第28話
ドラゴンがブレスを上空に放っている。俺は湖を挟んで数km離れた対岸の高台から、ドラゴンを見ていた。
俺の時間停止は成功したのだ。
どこへ移動しようか、すっごく悩んだ。俺にはもう戦うための手段は無い。かと言ってどこか遠くへ一目散に逃げるのも、それはそれで気に入らないし。
結論として、城の裏側に広がる湖の反対側の高台に移動したのだ。ここならデカい図体のドラゴンが良く見えるし、距離があるので対処もしやすいからだ。
眼下の湖は城を飲み込んだせいで茶色く濁り、城が建っていた崖は跡形もなく斜めに地肌がむき出しになっている。城下町も一面が炎に包まれていて壊滅状態だ。人もモンスターも全滅といったところか。
ブレスを吐き終えたドラゴンが、真っ直ぐに俺を見据えた。
《ぬぅ・・・逃げおおせたか。しぶといヤツめ》
俺もドラゴンを睨み返す。日寄るわけにはいかない。
(まだヤルか?お前に俺は倒せないぞ)
俺もドラゴンを倒せないけど。
《・・・もう、よい。気が逸れたわ。今日のところは見逃してやろう》
(おう!!とっとと還れ)
《口の減らんヤツめ。おぬしの名前を聞いといてやろう。何と申す?》
(あ?普通、名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀ってもんだぞ)
《フンッ、生意気な小僧だ。もっとも儂に名前などないのじゃがな》
(え?名無しなの?ひょっとして名も無い雑魚キャラ?)
《違うわ、ボケェ!!唯一無二の存在じゃから、名前など必要ないのじゃ!!》
いちいち偉そうなヤツだ。
《・・・まあ、よい。ここは『祖竜』とでも名乗っておこう》
(俺の名は『ケンジ・タカイド』だ)
《ケンジ・・・異世界人か。覚えておくぞ》
(ん!!そのちっぽけな皺の無い脳みそに、よ~く刻んでおけ)
《ククク。その虚勢、嫌いじゃないぞい》
ドラゴン、いや祖竜の口がぐにゃりと歪む。・・・笑ってるよ。
《またな》
祖竜が翼を広げて上を向く。助走も屈むこともなく垂直に飛び上がった。みるみるうちに加速して、あっという間に空の彼方へと消えていった。最後に「キラーン!!」と星のように光るのは、何かのお約束なのだろうか。
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