第17話
戦場を離れることにした俺は、フラフラと空中を彷徨う。
城の裏はすぐに崖になっていて、その下は湖だった。崖の上に城が建てられた、といった方がわかりやすいな。湖は緑がかった青で透き通っていて、太陽光をきらきらと反射させている。こんな景色をのんびりと絵画にするのも良さそうだ。いつまでも眺めていたい景色ってあるもんなんだな。
あれ?誰かいるぞ。
崖の麓から湖畔へと続く小道があり、何人かで纏まって歩いている。荷車も引いているな。近づいて見てみよう。どうせ時間停止中なら見つかることもないし。
20人ぐらいの一行は半数が女性だった。男は荷車を引いている騎士だか戦士だか風の3人組。それから禿げ頭の爺さんと、ロマンスグレーでダンディなオジサマ。カッコいいおじさんだなぁ。俺と同い年ぐらいに見えるが、俺とは大違い。月とスッポンだね。
女性陣は若いおねえちゃんから老婆まで。あの老婆は何か魔法使いに見える。ひょっとしたら蘇生魔法とか持ってるかも?・・・期待しすぎか。
あとは子供たち。小学校高学年ぐらいから幼児までといった感じ。赤ん坊もいるのか。
雰囲気的には城から避難中ということだろう。ということは、この中にお姫様もいるのかもしれない。王妃様っぽい女性は・・・いないのかな?どの女性も似たような黒っぽい地味な服でよくわからん。
一行をじろじろと見ていたら、一人の幼女と目が合った・・・ような気がした。黒髪で癖のあるセミロングの5歳ぐらいの女の子。いやいや、時間停止中なんだから気のせいだろう。
イチかバチか、この人たちに助けてもらおうか。仮に死んだとしても、この人たちならそれなりに弔ってくれそうだ。戦場で野垂れ死ぬよりマシだよな。
いきなり目の前に現れるのは、あまりにも危険だ。怪しい人物認定されてしまうだろう。助けてもらうどころか、その場で殺されちゃうかもしれない。
ここは「偶然ここにいました」を装うべく、1km先ぐらいのところで倒れているのがいいだろう。徒歩なら15分ぐらいか。そこまで持つかな、俺の命。
湖畔の小道は木々と湖に挟まれている一本道だ。なるべく柔らかそうな草の上に寝ていよう。
仰向けとうつ伏せ、どっちがいいかな?胸は血みどろで背中は黒こげの大やけど。大差ないようだけど、胸は返り血かもしれない。・・・うつ伏せだな。
程よい草むらを見繕って、体の位置を調整する。手足がボロボロだから受け身はとれないな。なるべく衝撃を受けないように、地面すれすれのところで「スキル解除」だ。
・・・失敗した。どうやら草が干渉していたらしい。もうちょい体を上げて・・・ダメか。んじゃ、もうちょい。なんか30cmぐらい高いけど、大丈夫か?ええい、南無三!!
(スキル解除)
ドサッ!!
「!!!!!!」
着地の衝撃は大きかった。スキル解除によるすべての痛みが同時に体中から沸き起こり、目を剥いて発狂しそうになった。呼吸も苦しいし、手足も動かすことすらできない。声にならない悲鳴を、絶叫をあげていた。
もう元の世界に戻りたい。それしか考えられない。
(お、俺を・・・俺を~戻せ~~~っっ!!!!!)
パキィーン!!!
額の前あたりで、ガラスの割れたような音をした稲妻が光った。
こ、これは・・・時間停止スキルを獲得した時と同じだ。今度は何だ?
どこかのニュータイプの閃きのようだ、と思う余裕は俺にはなかった。
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