第14話

 俺はドラゴニュートを探す・・・までもなかった。俺を睨んでやがる。

 ドラゴニュートからは100m以上離れていた。戦場は乱戦状態だ。そこら中で人間とモンスターの戦闘が繰り広げられている。にも拘らず空中で長い首を伸ばして、こちらを見つめているのだ。

 こんな乱戦の中で俺を見つけるなんて、どんだけロックオンしてんだよ。完全敵認定か。

 「それでこそ私のライバルだ」なんて言わねえよな?


 でも今ならヤツは無防備だ。三叉の槍も構えていない。俺はドラゴニュートの上、ヤツの左側上空に位置取りをした。ヤツの左目は塩酸で潰れている。死角になるはずだ。狙いはヤツの長い首。さっきの牛モンスターと同じように、上段からの袈裟斬りを決めてやる。牛モンスターの首を一刀両断にできるほどの剣だ。いくらドラゴニュートとはいえ、この奇襲なら成功するはず。俺の肩と腕よ。あと一回だけ持ってくれ。

 俺は大きく剣を振りかぶって両手を振り下ろす。

 (動け)


 ガイィィィィ~ン!!!


 剣はしっかりヤツの首に当たったのに、剣が弾かれた!

 「ストップ!」

 時間停止だ。それにしてもなんて硬さだよ。無防備なのにノーダメージか?ドラゴンはメチャメチャ防御力高いってのは、どんな物語でもそういう位置づけだけどさ。ドラゴニュートでもそうなのかよ。このチートモンスターめ。濃塩酸は効いたみたいけど。

 とはいえ剣を手放してなかったのは幸いだ。剣を持ったままで時間を止めることが出来た。肩と腕よ、よく頑張ったな。我ながら褒めておこう。まだ奥の手はある・・・はずだ。

 続いて状況確認。俺は少し移動してみた。

 ・・・俺がひどい格好だ。ヤツに剣を弾かれて、その反動で頭から真っ逆さまに落ちるところだった。ひとりバックドロップってやつだな。ドラゴニュートが俺に対して左腕を振りかぶり、何か攻撃しようとしていたのがわかる。時間停止が1秒遅れたら、死んでたんじゃないか?

 考えてみたら、この時間停止スキルって発動前に即死攻撃食らったらおしまいだよな。時間停止中は痛みも無くなるからいいけど、スキル解除したら死んじゃうだろ。時間停止の中で永遠に生きるとか、空しいだけだ。楽しみがお姉ちゃんのスカートを覗くとか、お姉ちゃんのお風呂を覗くとか、ぐらいしか無くなるぞ。・・・エロ親父全開だな。自分で性癖の暴露してどうする?

 ・・・コホン。ええい、フラグを立てるな。


 俺は次の一手を考える。肩と腕はボロボロで握力も残っちゃいない。剣を振るどころか持つだけでも怪しい状態だ。

 チラっとこのまま逃げることも考えたが、言葉も通じないこの異世界でどうやって生きる?何のとりえもないオッサンでは生きるだけでもシンドイに違いない。

どうせ一度は死んだ身だ。逆にここで死んだら元の世界に帰れるかもしれないし。せめてあのドラゴニュートには一太刀を浴びせたい。ドラゴニュートさえ引かせれば、この城は守り切れそうな気がするし。

 俺は覚悟を決めた。半ばヤケになっているかもしれないが。


 時間停止の中、俺は城の一番高いところに向かった。そこのバルコニーを目指す。

 そういえば城のてっぺんって誰が住んでるんだろう?やっぱり王様なのかね?俺のイメージでは幽閉されたお姫様なんだけどな。手品で万国旗を出して「今はこれが精いっぱい」と言ってみたい。手品出来ないけど。


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