data007...悲しい世界


 エネルギーが貯まったボクらは、ロレア支部があるという廃墟に向けて歩きだした。


 ボクが二人を抱えて走るよって提案したんだけど、ジュドーに却下された。ボクの背中にマリンが乗って、ジュドーはボクが両手で抱えるって説明が良くなかったのかもしれない。


『人間対メタリアルの戦争の起源、ですか?』


 話しながらこの世界に起きた出来事についてジュドーに聞いていると、いくつかの真実がわかってきた。


「ああ、俺の知ってる話だと。事の発端になったのは、2240年の終わりらしい。人間のために作られたメタリアル達が一斉に反乱を起こした」


『え? 2240年? ボクは2250年製なので既に産まれていますね……。でも取り込んだデータにはそんな話どこにも……。あ』


 よくみたらボクにインプットされているデータは、2230年で止まっている。それは知らないはずだ……。


『メタリアルと人間の戦争って、ロボット三原則はどうなったんです?』


 ロボット三原則とは、その名の通りロボットに課せられたルールであり、全部で三つある。


・第一原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」


・第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」


・第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」


 つまりロボットは、人間に危害を加えることが出来ないはずだ。また危害を加える命令も受け付けない。それがなぜ、率先して人間を襲うようになってしまったのか。


「当時の調査結果によると、ある一体のメタリアルの異常行動が始まりだとされている」


『異常行動ですか?』


「ああ……。そのメタリアルは、突然ビルの屋上から飛び降りて、自殺したんだ」


『ロボットが自殺?!』


 そんなバカな話は聞いたこともない。そもそも、そんなプログラムをするわけがないし、搭載されているAIは無駄な事を嫌うはずだ。自殺なんて意味のない行動をなんで……。


「それからは、年々少しづつ自殺するメタリアルが増えた。最初は一年に一体だったのが、二年に三体。三年目には十体とどんどん増えていった」


『そうか……。ロボット三原則の三っつ目』


・第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」


「そうだ。恐らく何かが原因で、第三番目の原則が解除されたメタリアルが現れ始めた。ただ、その頃にはもう手遅れだった」


『手遅れ?』


「ああ、当時の記事によるとメタリアルによる強盗が頻発。町中の店という店が荒らされた」


 そうか。二つ目の原則も解除されてしまったんだ。


・第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」


 第二原則があるメタリアルは、例え強盗を命令されて犯行に及んでも、銀行の人がやめろと言えばやめるしかない。しかし、第二原則が無いメタリアルは、人間の言うことを聞かないため、容易に銀行強盗ができてしまう。


「恐らく、原因はハッカー集団によるメタリアルの改造だろう。その頃の記事を読むと、巷では違法改造したメタリアルファイトという、メタリアル同士の賭け事が人気だったらしい」


 人間の暮らしをより良くするためのメタリアルが、人間を楽しませるための道具として使われるなんて……。


「ところで、ゼロハチ。マリンは寝たか?」


『え? あー、そうだね。寝ちゃったよ』


 マリンの話によると超能力を使うと酷く体力を消耗するらしい。ボクの背中でぐっすり眠っている。


『あれ? ジュドー、いまゼロハチって呼んだ?』


「呼んでない」


『え? 呼んだよね? ログデータにあるよ?』


「うるさいぞ。話の続きだ」


 ジュドーは話をはぐらかした。でもボクの会話ログに残ってるし、センサーは誤魔化せない。ジュドーの頬の温度が上がっている。


 きっとメタリアルの違法改造の話を聞いて落ち込んでいたボクを、気遣ってくれたのかもしれない。


「で、なんだったか。ああ、そうだ。第二原則まで外されたって話だな。お前の想像通りだ、どこかのバカが第一原則まで外してしまった」


『それって……』


「メタリアルによる殺人事件が起きてしまった。この瞬間、メタリアルは人間を助けるロボットではなく、人間を殺せるロボットになっちまった」


 第一原則が外れたとなると、メタリアルに殺人をさせたい人が出てくるのは自然の流れだ。そしてその大きな流れは、動き出したら止められない。


「そうだ。人間は……」


『戦争にメタリアルを使ったのか……』


 皮肉なことに、世界がこれだけ荒廃してもメタリアルは動き続ける。人間の命令によって、人間を殺すために……。


 ボクはロボットだ。心なんてものはない。


 でも話を聞いて、どうしようもなく悲しくて、悔しい気持ちになった。

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