第16話

 「ストーップ!」

 ・・・間に合った・・・のか?


 視界は赤一色。今は時間停止スキル発動中なので痛みは感じないけど、嫌な予感しかない。とりあえず手足を動かしてみるが、壊れた人形のようにぷらんぷらん。思うように動かずに視認も難しい。さっきの衝撃で手足の骨が折れたせいか。移動すれば自分の状態を客観的に見られるのだが・・・気が進まない。見るも無残な状態なのが、火を見るよりも明らかだからだ。

 とはいうものの現状確認しないと次の行動が決まらないので、横に少しずれてみることにした。

 俺の上半身は真っ赤なガスみたいなのに包まれている。赤いガスはドラゴニュートの口から出ていた。ドラゴンブレスってヤツだろうな。

 さらに全体が見られるぐらいに離れる。

 俺とドラゴニュートの距離は2mぐらい。弾き飛ばされた俺はドラゴニュートに背中を向けて大の字。俺の頭を中心に腰のあたりまでブレスに包まれていて、外からはよく見えない。肘から先はブレスから出ているが、関節が逆に曲がっている。ファイアブレスの先は俺の体を包んで1m先ぐらいのところまでしか伸びていない。

 俺に当たった直後ということか。

 ドラゴニュートの左顔面には俺の剣が突き刺さっていた。切っ先が後頭部から突き抜けている。首を捻じ曲げていて、顔と体の向きは逆だ。

 つまり全速で飛んできたドラゴニュートは、突然目の前に出現した俺に左顔面を貫かれたが、ひるまずに俺の姿を顔で追い、ファイアブレスを放ったということか。まさに肉を切らせて骨を断つだな。ヤツも俺が攻撃してくるのを狙ってたんだろう。

 すげえヤツだ。戦い慣れしてるというか何と言うか。それでもアイツは死なない気がする。

 考えてみれば、この異世界で唯一会話をしたヤツだ。ゲームでいえばボスキャラクラスだよな。見た目かっこいいしオタク心を擽るというか、一種の憧れ?敵とはいえ尊敬に値するわ。

 とりあえず宣言通りに一矢報いてやったけどな。ハハハ、ざまあミソラシド。結果的にドラゴニュートを倒せたわけじゃないが、顔面串刺しにしてやったんだから上出来だろ?


 さて俺の方なんだが・・・まあ、酷い有様ですよ。なんか胸がいびつに凹んでいる。剣の柄が当たったかな?真っ赤な血で染まっているんだが、俺の血なんだかヤツの返り血なんだかわからん状態。手足はプランプランで、どこに関節があるんだかわからなくなってる。首を捻って肩口から背中の方を見れば・・・燃えてるな。防塵服の背中は溶けて、真っ黒く焼けただれていた。

 これって詰んでるんじゃね?背中の火をすぐに消したとして、何分生きていられるか。現代医療でICUに担ぎ込まれたとしても、命だけは辛うじて取り留められるぐらいのレベルなんじゃないだろうか。

 ・・・終わった。短い異世界ライフだった。この異世界じゃ医療レベルは低いだろうし。

 いや魔法やらエリクサーとかのポーションの類なら治るのかもしれない。少なくとも蘇生魔法ぐらいじゃないと死ぬだろうな。

 しかしせっかく「時間停止」なんていうチート能力を手に入れたのに、十分生かしたとは言い切れないな。そもそも47歳のオッサンの体力筋力じゃ、どんな能力も生かし切れないか。

 現代日本でこの能力があったら、何でもし放題なんだけど。のぞきだけじゃなくてどこにでも侵入できるから盗みは楽勝、アリバイは簡単に作れるし、暗殺だってできそうだ。

 ・・・全部犯罪じゃないか。やめよう、人格が疑われてしまう。俺は極悪人ではないのだ。善良とも言い切れないけど。

 とりあえず戦場であるここからは離れることにした。



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