別れ

 お互いの体調が良いとき、真由子と僕は色々話した。


 「わたし学校で倒れてん」


 真由子は目をパチパチさせて言った。


 「ほんでな、友達から足手まといで授業の邪魔やからもう学校来んなって言われてん」


 真由子は目に涙を溜めていた。


 「そんなことあってんな〜。ひどい友達やな」


 僕は言った。


 しばらく沈黙。


 急に真由子は言った。


 「わたし偏差値65あんねん」


 「めっちゃ賢いやん」


 「せやねん」


 たしかに見た目がお嬢様な真由子は賢そうに見える。今までの真由子の話を聞いている限り、おそらく真由子は鬱だと思った。しかし真由子は思考力が落ちているとはいえ、考えていることを言語化するのが上手いと思った。たぶんそれは基礎学力があり、地頭がいいからだろう。


 僕たちは仲良く話はするのだが、お互いのラインを聞いたりとか、電話番号を聞いたりとかはしなかった。いや、できなかった。相手が高校生ということもあり、気が引けたのだ。


 入院してから1ヶ月がたった。真由子と僕が同じ時期に入院するということは何かしらの縁があるのだろうなと、漠然と考えたりしていた。でも僕は真由子に積極的に話しかけたりはしなかった。敢えて距離を縮めなかった。いや、今から想えば、病気がしんどくてそんな余裕がなかったのかもしれない。


 そして僕の退院の日がやってきた。


 退院の日。僕は真由子にサヨナラの挨拶もせず、病院を去った。


 僕は真由子とはもう会うことはないだろうなと思った。


 世話になった看護師たちに退院の挨拶して周っているとき、ふと真由子の顔が見たくなった。真由子のあの甘い声が聴きたいと思った。


 でも僕はその気持ちを抑えた。無理やり蓋をした。


 もうやめよう。


 あの子のことを想うのは。


 僕は真由子のことが好きだったのだなと思った。


 しかし、退院してからの僕といえば、いつも真由子のことを考えていた。


 外来通院の日、受付を待っているとき、真由子がふっと現れないかなと思った。


 でも真由子は現れなかった。そんなにタイミングよく会うことはないと理性が思っていても、僕の感性は真由子をもとめていた。


 真由子、会いたいよ。


 でも僕は真由子と再会することはなかった。


 あの日までは。


 運命の女神が僕たちを再会させたのだ。

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