data020...予感

「人間の反応と、メタリアルの反応が一つずつね……。出来ればメタリアルに見つからずに助け出せると良いんですけど……」


 アイナさんがボクの後ろでボソリと呟いた。


 ムサシによれば、メタリアルは中央広場にいるらしい。第七セクターは、五つのエリアに分かれている。

 それは「オフィスエリア」「居住エリア」「食堂兼農業エリア」「技術開発エリア」「広場」の五つ。


 人間の生体反応があるのは居住エリアで、そこへ行くには広場を通るか、大回りになるけどオフィスと技術開発エリアを通って行くパターンがあるらしい。


 無駄な戦闘を避けるために、ボクらはオフィスエリアへと向かった。


『酷い……』


 オフィスエリアに入ると、いくつかの死体が倒れていた。死体は武装しており、メタリアルとここで戦ったのが見て取れる。


「おかしいですね……」


「アイナも気付いた?」


 二人はオフィスエリアの中に進むと、同じ疑問を口にした。


「死体が少なすぎる……」


『そうなの?』


「うん。第七セクターの外に死体はなかったでしょう? だから、みんな逃げる前にやられちゃったんだと思ったけど、明らかに死体が少ないのよ」


 アイナさんによると、第七セクターには五百人近い人間が生活をしていたらしい。それを言われると、確かにここに来るまでに死体はたったの三人しかなかった。


「……みんな、どこに消えたの?」


 ムサシのサーチでは生体反応は一人だけだった。つまりここで生活してた人はどこに行ったんだってことになる。


「もう少し調べてみましょうか」


 こくりと頷くと、ボクらは歩みを進めた。


 オフィスエリアの役割は、第七セクター内の仕事の管理、通貨の流通管理、仕事の斡旋、部屋割り当てなど多岐に渡る。


 聞くところによると、この第七セクターは一種の国家のようなものだと言う。他の施設との交流は限定的なため、内部で全てを完結させる必要がある。


 それは人の営みだけではやく、娯楽や、生活基盤、衣食住、それら全てを自分たちの力でやらなくてはならない。


 第七セクターが安定するまでは、たくさんの課題があったはずだ。それをここの住人は長い年月をかけて規則を作り、秩序を作り、平和を築いた。


 それは並々ならぬ努力の結果だろう。


 そんな第七セクターが、見るも無惨な姿になっている。

 メタリアルの襲撃により破壊された室内。血塗れの死体、止まったシステム。消えた人々。


『本当に何が起きたんだろう……』


 このエリアには特に食べる物も無いし、武器もない。さっさと通り過ぎることにして、技術開発エリアに足を踏み入れた時だった。


 嫌な予感がした。


 〃予感”そんな曖昧なモノ、ロボットであるボクにはないはずだけど、なんとも言い表せられない嫌な予感がした。


 エリア移動の前に再度サーチして、広場のメタリアルが動いてないことは確認している。生体反応も居住エリアのままだった。


 技術開発エリアには、誰もいるはずがない。


 だけど、怒りでも悲しみでもない。

 なんとも言えない感覚を感じた。


 そして、かすかに耳に届いた機械音


 ……ギュィィィン!


『っ! 下がって!!』


 ボクは、後ろからついてきてる二人を突き飛ばすように後退すると、ボクらのいた位置に


 スドーーーーン! という爆音共にレーザーが放たれ、オフィスはめちゃくちゃに破壊された。


「なになになに?!」


「敵襲?!」


 ボクはマリンとアイナさんに覆い被さって衝撃や飛来物から身を守ると、すぐにムサシでサーチさせた。


『ムサシ! 撃ってきた敵は、サーチに映ってる?!』


【 サーチには映ってないでござる 】


 やはりメタリアルバスターを撃ってきたメタリアルは、サーチに映らない。

 そしてボクと同じくメタリアルバスターを撃てるこのメタリアルは、明らかに敵意を持っている。


「ゼロハチ! 腕が!」


 咄嗟の回避が間に合わず、ボクの右腕は肘から先が消し飛んだ。破壊された右腕は回路が剥き出しになって、バチバチと、火花を立てている。


『……大丈夫。ボクはロボットだから痛みはないよ』


 しかし、これではメタリアルバスターが撃てない。

 だけどそれは、あっちも同じだ。メタリアルバスターを放ったら最後、エネルギー切れで立つこともままならないはずだ。いまのうちに、こっちから攻撃した方がいい。


『二人は動かないでいて!』


 ボクは物陰に二人を移動させると、ムサシを連れて砲撃のあった方へと駆けた。


『機能act《アクセラレーター》』


 足の稼働部にエレルギーが集中して、通常以上の脚力を生むと風穴の空いた通路をひた走る。


 ボクに残された武器は少ない。

 アクセラレーターによる脚部強化は、メタリアルを破壊するほどの威力はない。あとはムサシのメタリアルソードでどこまで戦えるか。


 ところどころ火の手があがり、煙が視界を悪くした頃

 発射地点と思わしき場所についた。


『……誰もいない?』


 その時だった。

 また嫌な予感がして、ボクは咄嗟にバックステップすると、僕のいた位置に再度メタリアルバスターが放たれた。


『なっ、連発?!』


 さっきも思ったけど、放たれたメタリアルバスターはボクのものより細く短い。もしかしたら出力を調整できるのかも。


『ソの様子だト、一撃目ハ避けらレなかったようだナ』


 辺りを警戒していると、白煙の中から機械混じりの声が語りかけてきた。


 ゆらりと白煙の中から現れたのは、ボクと良く似た黒い人型のメタリアルだった。

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白銀のメタリアル 〜荒廃した世界で心を探す〜 まめつぶいちご @mametubu_ichigo

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