第32話

 頭が猛烈に痛い。手足が痙攣する。なんだこれ?頭だけじゃなく手も足も腹も背中も、体の中も外も焼けるように痛い。全身がバラバラに砕けていくみたいだ。

「げぽっ!!」

 俺は大量の血を吐いた。見上げた幼女の顔が驚愕に変わる。

「けnおsh!!」

 青ざめてた顔でパニクっている彼女の顔には涙が溢れていた。全身の激しい痛みの中、徐々に意識が薄れていく・・・

 ダメだ!!意識を飛ばすわけにはいかない!!意識を無くしたら、恐らく・・・死ぬ。

 俺は必死に「戻れ~!!」と頭の中で唱える。た、頼む。発動してくれ!!


 ぱあぁぁっ・・・

 体が熱くなり、音が消える。

 ふ~~~~ぅ・・・よかった。最悪の危機は脱したな。

 幼女の目が驚いて丸くなる。俺の体に付いた血は消えたみたいだが、幼女は俺が吐いた血に塗れてしまった。ごめんな。せっかく助けてくれたのに、汚しちまって。

あっという間に俺時間巻き戻しスキルは停止し、幼女が抱いている感触が戻る。黒髪の幼女は俺を見て明らかにほっとしていた。そして俺を抱きながら焚き火を囲んでいる、家族らしき人たちのところに向かった。

「kj:gんあ@gん、うdg」

 幼女は家族に何事か話しかける。全員に無茶苦茶睨まれた。特に30歳ぐらいの濃い茶髪の細めの女性と、隣に座っていた10歳ぐらいのくすんだ金髪の少年に。

茶髪の女性は俺と同じような生まれたてに近い赤ちゃんを抱えていた。

 ・・・天使だ。

 赤ちゃんなのに美形だとわかる。おむつのCMに出そうなくらいかわいい。

 俺が今どんな顔なのかは俺からは見えないが、赤ちゃんの頃の写真を思い出すと・・・猿だな。生まれた時から黒髪がボーボーで、我ながらかわいいと思ったことがない。この異世界の人たちはどちらかというと洋風な顔立ちの人が多い。体も大きめで、何か・・・ずるい。


 俺を抱いている幼女は、同じように赤ちゃんを抱いている茶髪の女性の隣に座って笑っている。お母さんの真似をしたいお年頃だな。茶髪の女性は俺を見て驚いている。俺の顔に何か付いてる?

《・・・・・・》

 え?無言の念話って何?明らかに茶髪の女性からの念話だったぞ。何で無言・・・?何かを見透かすような知的な目だ。俺が異世界のオッサンだということがバレているような気がする。

《いやいや、わたくし決して怪しいものじゃありませんよ》

 茶髪の女性の眉間の皺が深くなった。いかん、これじゃあ不審者のセリフだ。こうなったら正直に念じておこう。

《異世界から来たオッサンです》

 茶髪の女性の目が怖い。

《とりあえず、右も左もわからないんで、ここでいろいろ教えてください》

 茶髪の女性が固まっている。

俺と女性が念話をしている間、俺を抱いている幼女は必死に何かを喋っていた。俺も   ここでいっしょに暮らせるようにと説得しているみたいだ。まるで捨て猫を拾って説得している子供みたいだ。茶髪の女性が首を左右に振りながら溜息を吐き・・・頷いた。どうにか許可は下りたみたいだな。とりあえず一安心。

 幼女は俺を担ぎ上げて、嬉しそうに回っている。俺は捨て猫か?それとも捨て犬か?捨て猿は聞いたことないが。

 金髪の少年は怒っているような口ぶりだ。黒髪の少女のお兄さんかな?

まあ気持ちはわかる。こんなサル顔の得体のしれない赤ちゃんを抱いて喜んでいる妹だからな。でも大目に見てくれよ。オッサン、行く当てもないんだから。


 ここは穏便に済むように「必殺、タヌキ根入り」だ。「俺は無関係」をアピールする大人の必殺技だ。それにどんな動物でも赤ちゃんの寝顔はかわいいからな。・・・自分を動物に例えてしまうあたりがせつない。

 何十年かぶりに人に抱っこされていることに気が付き、子供とはいえ女性に抱っこされているのが気恥ずかしくなってきた。・・・本当に寝てしまおう。今日はいろいろなことが起き過ぎた。目が覚めたら無事にこの家族の一員になれることを祈りながら。

 この人たちが家族かどうかは知らんけど。


 To Be Continued


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