第20話

 あらためて自分の格好を確認する。全裸に白いゴム長靴一丁。・・・何でこうなった?この新(謎)スキルを考察してみるか。

 まずは獲得したスキルによって起こったことを時系列順に整理してみる。

1.ファイアブレスによる頭と背中の火傷がなくなった。

2.手足の骨折がなくなった(防塵着の復活はこれの前後?)

3.パンツが消えた。

4.ゴム手袋が消えた。

5.靴下、Tシャツがほぼ同時に消えた。

6.防塵着と保護帽が消えた。

7.ゴム長だけが残った。

 ということだ。シンプルになったな。

 社会人として、起こった事象を時系列で並べる癖をつけると考えをまとめやすくなるぞ。探偵の推理もこれの応用だ。そして、最初と最後に注目。

 ファイアブレスの火傷は直近だね。ゴム長は入社してすぐに支給された8年間の愛用品。

 おっ?何かが見えてきた。

 防塵着と保護帽は一昨年に新しいものに変えた。Tシャツと靴下は今年に下したやつかな。ゴム手袋は新しいのを出すのがもったいなくて、綺麗そうな何日か前のやつを再使用した。パンツは今朝の下したて。骨折はドラゴニュートに剣を突き刺した代償だ。

 ・・・そうだ。時系列の順番が、俺の身に起きた新しい出来事の順番と同じなんだ。

 何となく新スキルの効果を理解したぞ。

 この新スキルは俺の身に起こったことを、新しい順番から無かったことにしていく。つまり俺自身の時間を巻き戻している。今はゴム長だけということは、2年前から8年前ぐらいの間の俺になったというわけだ。ゴム長の汚れ具合を確認するとだいたい4~5年前というところだな。

 若返ったともいえる。オッサンの4~5年は大差ないが。42歳か、厄年だな。

 しっかし、これまたすっげえスキルを手に入れたようだぞ。これって不老不死なんじゃね?

 即死といっても必ずタイムラグはある。さっきのファイアブレスがいい例だ。意識が刈り取られる前にこのスキルを発動させれば絶対に死なない。回避不能な広範囲攻撃を受けたならば、時間停止スキルで安全な場所まで逃げてからこの新スキルを発動させれば、大丈夫なはずだ。瀕死であっても死んでなければ問題ない。例え毒を食らっても、なかったことにできる。

 ・・・すげえな。「俺時間巻き戻しスキル」と名付けよう。「時間停止スキル」と「俺時間巻き戻しスキル」があれば不老不死だし、どんな攻撃でも生き延びることはできそうだ。

 でも、これだけではドラゴニュートに勝つことは不可能。

 (力が欲しいか?)

 先程脳裏に響いた声を思い出した。・・・欲しいに決まっている。

 俺の使命は、あのドラゴニュートを倒すことだ。二つもチートスキルを手に入れたとはいえ、今の俺には圧倒的に攻撃力が足りない。

 (城の地下に来い)

 テレパシーとはいえ、悪意の塊のような声だった。素直に従ってもよいものか?俺の「勘」が警告を発している。悪い予感しかしない。きっと碌な目に合わないはずだ、と。

 ・・・よし、決めた。


 城の地下に行こう。

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