第19話

 「けnおsh~!!」

 甲高い子供の声が聞こえてきた。慌てて声の方を見る。

 げ。先ほど見た黒髪の幼女が、満面の笑みでこっちに向かって走ってくる。マ、マズい!!全裸に長靴姿で幼女と戯れるわけにはいかない。変質者としてお縄になること一直線だ。

 な、何か着るものは無いか?せめて股間だけでも。キョロキョロと辺りを探す。

 《力が欲しいか?》

 突如、頭の中に声が聞こえてきた。さっきのドラゴニュートとは違う誰かの声。

 《城の地下に来い》

 そこでプツッとテレパシーが途切れた。・・・力か。

 喧騒と爆発音が崖の上の方から聞こえてくる。モンスターと人間の戦争はまだ続いているのだろう。ドラゴニュートだって、多分アレじゃあ死んでないはず。戦いは終わっていない。

 「けnおsh~!!」

 幼女の声が近くまで迫っていた。ヤバい、ボケボケしている場合じゃない。

 (タ~イムストップ!!)

 俺は時間を止める。見ると幼女は俺の10mほど近くのところまで来ていた。危ない危ない。もっと早く時間を止めればよかった。

 考え事をするには時間を止めるのが一番。最近気が付いたことだ。

 とはいえ幼女の視界に入るところでの全裸はさすがに落ち着かない。時間を止めていても、だ。とりあえず移動しよう。

 どこがいいかな?城の地下に向かってもいいんだけど、ちょっと頭の中を整理したい。どれだけ長考しても、時間を止めているのだから関係ないし。

 俺は湖の方へと飛んでいった。スキューバダイビングどころか泳ぎも得意ではない俺だが、青く澄み切って美しい湖には一度は入ってみたいと思っていたのだ。

 ・・・っと、その前に実験。時間停止スキルは何かに触れていると解除が出来ないことは、さっきの草でわかった。では水だとどうなるのだろう?水中で間違ってスキル解除しての溺死なんて勘弁してほしい。試しに足先を湖の中に入れて「スキル解除」と唱えてみた。

 しばらく待っても俺は空中に浮いたまま、湖の中に足先を入れたままだった。時間停止が解除されたら、俺は湖の中へと落下しているはずだからな。宙に浮いている時点でスキル解除はされていないと判断できる。これでゆっくりと湖の中で考え事が出来るぞ。俺は湖面を揺らすことなく、湖の中へと入っていった。

 いやあ、すげえ綺麗だ。こんなにきれいな世界だと知っていれば、スキューバダイビングでもやっておけばよかった。スキューバダイビングをやると人生観が変わるって聞いたことがあるけど、これはわかる気もする。今の俺からエアーは吐き出されないけれど。全裸でいるのも解放感があってプラスに働いている。・・・白長靴が余計だったな。


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