思わぬ再会
閉鎖病棟から退院し半年近くたったある日。
僕はお昼からデイケアに行った。外来受付で診察券と自立支援医療のカードを出した。自立支援医療とは所得に応じて精神科の医療費が一割負担になる制度のことだ。
外来受付は空いており、ギャルっぽい女子大生とその母親がいた。母親はやつれたように困惑した表情で疲れているように見えた。女子大生と母親、どちらが患者か見分けがつかなかった。
受付の事務員が「山下真由子さ〜ん」と呼んだ。
女子大生とその母親が立ち上がった。山下真由子さんとはこの女子大生のことだろう。
山下真由子?
あの真由子か?
僕の目の前を真由子が通り過ぎた。
ほつれた黒髪。真由子のいびつな笑顔。乱雑に塗られたアイシャドー。
僕の目の前にいる真由子はかつての神々しく見えた真由子ではなかった。
そこにいるのは若い娼婦のような身なりをした女がいた。
思わず僕は真由子に声をかけた。
「山下真由子さん」
僕の声は神妙な感じに外来受付に響いた。
「はい〜?」
真由子がこちらを見る。唾でいっぱいのいびつな笑顔の真由子の口元が、かつての薄いピンク色の唇でなくなっていて、僕の心は氷の刃でえぐられた鋭い痛みを感じた。
「僕のこと覚えていますか?病棟にいたオリックスファンの…」
僕の言葉は尻切れに途切れた。
「覚えていますよ。オリックスファンの人ですよね」
真由子は僕のことを覚えていてくれた。そのことに少しホッとした。
「今、元気ですか?」
「元気ですよ〜」
「そうですか。それは良かったです」
真由子の見た目からは元気そうには見えなかった。きっとひどい思いをしているのだろう。もしかしたら、また同級生たちにいじめられているかもしれない。
真由子は外来受付で自分のカードを受け取った。
「じゃあ帰りますね〜、バイバーイ」
真由子はあまりにも軽かった。こんな子じゃなかったのに。やっと出会えたのに。
真面目な真由子はなぜこんなにも不真面目になってしまったのか。真由子にいったい何があったのか。僕は真由子がなぜこんなにも変わってしまったのか、真実が知りたくなった。
そして不幸にも、僕は真由子の名前をグーグルで検索してしまった。
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