなくて、バーグ家も一緒に逃げないとダメだ。


「……安息の地。楽園」


 大図書館で仕入れた知識を反芻はんすうする。

 この世界には、ふたつの大陸がある。ひとつはムッチッチ王国が支配する大陸で、もうひとつは魔族が支配する大陸。今の野蛮な国から逃れる為には、海を渡って魔族が支配する大陸へ旅立つしかない。


「……もうダメだ。おしまいだ」


 玉砕覚悟で王都に特攻しちゃう?

 いやいや、ダメでしょ。やばい。頭が回ってない。


「……寝よう」


 ウチは明日の自分を信じることにした。

 

 とぼとぼ歩く。

 その途中、人の声が聞こえた。


「……喧嘩かな?」


 関わらないようにしよう。

 

「……どうして」


 学生寮までの一本道が封鎖されていた。

 多勢に無勢。一人の子が複数人から石を投げられてる。


 ウチは溜息を吐いた。

 絶対に関わりたくないけど……これを無視したら、多分眠れない。


 まずは事情を聞くことにしよう。

 石を投げてる方が悪者に見えるけど、正当な理由があるかもしれないからね。


 ゆっくり近寄る。

 そして、一人の肩に軽く触れた。

 




【あとがき】

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