11.ウチ、亡命先を探す

 王様が来るまで最長で五日。

 最短で……多分、二日くらい。


 ウチは大図書館へ向かった。

 授業やガイダンスなどはサボる。どうせ直ぐに亡命するのだから、出席する意味が無い。


 ウチは青の魔力をフル稼働させた。

 体感時間を操作して、今日中に全ての書籍を読破することが目標だ。


 苦しい。膨大な情報で頭が割れそうだ。王子との決闘よりも辛い。


 絶対に無理だよこんなの。

 何冊あるの? 全然終わりが見えない。


 でも負けない。めげない。

 安息の地を見つけるために、もっと体感時間を短くするんだ!


 ――音が消えた。


 読み終えた本を空中で手放し、次の本を読み終えた後、先に手放した本の上に重ねることができる程に加速した世界。


 すごい。こんなの初めてだ。

 今のウチなら、亜音速で動いている人すら止まって見えるかもしれない。


「イッくん様、次の書籍をお持ちしました♡」


 でもノエル普通に補助してくる。

 こいつゼッタイ王子より強いじゃん。自分で決闘してよ。


「こちらの本は元の場所に戻しますね!」


 普通に喋ってるのも意味が分からない。

 白魔法なのかな? ウチが唯一使えない魔法だから、多分そう。聖女やばい。


 まあでも、あの無口な子が、こんなにも活発な子になったと思ったら感慨深い。今後とも仲良くしようね。


「はゎぁ、わたくしを見て優しい目を♡」


 なんか幼くなってる気がするけど、ウチが王子に勝って気が抜けたのかな?


 さてさて、集中しよう。

 ある程度はノエルが選別してくれているようで、歴史とか地理とか、そういう亡命に役立ちそうな本が多い。実家の書庫にあったモノとは質も量も段違い。流石は国家随一の学園にある図書館だ。


 でも、違うんだよなぁ。

 魔族に関する考察とか、ムッチッチ王国の成り立ちとか、そういう内容ばっかり。


 ……むむ?

 この本に書いてある内容、さっき読んだ本と違くない? どっちが正しいの?


 まあいいや。こういう時は、どっちも違うってことにしよう。

 仮に亡命先に関する内容だったとしても、不確かな情報なんて参考にしたくない。


「イッくん様! 隠し部屋を見つけましたわ!」


 ノエルがなんか禍々しい本を持ってきた。

 何これ、魔法? なんか封印されてない?


 まあいいや、解いちゃえ。

 ええっと……暗い紫色だからコード102いちまるにかな?


 ゲームのイベントとか完全に無視してるけど、魔法の知識は役に立つ。大切なのは色。確かパソコンは色を0から255で表現してる。だけど、普通の人間に1の変化なんて知覚できない。256分割とか無理。ゲームでは大雑把に4分割されていた。


 赤、緑、青。それぞれ4分割。

 組み合わせは4の3乗だから64通り。


 ウチは全部の組み合わせを覚えてる。

 その使い方は、修行中にマスターした。


「イッくん様、その魔力は!?」


 よし、解けた。

 中身は、どれどれ……?


 ムッチッチ王国による侵略。

 楽園の解放。同志が云々……陰謀論か?


 なんかヤバそう。

 亡命には無関係っぽいから他の本を読もう。


 その後、ウチは三千冊くらいの本を読んだ。大図書館の本を読み切るには足りないけど、流石に頭痛が限界。続きは明日にしよう。


 体感時間を元に戻す。

 世界に音が戻り、耳鳴りのような音がした。


 これ身体に悪いよね……。

 でも、今だけは我慢しよう。


「もう、よろしいのですか?」

「……うむ」


 ウチは頭痛を堪えながら返事をした。

 軽く呼吸を整える。それからノエルを見て……。


「それ」


 彼女は一冊の本を大事そうに抱えていた。

 見覚えがある。なんか封印されていた本だ。


「気になったので」

「……そう」


 ただの陰謀論だよ?

 ノエル、そういうの好きなのかな?


(……いつか変なことを言い出しても、ある程度は付き合ってあげよう)


 怒らせたら怖いからね。

 今は友好的でも、失言ひとつで敵対するかもしれない。


 あー、そんなことより頭痛やばい。

 寝よう。今すぐ寝よう。ベッドが恋しい。


 ウチは軽く伸びをして、立ち上がる。

 ──その瞬間。


「イーロン・バーグ様! こちらにおられましたか!」


 大図書館の出入口。

 なんか教員っぽい人が現れた。


「国王様がお呼びです!」


 ……えっ?

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