第23話

 「ヌオオオッ!!」

 俺の後ろから魔物が襲い掛かってきた。振り向いた俺の視界が、カッとフラッシュの様に一瞬だけ赤く染まる。大きく棍棒を振り上げたしゃくれ顔の青い巨人が、そのままの姿勢で動かなくなった。

 いったい何をしたんだ?「黒」に支配されていても、自分の体が何をしたかはわかる。どうやら目に魔力を籠めて、巨人の魔物に何かしたのだろう。問題は何をしたのか・・・・・・なのだが。

 《貴様と同じように支配してやったのだ》

 な、何だと?!見るだけで支配できるのか???

 《魂の力が弱い者であれば、見るだけで十分だ》

 すげえ能力だな。RPGとかで見る「魅了チャーム」の魔法みたいなものか?

 《知らん》

 つれない返事だこと。

 俺の手が、動かなくなった青い巨人の腹に添えられた。掌に魔力が籠められると、巨人の魔力が俺の中に吸い込まれていく。リザードマンから吸い込んだ黒いもやとは似ているような違うような。

 《魔力は個体によって違う。が、吸収してしまえばどれも同じだ》

 確かに青い巨人の魔力は、俺の体内で俺の魔力と融合していた。正確には俺のじゃなくて「黒」の魔力だけど。

 魔力を根こそぎ吸い取られた青い巨人は干からびたように瘦せ細り、灰になって朽ち果てた。


 次に俺の目は一体のモンスター・・・もとい、魔物をロックオンする。一つ目で四本脚、腕が鎌のようになった黒い異形の魔物。鎌のような腕の先は赤く染まっており、足元には白装束の魔導士が胴体を真っ赤に染めて横たわっていた。あの黒い魔物にやられたのだろう。

 俺の体が黒い魔物に向かって歩いていく。魔物は象ぐらいの大きさで、結構デカい。足は象とは違い胴体の脇から生えていて、腕と同じように鎌の様になっていた。こっちは剣もなく、素手だ。勝てるのか?

 近づく俺に気付いた黒い魔物と目が合った。「カカカカカッ」と足音を鳴らしながら、黒い魔物が急接近してくる。「ブーン」と空気を切り裂きながら、黒い魔物は鎌の右腕をラリアットのようにぶつけてきた。

 ドゴォッ!!

 痛~っ!!まともに喰らってんじゃねぇよ!!!

 「黒」のヤツ、1ミリも避けやしねえ。真っ二つにはならなかったものの、左腕は粉砕骨折。あばらも何本かイカれてしまった。

 《何と脆い体だ!!ドラゴンブレスを耐えきったのではなかったのか?》

 「黒」が魔力で俺の体を補修していくが、俺は血反吐を履きながら這いつくばったままだ。間髪入れずに黒い異形の魔物が、俺に向けて腕の切先を振り下ろす。ヤバい!!串刺しにされる!!


 (俺に俺の体を返せ!!時間停止!!)


 一瞬にして周囲の喧騒が消え去る。・・・ふう。何とか間に合ったか。

 《何だ?これは》

 俺に主導権を渡した「黒」が戸惑っているのがわかる。まだまだ、俺のスキルはこれだけじゃないぜ。俺は異形の魔物から少し離れたところで時間停止を解除して、すぐに俺時間巻き戻しスキルを発動させる。あっという間に体の傷が消え失せた。こちらもすぐに解除。じゃないとせっかく魔物から奪った魔力も無かったことにされてしまうからな。

 《貴様は・・・一体・・・?》

 見事なまでに「黒」は狼狽えていた。時間停止も俺時間巻き戻しも「黒」にとっては初体験だったってワケだな。クヒヒヒ。

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