第31話
だいぶ日も落ちてきた。日は山に隠れてしまったが、空はきれいな夕焼けだ。今日の出来事など「大したことないぜ」とでも言っているように、綺麗な空を描いている。この異世界は自然の景色が絵画のように美しい。城と町があったところだけが戦後の焼け野原のようだが、そんなことはお構いなしでそれ以外の風景には目を奪われる。
「へくちっ!!」
くしゃみをした。赤ちゃんの体だと、かなり寒い。体感だが、あと一時間もすると暗くなり夜になるのだろう。
俺は時間停止スキルを発動させる。周囲の景色が止まり、音が無くなる。全裸なのだが寒さも感じなくなった。
俺は湖の上を渡り、城があった辺りの湖畔へと飛んだ。20人ぐらいの城からの避難民と出会ったところだ。黒髪の幼女が印象的だったな。城の崖が崩れてしまって、今は見る影もなくなっしまったが。
彼らは荷車を引いていたから、それなりに道っぽいところを通っているはず。後を辿るのは難しくないだろう。どこかで森に入ったに違いない。
あのまま湖畔沿いを歩いていたら、城が湖に沈んだ余波で全滅もあり得るのだが…確信はないが無事な気がしている。
ここはひとつ、彼らに俺を拾って育ててもらおう。子供がたくさんいたから、俺一人ぐらい増えても大丈夫だよね。彼らが無慈悲でないことを祈るしかない。
ゼロ歳から育ててもらえば、さすがに言葉は覚えられる。世界観や倫理観、常識なんかも身につくはずだ。何年かかるかわからないが、こちらとしては急いで何かをする必要はない。急ぎの用があるっていうんなら、転移直後に神託とかしろってんだ。誰が転移してくれたのかは知らんけど。
《こっち…》
あ?誰かの声が聞こえたような?
んなはずはない。今までの時間停止中に音が聞こえたことなど一度もなかった。だけど、何となく呼ばれている方に向かってみる。
おおっ。ビンゴ。
森の中で木がまばらの拓けたところに、いくつもの焚き火が見えたのだ。森の中はすでに暗くなっているから、焚き火は目立つ。焚火の周りに何人かが車座で座っていた。焚火の数からすると、ざっくり50人ぐらいはいるみたいだ。近くに行ってみる。
男手たちは木の棒で見張り、女性と年寄りが焚火の周りで食事の準備。その周りを子供たちがお手伝いをしてたり赤ちゃんや小さい子の世話をしている。走り回っている子供もいるな。男たちが木の棒を持っているのは武器替わりだろう。優しそうな人はいるかな。どこかの木陰に行って、スキル解除をする。
(痛っ)
スキル解除の位置が少し高すぎたようだ。着地失敗。結構な衝撃だった。
途端に生まれたてのゼロ歳児の体は大声で泣きだす。ちょっとした衝撃だと、痛くなくてもビックリして泣き出してしまうようだ。
「ホギャア!!ホギャア!!」
自分の泣き声がけたたましく、とてもうるさい。うるさいのが気に障り、不快感となってさらに泣き声を上げる。俺の体なのに、まったくコントロールできない。参ったな・・・
《やっと会えたね》
頭の中に声が響いた。
念話?誰だ?
「$K&@?」
俺を覗き込んだのは5歳ぐらいの黒い髪の幼女。ちょっとくせ毛のセミロング。ああ。
俺は幼女に抱きかかえられた。俺に念話をしたのはこの子か?俺の方からは念話は出来ない。多分、何かの力と言うか、コツが必要なのだろう。今のところ受信専門みたいだ。
「〇#$~」
何かを言いながら、人がいる方に走っていく。頼むから転んだり落っことしたりしないでくれよ。 と、作戦も成功したことで暢気に構えていたのだが。
・・・暢気に構えていたのだが!!
大事なことなので二回言いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます