第13話
とはいえ時間を止めるだけでは勝負にならない。まずは武器だ。オッサンが素手でドラゴニュートに勝てるわけがないからな。どこかに手ごろな剣とか落ちてないだろうか?俺は時間を止めたまま、近くを物色する。
時間が止まっているとはいえ、周囲はモンスターとの戦場だ。まだ戦闘中なのだ。下手に戦っている真っ只中で、迂闊にスキル解除なんてしたら俺の身が危ない。慎重に武器を探そう。
俺は空中から戦場となっている城の広場を俯瞰している。やはりモンスター側の方が優勢か?騎士や魔導士が数多く倒れていた。
あれ?そういえば広場の中央に四角い壁みたいなのがあったはずだけど。いつの間にかなくなっている。確かあのモノリスみたいなのからモンスターが湧き出ていたはずだから、今ここにいるモンスターさえ倒せば勝てるのか?
いやいや、あのドラゴニュートを倒さなければ我々の勝ちは無いだろう。俺が「我々」と言っていいのかは知らんけど。まあ俺が人間である以上、人間側に立つのは当たり前だ。仮に騎士や魔導士がエルフやドワーフだったとしても人類と言って差し支えないだろうから、俺は城側の人間と言ってもいいだろう。
っていうよりも、俺はドラゴニュートを倒す「人類の救世主」となるのだ。いい響きだねえ。バラ色の異世界ライフが目に浮かぶぞ。捕らぬ狸の皮算用?そんな言葉は異世界にない(キッパリ)
空から戦場を見ていると、何故か一人の騎士の遺体に目が付いた。遺体の周りには大きなモンスターの死骸が3体も転がっている。他にも小型のモンスターが数えきれないぐらい倒れていた。確かこの辺りはモノリスがあったはず。最前線をこの人が一人で食い止めたのか?凄いな。最後は力尽きたようだけど。
手に持ったままの剣は、柄に装飾がしてあった。かなり立派に見える。故人には申し訳ないが、これを拝借させてもらおう。あなたの無念は俺が晴らしてやる。合掌。ナンマンダブナンマンダブ。俺は騎士の遺体に手を合わせて拝んでから、騎士の剣に手を伸ばす。
すかっ、すかっ。あ。時間停止中だと、剣が取れないのか。というよりか、時間停止中はすべてのものを擦り抜けてしまうんだな。それなりに制限があって、無敵というわけでは無さそうだ。
しょうがない。「動け」と心で念じる。
ドカーン!!バリバリ!!「うぎゃー!!」
たちまち爆音やら悲鳴やら、轟音と土煙と爆風に襲われる。ここが戦場なのを忘れていたわけではないが、それでも心臓に悪い。
俺は急いで亡くなった騎士の手から剣を外す。うわっ、重い!!見た目以上に重量のある剣だ。テニスラケットぐらいならいくらでも振り回せるが、これは野球のバットよりもかなり重いぞ。
ぼーっとしているわけにもいかないので、とにかく一度時間停止することにした。
時間を止めると剣の重みも全く感じなくなった。剣を手に持ったまま移動することも出来る。剣をブンブン振ってみるが、全く苦にならない。俺の体の一部になったということか?
試しに剣を槍投げの様に構えて、角がたくさん生えた近くの牛モンスター目掛けて投擲してみた。・・・が、剣が指先から離れない。どうやら時間停止中は俺の一部として、俺から離れることが出来ないみたいだ。
剣を振り回して時間停止中の牛モンスターを滅多斬りにしてみる。しかし剣がすり抜けるだけで、モンスターは傷一つ付いていない。まあ、これは予想通りだな。素手でも時間停止中はすべてのものを擦り抜けてしまうのだから。
ならば、剣をモンスターの顔面に突き刺した状態でスキル解除すればいいんじゃないの?時間が動き出したら剣が刺さっているという、チートすぎる攻撃だぞ。成功したら最強だな。
・・・失敗した。というよりスキル解除が出来なかった。
どうやら体や俺の持ち物が何か他の物体に干渉していると、時間停止は解除できないようだ。例えば地面に足を着けているつもりでも、足が地面に触れていたらスキル解除は出来ない。常に空中じゃなきゃダメなのかよ。意外と不便だ。
逆に考え事をしたい場合は、体を少しだけどこかに埋めているといいのかもしれない。さっきみたいに間違ってスキル解除をしなくて済むし。
何か時間停止を利用した、いい攻撃は無いかな?・・・これならどうだ?
空中にとどまった俺は、上段から牛モンスターの首を目掛けて剣を振り下ろす。剣がモンスターに当たる直前に「動け」と念じた。
ズバッ!!
牛モンスターの首を狩ることに成功・・・したのだが。
「うがああっ!!」
俺の肩と腕の筋肉が悲鳴を上げた。筋肉がブチブチと切れたような感じすらする。 痛いなんてもんじゃない。時間停止からの急激な動きは、体に負担がかかりすぎるのか。これは想定外だ。
思わず落としてしまった剣を握りなおして、時間停止をした。
・・・ふぅ。痛みが消える。想定通りに牛モンスターを倒すことが出来た。しかし代償がデカいな。肩と腕のダメージが酷い。こんな攻撃、あと一回できるかどうか。・・・いや、一回だけでも頑張ってみよう。その一撃でドラゴニュートを葬ればいいのだから。
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