第21話

 ・・・よし、決めた。

 城の地下に行こう。

 ・・・え?言っていることが違うって?いや、いいのだ。俺は俺のことを良く知っているから。

 俺の「勘」は当たった試しがない。楽観視している時ほどドツボに嵌ったり、悲観して不安を抱える時ほど上手く行ったりする。競馬でも「勘」で買った馬券は悉く外した。俺の「勘」ほどアテにならないものは無いのだ。

 そういえば死んだ親父がよく言っていたものだ。「出ないお化けに怖がるな」と。お化けなんて、目の前に出てから怖がればいいのだ。出る前から怖がる必要はない。

勝手にビビって立ち止まって、じゃあこの後で何かいいことがあるのか?と自問する。・・・何もありはしない。少なくともドラゴニュートは倒せない。

 ならば、迷う必要はない。欲しい力をくれるって言ってるんだ。あ、「くれる」とは言ってないか。とにもかくにも、まずは行ってやろうじゃないの。

 そこで酷い目にあったとしても、それはそれで仕方ないじゃないか。すでに異世界なんかに来た時点で、ドラゴニュートに背中を焼かれた時点で、酷い目にしかあってないんだから。今さら酷い目が一つや二つ増えたところで大差ないわ。

 ・・・というわけで覚悟は決まった。俺は湖の中から飛び出し、城の方へと向かう。さっきの城から避難してた人たちとすれ違った。時間を止めているのだから気にしなくてもいいのだが、真っ裸に白長靴はやはり恥ずかしい。股間を手でそっと隠した。

 湖畔の隠し扉のようなところから城内に進入。迷い子になりながらも、地下への階段を探す。まさかエレベーターは無いよな?魔道エレベーターなんてあったら、地下に単独で行くのは難しいぞ。何度か地下に潜ってはみたけれど、地下は真っ暗で何も見えない。彷徨い過ぎて城内に戻ることも出来ずに、一度空に出ようとしたら湖の中に出た。方向音痴じゃないはずなんだけどな~。どうやって、あのテレパシーのヤツに会えばいい?

 再び城内に戻ってから、ふと思いついた。・・・時間停止しながら自力で行こうとしてるからダメなんじゃね?テレパシーのヤツに案内してもらおうか。


 俺は隠し扉から城内に入ったところで、時間停止を解除した。途端に微かながらも戦闘の音が響いてくる。

 俺はテレパシーのやり方なんかわからないので、とりあえず心の中で念じることにした。

 (どうやって行けばいい?)

 相手の姿もわからないが、返事が来るのを動かないで待つ。こういう時は下手に動かない方がいいだろう。自分のいる場所がわからなくなったら、テレパシーで説明されても迷子になるだけだから。

 待つこと3分。いや、もっとかな。時計がないから体感だが。

 《・・・そこで待っているがいい》

 おおっ、返事が来た。何とかなるもんだな。相変わらず背筋が寒くなるような、悪意満点の声というかテレパシーなんだが。

 しばらく待っていると、黒い霧の塊のようなモノが目の前に現れる。まっ〇ろ〇ろすけ?

 《・・・・・・》

 おい、何か言えよ。

 《受け入れろ》

 まっ〇ろ〇ろすけが俺の胸に飛び込んできた。避ける間もなく、まっ〇ろ〇ろすけは俺の体の中にスーッと入りこむ。

 「ドクン!!」

 心臓が大きく高鳴った。く、苦しい。手足の自由が利かなくなる。目の焦点が合わなくなり、視界が黒く染まっていく。まっ〇ろ〇ろすけが俺を乗っ取ろうとしていた。ま、負けて堪るか。俺は必死に抵抗する。

 《抗うな。受け入れろ》

 ふざけるな!人形みたいに操ろうったって、そうは問屋が卸さねぇんだよ。てやんでぃ!こちとら、江戸っ子でぃ!!

 《なんと強情なことか》

 まっ〇ろ〇ろすけが支配を強めたようだ。痛いと苦しいが全身を蝕んでいく。くっ・・・このままでは・・・ん?いいや、や~めた。

 俺は力を抜き、全身を弛緩させた。抵抗したって精神的に疲れるだけで、先へも進めないし。考えてみれば、ノーリスクで力をくれるわけないよな。

 《ようやく受け入れる気になったか》

 (貸してやるだけだ。ちゃんと返せよ)

 《・・・》

 黙ってるってことは、俺を乗っ取る気マンマンなわけだな。そうはイカのキ〇タマ。俺には「俺巻き戻しスキル」があるもんね。現在いまより以前まえの体に戻しちゃえば、大丈夫・・・なはず。


 ・・・だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る