data008...創設者
「ゼロハチ。見えてきたわ、あれよ」
ボクの超望遠レンズでも見えない距離にある木の生えたビルをマリンが見つけた。超能力とは、なんとも便利なのだろうか。
『うーん。全然見えないよ』
「マリンの千里眼は、数キロ先まで見通すからな」
目を覚ましたマリンは、ボクとジュドーが少し仲良くなっていた事に対して上機嫌だった。
「マリン、近くにメタリアルはいるか?」
ジュドーが銃を構えてマリンに聞くが、マリンは首を横に振った。
「ううん、いないみたい。この辺はロレアの部隊が定期的に掃除してると思うし」
ロレアというのは、ロボット・レジスタンス・アーミーの略で、メタリアル達が殺人を犯した後、政府により発足された軍隊だ。
ロレアは世界中に拠点を持つ巨大な組織で、世界が荒廃した後も人間のためにメタリアルと戦っているらしい。
『ここが極東支部ですか? 思ったより小さいですね』
ビルの上に木が生えているというから、屋上緑化している結構背の高いビルをイメージしていたけど、実際には二階建てのビルだった。
いや、2階以上が崩落したビルだった。
『ロレアって、どれくらいの規模なんですか?』
「確か、極東支部は二十名ほどが在籍していると聞いたことがある」
ボクの背中に乗ったマリンが身を乗り出した。
「ロレアの主な活動は、メタリアルの破壊なんだけど、実はそれよりも重要な事があるの。それは、野菜などの耕作や医療行為など、その役割は多岐に渡るわ」
『ロレアって、この世界の要的な存在なんだね。マリンとジュドーは偉いなぁ』
「あぁ、違うわよ。私たちはロレアのメンバーではないわ」
少し歩きたいわ。と言ってマリンがボクの背中から降りた。何かあった時のために、ボクが先頭で後ろに二人が付いたまま歩く。
『あれ? マリン達は、東京第七セクターって……』
「私たちは、株式会社ゼクトの社員よ」
『え?!』
びっくりした……。だって、ゼクトは……。
始まりのメタリアルを作った会社だからだ。これはボクのデータにもある。
2200年代。当時としては、オーバーテクノロジーと言っても良いレベルのメタリアルの発表は、世界を沸かした。
株式会社ゼクトのCEOであるゲーニットは、科学者でもあり経営者でもあった。若いうちに手に入れた金を使い、自ら開発したメタリアルを自社製品として世界に発売した。
瞬く間に世界にメタリアルは広がった。それと同時に、世界中の人間がその技術の解析に挑んだが、ゲーニットの構築したメタリアルのプログラムのプロテクトを、誰も解くことが出来なかった。
あの時までは……。
「まぁ、第七セクターって言っても、他のセクターは大昔に破壊されちゃってるし、うちも破壊されちゃったけどね」
『え、破壊されちゃったの?』
ボクが足を止めて二人を振り向くと、それに合わせて二人も足を止めた。
「そうよ。だからジュドーと二人でロレアに保護を求めて逃げていたんだから」
『1300年近く無事だったのに、どうして……』
ボクの言葉を受けてマリンの表情に影が落ちると、代わりにジュドーが話を続けてくれた。
「東京第七セクターには、他の研究所には無い特殊な防衛システムがあったんだ。だが、それも裏切り者に破壊されちまった」
『裏切り者……? その人には何の得があるの? こんな世界なら、力を合わせないと生きていけないのに……』
「それは……」
マリンが低いトーンで何かを喋ろうとした時だった。視線を上げたマリンが、ボクの背後を見て目を見開くと悲鳴に近い声を上げた。
「ゼロハチ避けて!」
『が……!? ぐ……!』
突然ボクの身体にワイヤーのような物が巻かれると、高電圧の電気がボクの身体を襲った。
自立歩行機能も誤作動を起こし立っていられず、膝をつき手で支える事も出来ず、ボクはその場に崩れ落ちた。
「ロレア! ゼロハチは仲間よ! やめて!!」
『……マリ……ン』
ボクのシステムは強制的にシャットダウンしてしまい。そこで記憶は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます