第19章 “決着”

 同時に足を前へ突き出す。

 キセイとアツマ。2人ともが同じタイミングで走りだし、2人ともの拳が同じタイミングで激突する。


 鬩ぎ合い、周りには強烈な衝撃波が生まれる。

 瓦礫が舞い、砂埃が散り、その余波は2人だけに留まらない。

 しかし、そんなことでこの男たちは止まらない。


 キセイは更に拳を前に押し、アツマの顔面を殴る。殴り、そのまま自身の右足で相手の横腹を蹴る。

 蹴られたアツマは吐血するが、すかさず身を翻す。そして蹴りの衝撃を受け流してからキセイの顔面を殴り、更にもう片方の腕で腹を殴り返す。

 キセイは殴られるもなんとか耐え、左手でアツマの腕を掴む。そうして体ごと振り回し、一度相手を遠くに置く。


 振り回され距離を離されたアツマは片足を上げ、地面に落ちていた瓦礫を蹴る。

 相手の顔面めがけ蹴り、それは見事に命中。

 キセイの眼球に瓦礫の破片が当たり、左目の機能が停止する。


 これを機にとアツマは走り、顔中血だらけのキセイに追い討ちをかける。

 拳を突き出し、トドメをさそうとしたが。


 ――キセイは左目を潰したまま、頭突きを噛ます。

 何も痛みを感じていないのかと疑いたくなるほどすぐさま反撃に入り、それにアツマは怯んでしまう。

 頭突きを喰らわせ、少しの衝撃を与えたところでキセイは追い討ちをかける。


 残された腕でひたすらにアツマを殴り、相手に回復の時間を与えまいと進む。

 前へ前へと、ただただ己の拳をぶつけていく。


 アツマもやられっぱなしではいられないため、自身の腕を上に持っていきキセイの腕を振り払う。

 そのまま膝蹴りを喰らわし相手が痛がるのを期待するが、蹴られたキセイに苦痛の表情は一切見えず、ただただアツマに攻撃を入れるため進み続ける。


 右腕が焦げても、左目が消失しても、体が傷にまみれようと、慎次キセイは止まることを知らない。


 アツマはなんとか自身が有利になる状況へ持っていこうとするが、キセイは相手の反撃を待たずに殴り続ける。

 目の前の男に何もさせまいと、腕だけではない。まだ機能する足も駆使し、痛みを幾度なく与える。


 ――瞬間。苛立ちを覚えてしまったアツマは一瞬だけ我を忘れ、何も考えずに体を前に持っていく。

 今だけは炎も何も纏っていない男の腕がキセイの中心部を襲い、あまりの衝撃に横腹が抉れる。


 キセイの体が欠けたことで勝敗を決したと思われたが、それでもなお男は止まらない。

 慎次キセイという男は、どれだけ体に傷を負おうと止まることなどできない。止まることを、知らない。


 アツマを殴り、自身も殴られる。

 相手の方が攻撃手段も多いため、どんな状況になろうと不利だ。

 横腹だけじゃない。微かに繋がっていた黒焦げの右腕がついに千切れ、それと同時に相手からの蹴りでもう反対側の横腹――脾臓が抉れる。


 それでも止まらない。

 キセイは体の多くを機能停止させながらも、生物的根拠では説明できない原理でアツマに攻撃を与え続ける。どんな傷を負わされても、止まる気配が一向に無い。


 アツマは再び瓦礫を蹴り飛ばし、それはキセイの左足付け根を貫通する。

 肉や骨を抉りながら突き破り深刻な致命傷を与えるが、キセイはまだ動く右足で勢いよく地を蹴り、一気にアツマとの距離を詰める。


 そのまま拳を構えて――、





 叫ぶ。





 渾身の叫びを壊れかけの喉から発し、腕を突き出す。

 拳をアツマの腹部に命中させ、しかしただ命中させただけではない。

 ただ相手に衝撃を与えるだけではなく、勢いのまま拳はアツマの肉を破り――、





 神核へ激突する。





 神の体内に存在する命の核へキセイの拳が当たり、次第にその核はひび割れていく。

 少し、少しずつと割れ、繊細な硝子細工のようにその波紋は広がっていき――、





 破壊される。





 アツマの神核はキセイの拳によって直接壊され、途端に核の中からは神力が際限なく沸き出てくる。

 正体不明の光が神の体内から吹き出て、それは数十秒間続いたと思えば今度は唐突に消滅する。


 光がその場から消え去り、気づいた頃にはアツマそのものも消滅していた。

 この世から影も形も残さず、神核を壊されたことでアツマは『死』を迎える。


 ――その場には慎次キセイのただ1人が残り、彼は背後にいる相棒ミライの方を向いて。



「オレの勝ちだ」



 満足気に、そう告げた。

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