data010...第七セクターとシルリア

 マリンの話を要約すると、ゼクトの東京第七セクターは、暴走したメタリアルに対抗するための作られた最後の研究所らしい。


 そこで研究されていたのは、対メタリアル兵器である【ジェネティックノイド】つまり、超能力者達だった。


『でも、どうして超能力者を作ろうって発想になったんだろう……』


「それは、ゼクトネットワークが乗っ取られたからよ」


 ゼクトネットワークというのは、全てのメタリアルを管理する専用のネットワークだ。

 現在では、宇宙にある3万個の衛星と、地上にある約250万個の基地局で成り立っているらしい。この数は、ボクが知ってる数よりだいぶ増えている。


 ボクはエラーでゼクトネットワークに繋がらないけど、それが逆に功を奏しているみたい。


「それにメタリアルを作るには、どうしてもゼクトコアが必要不可欠でしょ?」


 ゼクトコアとは、メタリアルを動かすメインプログラムが搭載されている球体で、製作者のゲーニットしか作り方を知らない。その為、この世にある全てのゼクトコアはオリジナルのゼクトコアのコピー品となっている。


『そうか。ゼクトコアを取り付けると、自動的にゼクトネットワークに繋がってしまうと……』


「正解。だから株式会社ゼクトは、自社製品であるメタリアルに対抗する為、機械に頼らない兵器を作る道を模索したわ」


 機械に頼るのではなく、人間の未知なる力で事態を収めようとしたのか。ただそれには膨大な時間がかかりそうだ。


『人間兵器……。それがジェネティックノイド……』


「そう、エピジェネティクスとヒューマノイドの造語ね。エピジェネティクスって、ゼロハチならわかるわよね?」


『うん。データベースにあるよ。人間は一つの受精卵から細胞分裂を経て生体へと変化するけど、細胞分裂後も継承される遺伝子発現の制御・維持の仕組みのことだね』


「つまり、人間の中にあるDNAという未知の設計図。その中に人類のまだ見ぬ可能性があると確信したゼクトは、DNA情報のオンオフ化、つまりDNAメチル化の研究を行っていたの」


 人間が普段使っている能力は5%に満たないと言われている。確かに残り95%を意図的に解放出来れば、新人類の誕生となるけど……。


『その研究によって生み出されたのが、マリンのような超能力者ってわけだね』


「そういうこと。ただ、この研究には欠点があったの。作られた超能力者が成長してみないと、超能力が使える子なのか成果がわからないところね」


 それで何十年、何百年も研究にかかったのか。膨大なデータとその研究を受け継ぐ人、安定的な施設の運用が出来なければ1300年もの間、研究を続ける事なんて出来ない。


「特に私の姉のシルリアは、過去最高の能力者だったわ」


『どうして第七セクターがメタリアルに襲撃それたの?』


「今朝の事よ。シルリアが突然、セクター内に大量のメタリアルをテレポートさせたの」


『え……』


「セクターの中は、応戦する人や逃げ惑う人で大混乱だったわ。私はジュドーと外へ逃げたところを、ゼロハチに助けてもらったってわけ」


 シルリアは、なんでそんなことをしたんだろう。少し考えてみたけどボクにわかるわけなかった。


 それにしても、ボクが眠ってる間に本当にいろんな事があったみたいだ。メタリアルのハッキングや軍事利用。

 人間同士の戦争が終わっても、命令を受けたメタリアルはその攻撃をやめず廃墟となった世界……。


 とりあえず今ボクに出来る事は、暴走してるメタリアルを全て止めて、生き残ってる人間を保護することだ。


『……あの、今の話をボクにしたって事は、やって欲しい事があるんですよね?』


 イレーナがずいっと身を乗り出した。


「ふ、察しが良くて助かるよ。本当に君は優秀だ。分解して中身を見てみたいくらいだな」


『勘弁してください……』


 目が本気だ……。


「ふふ、冗談だ。それはそうと我々も第七セクターへ救助へ行きたいのは山々だが……。ここの防衛を薄くするわけにはいかない。ゼロハチ、君には第七セクターの生き残りの救助を頼みたい」


 そういうことか。

 正直、ボクがここにいても役に立てることはない。

 ボクがあちこち走り回って生き残りを救助しつつ、敵性メタリアルを見つけたら倒す。それがボクに求められている使命なんだ。


『わかりました! ボクがみてきます!』


「助かるよ。よし。ジュドーはその右手の修理だ。マリン、お前はここからゼロハチに第七セクターの内部について指示を出してくれ」


 ジュドーはやはり右手が機械の腕だったらしい。義手で銃を撃っていた事から、神経節まで接続しているんだろうか。ボクの時代にはなかった技術だ。


「ゼロハチ」


 イレーナが小さな丸い部品を投げてきた。


「外に停めてあるエアバイクの起動デバイスだ。使え」


『ありがとうございます! すぐに向かいます!』


 救助に向かうなら早いほうがいい。救助は時間との勝負だといつの時代でも決まっている。


「エアバイクの後部には救助者用の薬や食料が入っているから、要救助者を見つけ次第渡してくれ」


『はい!』


 元気よく返事をすると、ボクはマントを羽織ったまま、ロレア極東支部を飛び出した。

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