第18章 “相棒”
「来い。全て焼き尽くしてやる」
覚醒し覇王と化した邪神――アツマはそう言い、全身に燃え滾る炎を目の前の人間へと向ける。
「負けられねぇんだよ!」
片腕が黒焦げと化した人間――キセイはそう言い、傷だらけの体を動かして最大威力の雷を目の前の邪神へと振り絞る。
「うぉぉ――ォォッっ!」
叫び、放たれた『雷光』はアツマの体に直撃。
しかし効いてる様子は無い。覇王神と成ったアツマにもはやこの程度の攻撃は効かず、反撃を喰らう。
「ぐっ」
キセイは腹部を殴られ、痛みと同時に熱さも生身で体感する。
服が焼かれ、その炎が体へ燃え移る直前に急いで脱いでしまう。
「はぁ、っぁ、はッ、は!」
上半身が裸体となったキセイは、それでも倒れない。
倒れることだけはせず、何度もアツマに立ち向かい続ける。
「まだ、だァッ!」
左腕に『雷光』を纏わせ、邪神に攻撃を喰らわせようとする。
だが、効かない。幾度となく雷の拳は直撃する寸前で止められる。近づくだけで灰と化してしまいそうな炎に止められ、アツマ本体へ攻撃が当たることはない。
「ぁぁぁ――ああアアッッ!」
殴る。蹴る。
足にも『雷光』を纏わせ、何度もアツマに傷をつけようと立ち向かう。
拳が、腕が、足が、体が、それらが火傷を負おうと、立ち上がり続ける。
「オレは、――オレはぁぁッ!」
雄叫びをあげ、喉を枯らしながらも突き進む。
体は燃えている。全身が黒一色に染まっている。キセイの四肢は、本来ならマトモに機能するのが難しいほどに傷を負っている。
だが、それでも。
「お前を倒すんだッッ!」
何も無しでは動かすことが不可能な腕に『雷光』を纏わせ、雷の力で無理矢理に動かす。
限度を越えた力を発揮させ、無惨な姿になりながらも止まることをしない。
この間、一度たりともアツマ本体へ攻撃が当たっていないが、そんな中でもキセイは叫んで動き続け――。
「無様だな。雑魚人間」
アツマは不意にそんな一言を発し、再び体を動かす。
ついに自身の腕を前へと突き出し、それはキセイの顔面へ直撃する。
「ご、がァッ」
瞬間。キセイの眼球は燃え、肌も灰と化す。
原型を留めない肉体と変化し、それでもなお。
「捕まえた」
無理矢理に雷の力を使って体を動かし、アツマの腕を全力で掴む。
燃えすぎた影響で所々骨すら見え隠れしている肉体を動かし、未だ全身を燃やし続けるアツマの両腕を掴んだ。
「っ、なにを」
アツマは困惑し、見えない眉をひそめる。
普通ならば、もうキセイに勝ち目は無いはずだ。もはや動く屍と化す人間に勝つルートなど用意されているはずもなく、だからこそ今更アツマの腕を掴んだところでどうしようもないのに、
「へっ」
キセイはニヤリと笑みを浮かべ、やはり邪神の腕を掴み続ける。
炎そのものを掴んでいるのと同じだ。熱いのは当然で、それよりも痛みの方が強い。
まだ生きているのが不思議なくらいの体験をして、その上で笑みだけを絶やさず。
「――今だ、
希望の星は、清神へと託される。
「っ!?」
突如として背後に違和感を覚えたアツマは振り返り、後ろを見たと思えば。
「託されたわ、
そこにはミライがいて、彼女は背後から近づき、
「これが私の全力よ!」
そう叫び、アツマの全身を氷漬けにしてみせた。
「っ!?」
全身を覆っていたアツマの炎は途端に消えて無くなり、氷の中で邪神は身動きが取れない状態となる。
「はァァっ!」
そして、そのままキセイとミライは同時に氷を殴ることで、
「ぐッ」
氷塊は壊され、中からアツマ本体が飛び出てくる。
今や炎どころか何も纏っていない邪神が、無防備のまま姿を現す。
「な、なんでだ! どうして、ジブンの炎が!」
覚神したことで勝ちを確信していたアツマは困惑し、地に跪きながら叫ぶ。
「溜めてたのよ、ずっと」
すると、それに答えるかのようにミライは口を開き始める。
「キセイがあなたの相手をしている間、私はずっと最大威力と硬度を誇る氷塊を作るために神力を溜め続けていた。ずっと、覚神したあなたの炎すら凍らせるようなものを」
「な、なんだと」
「あれだけの炎を常に発散させ続けていたんだから、もうあなたの神力は底を尽きてるんじゃないの?」
「っ!」
アツマは冷や汗をかき、すぐに立ち上がる。
まるで図星を突かれたかのような表情を浮かべ、一度退散を考えた――その時。
「はっ!?」
目の前の人間が、構えていることに気づいた。
「おま、なにっ……を」
慎次キセイは口を開かず無言のまま、左腕を自身の顔の前に持ってきて戦闘態勢に入っている。
『雷光』も何も纏わず、いつでも戦える準備に。
「――――」
アツマはそれを見て、一瞬困惑してしまう。
何がしたいのか。この人間は何を企んでいるのか。それを理解できなかったが、彼の確かな瞳を見て。
「……神能は無しってか?」
理解する。そう捉える。
この目の前の人間は、邪神相手に『雷光』を使わずただ己の拳のみで戦おうとしてるのだと、そう解釈する。
「――――」
それに対してキセイは何も答えず頷きもしない。
だが、その瞳から答えはすぐに察せられる。
「……ヒヒヒ。良いぜ、乗った。それを受けなきゃぁ、神とか邪神とか以前に男じゃねぇよなぁ!?」
そうして、
互いに能力は使わない、正真正銘の戦いが。
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