data019...それぞれの思い
僕らはシェルターを出ると、第七セクターに向けて歩き出した。
少し日は傾いてきているけど、完全に日が落ちると辺りは真っ暗になってしまうため、今のうちに行けるところまで行きたい。
「疲れたぁ。休もー?」
しかし、普段まったく運動をしないマリンにとって、長時間歩くという行為事態が苦痛だったようで、ずっと不満を口にしている。
『さっき休憩してから、まだ八分しか歩いてないよ』
「もー! 七百メートルなんてとっくに過ぎたじゃーん!」
『だからそれは……』
ムサシの算出した七百メートルは、直線距離だ。
廃墟となった都市部では、どうしても迂回する必要があるし、瓦礫の山も二人の歩速を遅くしている原因だった。
マリンのテレポートを連続で移動する案も出たけど、いざという時に超能力が使えない事態は避けた方が良いというアイナさんの提案が通った。
それから歩くこと数時間。
日がほとんど落ちて、気温が少し落ちてきた頃。
僕らはやっと第七セクターに到着した。
『これが第七セクター……』
幾何学模様が施された真っ白い建造物は、ビルは四階建て相当の大きさで、本当に千年前の建てられたのか疑うほど、綺麗な形でそこに存在していた。
『こんなに大きな建造物なのに、どうして襲撃を受けなかったのでしょうか』
周りのビルは砲撃の跡や風化により崩れ落ちている。
第七セクターだけが、まるで新築かのような佇まいだ。
「ARs3の周囲では、メタリアルがその存在を認識できないのです」
『ARs3?』
「アンチ・ルシェルシュ・シールドです。遥か昔の科学者ミカムラの発明で、メタリアルの視覚情報を誤認させ、サーチにも映りません」
アイナさんがそう説明してくれたけど、ボクには見えてるし、ムサシにもサーチ出来た。そして、生体反応があるからボクらはここに来たんだ。
「あれ? そういえばゼロハチには見えてて、ムサシのサーチも効いた?」
その事実にマリンも気付いたようだ。
『メタリアルに見つからない素材なら、ボクに見つかったりムサシにもサーチ出来るはずないよね』
「確かにおかしいですね……。私はロボットの専門家では無いのでわかりませんけど、何かゼロハチさんには特殊な機能が備わっているのかもしれません」
白い悪魔と呼ばれるメタリアルにそっくりなボクの体は、未知の機能がまだまだある。ただ一つ言えることは、ボクが白い悪魔なら、この第七セクターは視認出来ていることになるし、人類は千年前に滅んでいるはずだ。
だからボクは、白い悪魔なんていうメタリアルではない。
ボクは家庭用ロボットなんだから。
『それでどうやって中に……』
第七セクターは、幾何学模様のツルツルの壁で覆われていて入口らしき物が見当たらない。
「こちらです」
アイナさんが何もない壁の近くに座り込み壁の一部を触ると、ピシッと壁に亀裂が入り、音もなくドアがスライドして小さな入り口が現れた。
「さ、今のうちに」
入った瞬間に敵のメタリアルが襲ってくる可能性も高い。ボクを先頭に、アイナさんが続き、緊急時にアイナさんを連れて脱出できるように、最後尾にはマリンとムサシ。
さっきからマリンが静かだけど、よく考えたらシルリアがメタリアルを手引きして内部に入れたって話だったことを、会話ログを見て思い出した。
話的に、襲撃から半日以上は経っている。
戦闘の音が聞こえない事から、中の状態としてはいくつか予想が付く。
1.人間はいるけど、メタリアルもいる
2.人間はいるけど、メタリアルはいない
3.人間はいないけど、メタリアルもいる
4.人間はいないけど、メタリアルもいない
ムサシの広域サーチで生体反応があったことから、人間がいないという状況はないため、3.4は排除され、1か2のパターンしかない。
1のパターンの場合、戦闘音はしないから上手く隠れていることになるので、ボクらが侵入することで戦闘になる可能性が高い。
理想は2のパターンの場合、何かしらの原因でメタリアルがいない場合。
話によるとシルリアが手引きをしてテレポートでメタリアルを侵入させたなら、全滅させたと思い込んでどこかへ去っている可能性が高い。
「ちょっと待って、入る前にムサシでメタリアルがいるか調べられないの?」
そうか、さっきは生存者がいるかだけ聞いただけだった。
『ムサシ、この建物の中に、さっきみたいなメタリアルはいる?』
ボクの問いにふわふわと飛んでいるムサシは答えてくれた。
【 一体 反応ありでござる 】
一体か、それならボクでもなんとかなりそうだ。
ただ、日は落ちているからエネルギーのチャージもできなくなるし、なるべくメタリアルバスターを使わずに倒せるといいんだけど……。
それぞれ様々な思いを胸に、ボクらは第七セクターへと足を踏み入れた。
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