data018...昔の記憶?
次の日、私はモニター期間が終わりアイナに
「はい、オッケーです。明日からは通常の訓練に戻れますよ」
「ふう、よかったー。よっと」
アイナのメディカルチェックを終えると、私はベットから飛び起きた。
「ねぇアイナ」
「なんでしょうか?」
カタカタと画面に向かって何かを入力するアイナに、私は構わず話しかけた。
「アイナは、楽園って信じてる?」
何不自由ない場所【楽園】。本当にあるのかわからないけど、あったらいいなと私は思う。無理だとは思うけど、可能ならそこには海があって欲しい。
「楽園……ですか? あの都市伝説の?」
アイナの手が止まった。
「そう。あの都市伝説の」
アイナは科学者だ。全ての自由が約束された理想都市なんて非科学的な話、信じるわけもない。それでも私は聞いてみたかった。
「……信じてますよ」
「え? でも、昔から語られてる桃源郷だよ? あると思ってるの?」
「笑わないでくださいね? 研究所のみんなは、テレポートを使って他のセクターとの長距離輸送を目的としていますが、私はみんなで楽園に行けたらなって思ってます」
そうなんだ。研究者の人たちはみんながみんな、同じ目的じゃないんだ。そうだよね。楽園を信じる人がいてもいいよね。
「じゃあ、私が連れて行ってあげるよ! 楽園に!」
「ふふ、約束ですよ?」
私たちは子供のように笑い合った――
◇◇
『そんな過去があったんですね』
マリンは意識を取り戻してから、どんどん顔色が良くなった。アイナとの昔話に花が咲き、シェルターの中だということも忘れ、見つけた食料を食べながら存分に思い出を語ってくれた。
「それからかな? 私とアイナがもっと仲良くなったのは」
「そうかもですね」
姉妹というより、家族に近い距離感を二人からは感じた。立場は違えど、狭い空間で育った二人は家族と言ってもおかしくはない。
「よし、体調は戻ったよ。どうしようか」
『《機能act》アナライズ』
――《解析結果》――――――
・体温:36.4度(平熱)
・心拍数:55(正常域)
・呼吸:正常
・怪我:なし
・酸素濃度:98%
うん。マリンら熱も下がってるし、心拍数も正常に見える。
「なによー、ゼロハチ。私のこと信じてないでしょう?」
『え? いや、念の為にと……』
「ふーん。それに、あんまり女の子の事をジロジロ見ちゃだめだよ?」
『ご、ごめんなさ……』
――ドクン――
え? なんだろう、この気持ち……。
僕はロボットだし心臓なんてないのに
この早まる胸の鼓動はいったい……。
――■◯※▲! 女の子をジロジロ見ないの!――
誰? 一瞬、メモリーにない映像が流れた。
快晴の下、赤い髪に白いワンピースの女の子が僕を叱っ
ていた。こんな記憶は見たことがない。いや、あるはずがないのに……。
――チ! ゼロハチ!」
『え?』
「ゼロハチってば! どうしたの? フリーズしてたよ?」
気がつくとマリンが僕のことを覗き込んで、アイナさんはお茶を飲みながら不思議そうな顔でこちらを見ていた。
『え? あれ……。僕はいったい……』
今の映像は、なんだったんだろう?
それに確かに聞こえた。まるで人間のような胸の鼓動。
「どうしたんですか? ゼロハチさん」
『いえ、今……。胸の鼓動を感じた気がして……』
「機械なのに?」
マリンが茶化してくる。それはそうだ。どこからどう見ても機械の体に、鼓動するようなパーツは搭載していない。
「どういうことですか?」
『マリンが僕を叱った時に、
「昔の記憶……ですか?」
『え? 僕そんなこと言いました?』
「何を言ってるの? 今自分で昔の記憶がフラッシュバックしたって言ったじゃない」
自分でも無意識だった。でもボクは作られてからずっと博士のラボにいたんだ。赤い髪の女の子なんて知らないし。昔の記憶なんてあるわけない。
『確かに会話ログに残ってますね……。僕はなんで昔の記憶なんて言ったんだろう』
「……古いロボットのメモリーを使い回されてて、そのデータがちゃんと消えてなかったとかでしょうか?」
いや、そんな感じでなかった。確かにあれは僕の記憶だと感じた。他人の記憶ではない……はずだけど、僕の記憶ではないんだから、他人の記憶しかありえない。
『そう……。かもしれません』
「私は人間専門だから詳しくはないですけど、第七セクターにいけば、少しは調べられるかもしれませんよ」
『本当ですか?!』
実は記憶メモリーの中にアクセス出来ない部分がいくつかある。その中に、博士と最後に過ごした後の記憶が保存されているかもしれない。
『でも……。アイナさんを、また危険な目に合わせるわけにはいきません。僕の記憶に関しては急いでないので、また今度にしましょう、今は一度極東支部に戻って……』
「”今やれることを明日に延ばすな”、これは第七セクターで語り継がれる教訓です。今日と同じ日が、明日も来るとは限りません」
「そうだよ。ゼロハチ、明日には第七セクターが跡形もなくなってるかもしれないし、アイナみたいに今この瞬間も助けを求めてる人がいるかもしれないよ」
『それは――』
そうかもしれない。
アイナさんはたまたま助けられたけど、こうしてる間にも亡くなっていく命があるかもしれない。
『《機能act》バディドローン!』
僕は自分や周りのことしか考えてなかった。今も僕らの救助を待ってる人がいるかもしれない。確かにその通りだ。僕は小型のドローン、ムサシを起動させた。
【 主、何用でござるか 】
『ムサシ、この近くに生体反応はある?』
すぐにムサシは、機能をactして生体検知を開始してくれた。それから数秒後。
【 北東方面に生体反応検知したでござる 】
【 ここからおよそ、七百キロメートル 】
「ここから七百キロだと、丁度第七セクターがある位置ですね」
考える必要なんてない。
『アイナさん、ごめんなさい。極東支部に行くのは少し後になりそうです』
「大丈夫ですよ。第七セクターが取り戻せるなら、私も力になりたいですし」
「そうと決まれば、さっそく行こうか!」
『マリンは、体調大丈夫なの?』
「自分でさっき調べてたじゃないの。問題ないわ」
そういうと、マリンはうーんと背伸びをして、シェルター内にあった保存食を口に放り込んだ。
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